1391話 カドーデラと祖父

結局ヒチベを含むユメヤ商会の面々と一緒にしばらく飲んでいた。

そこに濡れた目をしてやって来たアレク。顔を見れば分かる。私が欲しくてしょうがないって表情だ。さては惚気話をしてたら我慢できなくなったな? だから当然のようにヒチベ達など放っておいて宿に戻った。ここからはアレクと二人だけの時間だ。時を忘れて二人きり。





ふぅ……





「ねぇカースぅ……」


「ん? なんだい?」


「明日にはもうヤチロを出発するの……?」


「うん。もう用もないことだし、明日起きたら出発かな。」


「じゃあ次はテンモカね。オワダからここに来るよりだいぶ近いそうよ……」


「調べておいてくれたの? ありがとね。」


「イロハ達とお喋りしてただけ。あの子達の借金もなくなったことだし、ヤチロに心残りもないわね。」


「そうだね。すっかり物見遊山ぽくなくなっちゃったけど知らない街って歩くだけでも楽しいしね。テンモカも楽しっ……ん……」


アレクに口を塞がれた。休憩は終わりってわけだな。まったくアレクったら……









「…………ピュイピュイ……」

「…………ガウガウ……」


うぅん……コーちゃんにカムイ……いつ帰ってきてたんだい……ふあぁーあ……朝か……どうせなら昼まで寝ていたかったけど……腹がへったのね。何か頼むとしようか……




「魔王様、お客さんがいらしてます。蔓喰のカドーデラさんです。通しますか?」


びっくりした。客室係の奴、めっちゃいいタイミングで入って来やがったな。


「いや、出るよ。それから朝食を四人前頼むな。」


「かしこまりました」


さてと、カドーデラの奴はこんな朝から何の用なんだろうね。送別会の相談かな?




「おはようございやす魔王さん。朝からすまねぇこって。」


「おはよ。何か用か?」


「へぇ。ちぃとお聞きしてぇことがありやして。ちょっくら場所ところぉ変えてお話しさせていただけやせんか?」


「ちょっとだけな。」


「ありがとうごぜぇやす。」


何だよ……もったいぶりやがって。




歩くこと三分。宿から少し離れた空き地にやってきた。


「魔王さん……正直に聞かせちゃいただけやせんか? あんた……ここ一月ひとつきの間に街道で年寄りを殺しやせんでしたか?」


「街道で年寄り? いや、覚えがないが?」


私が年寄りを殺すなんて酷い真似するわけないだろ。


「本当ですかい? 魔王さんのことだ……虫けら同然に盗っ人を始末したってことがあったりしやせんか?」


「盗っ人……あ! 思い出した。確かにカゲキョーからここに来る時に毒を盛って殺そうとしてきたジジイを始末したな。で、それが?」


いや、痺れ薬って話だったっけ?


「その年寄りですが、出身の村を言いやせんでしたかい?」


「あー、そこより南って言ってた気がするが名前までは覚えてないな。」


そもそもジジイの名前すら聞いてないよな?


「そうですかい……知らざぁ教えてさしあげやしょうかい……そのジジイの出身は今ぁもう廃村になったヒナグマゴ村でさぁ……そして名前を……」


「なんだと……」


身内か……


「セリーバロ・タカマチってんでさぁ。村、そして両親……友人……全てを失ったアタシを育ててくれた……近所のジジイでさあ!」


「近所の? 実の祖父じゃないってことか?」


「へぇ……アタシぁ小さかったもんで覚えておりゃせんがね? セリじいはアタシの祖父に恩を受けたそうで……まあそんなことはどうでもいいんでさぁ……魔王さん……アンタに恨みぁねぇが! たった一人の身内の仇! らせていただきやす!」


「分かった。そっちに筋がないと分かった上で……だな?」


「当たりぇでしょお……むしろよく今まで生きてこれたもんで……いくらアタシが面倒見るって言っても……闇ギルドなんぞの世話になるかぁ! って耳も貸さないんでさぁ……

それでも月に一度だけ……アタシに土産を渡しにくるんでさぁ……街外れの廃屋に泥に塗れたハシタ金を……一時間の遊び代にもならねぇ金を……年寄りが命ぃ削って稼いだ金を……これで飯でも食えってねぇ……」


うーん……正論で言い負かしてやりたい……

でも、カドーデラの気持ちを考えるとそれも悪いな……二人仲良く生きる道はいくらでもあっただろうに。まあカドーデラだってそれぐらい分かってて私に決闘を挑んできてるんだもんな。


「分かった。納得した。詫びる気はないが勝負を受けよう。」


「感謝しやすぜ……それからこいつぁお返ししやす。いくらなんでも魔王さんから貰った刃を向けるわけにぁいきませんや……」


頭を下げ、両手で恭しく刀を持ち上げている。


「どうぞ。お受け取りくだせぇ……」


この野郎……その挑発、乗ってやるよ……


カドーデラに近寄り刀の中央あたりを右手で掴む。ゆっくりと。カドーデラは微動だにしない。すり足で後ろに下がる私。


「魔王さんにそんだけ警戒していただけるたぁアタシも出世したもんでさぁ。ですがね? ただでさえ筋違いのことぉやってんでさぁ。これ以上筋の通らねぇこたぁできねぇんでさぁ……さあて、アタシの武器ぁこれですぜ!」


「いい刀だ……」


「人斬り稼業の裏稼業! いきつく先は闇の中! たった一振り刃を頼り! 男一匹カドーデラ! 人生最期の大舞台! 魔王さん、あんたを相手に……踊りきってご覧にいれやしょう!」


こんな時にまで……死なせたくない男だな……


「来い……」


まともに打ち合って相手になるとは思わないが、せめて魔法なしで相手してやるよ……

全く……私は一体何をやってるんだか……

こんなことだから母上に甘いって言われるんだよな……分かってはいるんだが……

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