1390話 カースとヒチベ・ユメヤ
それから、吟遊詩人が現れたり裸踊りが始まったりと宴はかなり盛り上がった。それどころか日が沈んでも熱狂は続いていたので光源を使っておいた。二回戦の開始といこうか。
「な、なんだこの明るさ……」
「魔王様の魔法らしいぜ……」
「魔王様ってあいつだろ? マジで……?」
ぬふふ。驚いてるな? 私にかかれば街一つを昼にすることぐらい容易いのさ。光源はあんまり魔力を食わないしね。
「きゃー魔王様ぁー!」
「魔王様こっちで飲みましょうよー!」
「おしゃれな服装されてますね! かっこいいー!」
魔法を使ったせいで私が魔王だとバレてしまったか。二十歳前後の女の子達に囲まれてしまった。まあ酒を飲むだけなら問題ないさ。
「ねぇーえー、魔王様ってどんな女がタイプなんですかぁ?」
「ローランドでモテる女の子ってどんな感じなんですぅ?」
「それがローランドの服装なんですよね! かっこいいー!」
タイプか。そうだな……
「髪は輝く金髪で目はぱっちりと大きく強い意志を感じる。口からは決して弱音を吐かずにいつも前向きで……胸ははち切れんばかりに大きく張りがあるのに、腰はくびれて抱きしめると折れないのかと心配になる。そうかと思えばその下は丸みを帯びて柔らかく、いつまでも撫でていたくなる尻。そこからすらりと伸びた白い脚はローランド王国に二人といないほどの美しさを誇る。アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル、つまりアレクこそが理想の女性と言えるな。分かるか?」
あれ? 聞かれたから答えたのにいなくなってる。まったくもう。せっかく答えてやったのに。まあいいや。酒はあるし。ぐびり、旨い。
「魔王様、楽しんでいるようだな。」
「おうヒチベ。楽しんでるぞ。それより大丈夫なのか? 半年で天王が攻めてくるって話だったが。」
「ヤチロの畳はヒイズルの中でも高値で売れる方だからな。天王としてはこの街を野放しにはするまいよ……」
「勝てるのか? いや、守り切れるのか?」
「幸いなことに魔王様がくれた目付け役タチカワリの金庫に使えそうなものがあった。どうにか上手く使って天王と交渉してみるさ。戦って勝ち目はないからな。」
「へー、それはよかったな。がんばれ。」
「中身が何か聞かないのか?」
「いや、興味ないから。まあ俺も天王にはムカついてるし、もしかしたらここに攻めてこれなくなるかも知れないな。ああそうだ。もし赤兜と戦うことになったら解呪してみな。あいつら天王に洗脳されてるからな。」
解呪した方がなおタチが悪いってこともあり得るが。
「なんと……天王ジュダはそのようなことまで……はっ! もしやその力で天王の座を簒奪したのでは!?」
あー、なるほど。言われてみればあれだけ大勢の騎士を洗脳できるぐらいなんだから天王一家を操るぐらい簡単なのかもな。洗脳の力で一国の王にまで成り上がったってのか。なかなかやるなぁ……
しかしそこで満足しておけば良かったものを、ローランド王国にまで手を出そうとしたのは見過ごせないな。天都イカルガに行く日が楽しみだ。
「この話は内緒な。こっちが気付いてるってことを知られたくないからな。」
もっとも、カゲキョーの赤兜どもを解呪した時点でバレてるかも知れないが。
「心得た。ああそうだ、ついでに報告しておこう。クラヤ商会だが無事に引き継ぎが終わった。今後はユメヤ商会と合わせてうちの息子オリベとヤヨイ夫婦が仕切ることになる。そして将来的には統合だな。よってあそこの長男と二男はもう用無しだ。」
「ふーん、そいつらはどうなるんだ?」
「まず長男夫婦だがこちらに恭順を示してきた。だから下働きとして
「へー、意外だな。」
素直に働くものなのか?
「長男オキノブは父親の言いなりだからな。働けと言えばいつまでも働き、休めと言えば休み続けるような男だからな。こちらとしては使いやすい人材と言える。」
「ほほぅ、殺すだけが能じゃないもんな。」
「そして二男のオキマジだが使いものにならないので殺しておいた。」
「うおぉい!」
「あいつはどうしようもない遊び人だからな。生かしておいても足を引っ張るだけだ。妻のアユカには適当な仕事を与えておいた。どうにか子育てもできるだろう。」
「ふーん、そんなものか。いや別に報告なんかしなくていいんだけどな。」
「我らは魔王様の配下だからな。これぐらい報告させてくれ。それに……天王が攻めてこれなくなるよう期待している。いいだろう?」
「期待するのは自由さ。お前こそローランド人保護の件、頼むぜ?」
「もちろんだ。幸い、と言っていいか分からんがヤチロにはローランド人奴隷はいない。最も多いのは天都イカルガ、次いでクマーノかトツカワムだろうな。それにテンモカにも相当数いるはずだ。」
「テンモカか。歓楽街って話だったな……」
そんな街に奴隷として売られてしまったら……どんな目に遭うか見えてしまうな……くそがぁ……
「アラカワ家が支配する土地だ。天王フルカワ家に比べれば大した勢力ではないが、それでも古豪だ。気をつけてくれ。」
「ああ。ありがとよ。さ、つまらん話はここまでだ。飲もうぜ?」
「ああ、魔王様に乾杯。」
「ヤチロの明日に乾杯。」
なんで私はこんなおっさんと二人で仲良く飲んでるんだ?
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