1392話 決闘の行方







「ふぅ、はぁ……魔王さん……アンタぁとんでもねぇ装備ぃ身につけてなさるねぇ……」


わずか三分で私の上半身は傷だらけになっていた。正確には両腕や肩周り、そして首から上が。後先考えない嵐のような猛攻を前に私は不動を構え、防戦一方だったのだから。


「しかもどんだけお人好しなんですかぃ……どうして魔法を使わねぇんで……」


「使いたくないからだよ……それより、魔法を使ってない俺ごときに苦戦するって人斬りの名が泣くぞ? 本気で来いや!」


私らしくもない……何言ってんだ?


「とっくに本気ですぜ……魔王さん……あんたの防御が固すぎるんでさぁ……アタシの愛刀がこぉんなに刃こぼれしちまった……」


「なら、やめるか?」


「ご冗談を……一度抜いたら血を見るまでは、引けぬ男の空意気地からいくじ……ってやつでさぁ……アタシの愛刀センゴムラのカネサダもそう言ってやすぜ……」


「センゴムラ……ヒイズルの名工か?」


どこかで聞いた記憶があるぞ。


「よくご存知で。ふ……斬りも斬ったり数百人……最期の相手が魔王さん、あんたでよかったでさぁ……お命頂戴!」


「来い!」


めちゃくちゃだ……たぶんこいつは剣法を知らない。きっと実戦だけでここまで鍛え上げてきたんだろうな。頭を狙ったかと思えば足、足を狙ったかと思えば股間。突き、と見せかけて蹴り。蹴った足でそのまま踏み込んだかと思えば斬り上げてくる。予想がつかない……斬り上げてガラ空きになった脇腹をぶっ叩いてやろうかと思えば地面を転がるようにして逃げやがる。どんなに無様でもいい、生き残れば勝ちだと、こいつはきっちり分かってやがるのか。


「ふぅ……はぁ……ローランドにゃあ剣の達人がいなさるんで?」


「ああ……お前じゃ一瞬で斬り捨てられるほどの達人がな……無駄口叩いてないでさっさと来いや!」


余裕かましてんじゃないぞ?


「いやね、魔王さん。あんたのその右腕、えらく痛そうですぜ? どうやらアタシが斬ったせいじゃなさそうでさぁなぁ?」


「それがどうした? 来ないならこっちから行くぞ?」


と言っても右手の筋肉痛が酷すぎて不動を握るのが精一杯なんだよな。漁師の手をぶち折るほどの身体強化をかけてしまったからな。我ながら何やってんだか……


「いいや……アタシからいきますぜ……魔王さん……あんたに手番は渡さねぇ……そのまま死んでもらいやす! ひいやあぁぁぁぁぁ!」


刀を大きく振り上げて、一撃に全てを込めたかのような気迫で襲いかかってくる。隙だらけだ……


螺旋貫通峰らせんかんつうほう!」


気合を入れるために叫んだだけの……ただの突きは、カドーデラの脇腹を貫き……くっ、そのまま迫ってきやがった!?


「もらったぁ!」


とっさに不動から手を離し両手を頭上で交差し受け止めた……が!


「隙だらけぇ!」


刀の勢いに押しつぶされ地に膝をついた私の顔面に、奴の膝が!


「ぐっ……くそ、痛えな……」


「まだまだぁ!」


鼻面直撃だけは避けたものの……たぶん頬骨が折れたか……痛すぎる……くそ……

地べたを転がる私に刀を逆手に持ち上から突き刺さんとするカドーデラ……とりあえず距離を取っ……


「逃がすかぁ!」


「逃げねぇよ!」


距離などとらん! 芋虫のように転がってカドーデラの脛にぶち当たる。刀を振り上げていたために重心が上がってたか? 一瞬ふらついた! 今だ!

奴の腹に刺さったままの不動を握り……強く引けば……


「抜かせん! やるならやれぇ!」


くっ、カドーデラを引き寄せただけか! くそ重い不動を腹に抱えたままなのに何て動きだ……


「もらったぁ!」


打ち下ろし……無防備な頭に……刀が……


くらうかよ!


わずかに身を捻り、奴の刀は私の左肩をしたたかに打ちつけた。切り傷にはならなくても私の体は地面へと縫いつけられた……


「はぁーー……はぁーー……これだけ斬りつけても……その上着は無傷ですかぃ……」


「ドラゴンの装備だからな……」


体を反転させ、仰向けに横たわる私に話しかけてきた。余裕こいてんのか? くっそ……痛ぇな……


「立っておくんなせぇ……倒れた相手にとどめを刺したくないんでさぁ……ぐふっ……」


バカが……さっきは狙ったくせに……


「待たせたな……」


「ぐっ、うっ……ぐおおっおおおお!」


不動を抜きやがったか。そして……放り投げた。さすがに私に渡すほど甘くはないか。


「魔王さぁん……最後でさぁ……額を地面に擦り付けて……セリじいの魂の安寧を願ってくれるんなら……命だけぁ助けやすぜ……」


謝罪じゃなく安寧を祈れときたか……それぐらいならお安い御用……だがな……


「無理だな……お前は俺を許そうなんて思ってない。今この時、どちらかが死ぬまで終わらないと分かってるくせに……そんなに隙を作りたいなら俺が起きるまで待つんじゃねぇよ……」


「へっ……魔王さんを口車に乗せてみたかったんでさぁ……そうすりゃアタシは、魔王さんに知恵でも勝ったことになりやすからねぇ……」


バカが……


「最後だ……聞かせろよ。なぜ今日まで俺を狙わなかった? 祭りの時なんかでもいくらでも機はあっただろう?」


今日出発するから今日しかないってのは分からんでもないが……


「くくっ、あるわけねぇでしょうが……コーの兄貴にカムイの兄貴ぁいるし、おまけに魔王さんの体ぁ得体の知れねぇ魔力で覆われてるときたもんだ。どこに隙があるってんですかい……」


自動防御だよ。さすがに気付いてたか。


「お前の探しようが甘いんだよ……ムラサキメタリックの刀だってあったくせによ……」


「貰った刃で刺すほど落ちぶれちゃいやせんや……あんたほどのお人を殺すのに、正面から正々堂々いかねぇで誰に誇れるってんですかい……」


知らねぇよ……


「もう……やめろ……お前に勝ち目はない……」


「へぇ? 今度は魔王さんの口車ですかい? ぞっとしませんやなぁ……」


「愛刀なんだろ……大事にしてやれ……」


「愛刀だからこそ……死ぬ時ぁ一緒なんでさぁ……さあ、無駄話はやめやしょうぜ……今度こそ、最後でさぁ……」


「バカが……」


バカの一つ覚えのように上段から振り下ろす剣筋。いくら全身全霊の気迫を込めても……その刀はもう……

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