1401話 朝の一幕

アレクによるシムの再教育が終わり、私達は朝食の時間を満喫している。


「夕食も満足いくものだったけど、朝食もさっぱりと美味しいわね。」


「そうだね。特に柑橘系のジュースはいいね。朝から爽やかな気分になるよね。」


朝食メニューは柔らかく焼かれた白いパンにオニオン系スープ。ピクルス的な漬物にカリッと焼かれた干し肉だった。そこに並べられた数種類の飲み物の中にあった柑橘系、多分オラカンをメインとしたミックスジュースが私の中でホームランだったのだ。これはうまい。


「ピュイピュイ」


コーちゃんはこれに酒を混ぜて欲しいと言っているが、それは夜のお楽しみにしておこうじゃないか。


「ガウガウ」


カムイは干し肉のお代わりね。それぐらいなら構わんだろう。


「ご、ごちそうさまでした!」


おっ、偉いね。よく言えた。さて、昨日の小男が来るまでまだ時間があるんだよな。予定では昼まで寝るつもりだったんだから。


ちなみに昨夜、宿の者にあいつの紹介だって言うのを忘れていたので先ほど伝えた。私は約束は守るタイプだからな。


「よしアレク。僕らも軽く稽古していようか。」


「いいわね。あっ、それなら私は魔力感誘の稽古がしたいわ。手伝ってくれる?」


「うんいいよ。あれは難しいもんね。」


相変わらず私は魔力感誘ができない。アレクの方が余程上達しているだろう。そのアレクにしてもあの時の姉上や、普段の母上には遠く及ばないんだから魔法技術ってのは奥が深いもんだよなぁ……


「み、見てていいですか!?」


「いいわよ。参考になさい。」


別のところを凝視してんじゃないぞ? 寝巻きのままのアレクはケイダスコットンのワンピース一枚しか着てないんだから。透けることこそないものの、十代前半の子供には刺激が強すぎるぜ……悪い子だ。


着替えて庭へ。アレクは動きやすそうな服装に着替えている。魔法学校の運動着かな? 私の道着、麻の上下よりはフォーマルっぽいな。


「じゃあ行くよ。」『氷弾ひだん


アレクの左肩を狙った氷の弾丸は、その軌道をわずかに逸らし、アレクに命中することはなかった。


「いい感じだね。だんだん強くするからね。」


ちなみに、私は自動追尾を使っていない。それを使わずに命中させられるべく並行して稽古をしているわけだ。もちろん衝撃貫通も使っていない。なお、アレクが逸らした魔法は軌道を変え、上昇するように設定してある。ただ解けて水になるだけの環境に配慮した魔法なのだ。


それから十数分。アレクは私の弾丸を逸らし続けている。


「いい感じだね。じゃあ三発ずついくね!」


「ええ!」


『氷弾』


狙いは両肩と膝。あっ!?


「きゃっ!」


膝を狙った弾の逸らし方が甘く、膝横をえぐってしまった……


「アレク!」


「ま、まだよ! もっとちょうだい!」


「アレク……いくよ!」


同じく三発……狙いは同じ箇所……


ほっ……両肩のは逸らして膝のは自ら避けた。そう。それでいいんだよ。なにも全弾逸らす必要はないんだから。


「もっとよ!」


「よし! いくよ!」


今のアレクが魔力感誘で逸らすことができるのは同時に二発が限界のようだ。しかし、それでもアレクは致命傷だけは避けるように、魔力感誘を使うところと身を躱すところを巧みに使い分けている。素晴らしい。


「よし、じゃあ最後の一発ね。きついのが行くから気をつけてね!」


「ええ!」


狙撃スナイプ


「はあっ!」


おお……右の大腿部の中心を狙ったライフル弾だったが、どうにか肉をえぐる程度で済んでいる。必死に逸らせたようだ。すごいぜアレク。


「よし、ここまでだね。さあこれ飲んで飲んで。」


毎度お馴染み高級ポーションだ。そして傷口にも塗り塗りと。わずかな傷すら残してなるものか。


「はあ……はあ……ふう。カースありがとう。やっぱりカースが撃ち込む魔法は緊張感が違うわね。とてもいい稽古になるわ。」


「そう? それは良かったよ。」


「すっげー! お嬢様すごい! なんで魔法が曲がるんだ、ですか!?」


おお、アレクをきらきらした目で見てるじゃないか。


「簡単に言うと、相手の魔法に自分の魔力を注いで制御を奪うのよ。これが熟練の技ともなると自分の魔力をほとんど使わないままに相手の魔力を支配下におくことができるわ。カースのお母上の得意技ね。」


「ふわぁ……すげえ……そんなことが……じゃ、じゃあ魔力をほとんど使わなくてもできるってことは! 平民でも使えるんか、ですか?」


「理論的には可能ね。でもねシム。お前は魔力の流れなんてものが見える? 私だってまだほとんど見えてないもの。これがしっかり見えるようにならないと無理ね。」


「そんな……」


だいたい私だって見えないんだから。一体母上にはどんな光景が見えてるってんだよ……




それから昼までは各自で稽古をした。私は座禅を組んで錬魔循環をしつつ両方の指から同時に十発の魔法を発動させる。これって点火つけびのような初級魔法ですらかなり難しいんだよな。つーか頭がめっちゃ痛い。だがこれはかなり効果的な稽古だよな。徹甲弾五十連射を息を吐くように撃てたら……我ながら恐ろしいな。がんばろ……


「マーティン様、来客でございます。八耳のヒョージこと、ヒョージ・ファイアフィールドさんです」


「ああ、通して。」


この手の宿はあらかじめ誰々が来るって伝えてないと私のところまで取り次がないんだろうな。


「かしこまりました」


それにしても、なんだよあいつ……苗字ファイアフィールドって言うのか。かっこいい……生意気な。

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