1389話 アレクサンドリーネは惚気る
「魔王様、面白そうなことをしていたな?」
ヒチベめ、見てたのか。魔力に敏感な奴なら私の小細工に気付いただろうな。
「もうやんないぞ。あんなに終わった後の計算が面倒だとは思わなかったからな。」
「いや、驚いた。商人の我らより計算が早く正確ではないか。ローランドでは当たり前なのか?」
「いや、俺が早い方ってだけかな。でもみんな計算ぐらい普通にできるぞ。」
学校で習うからね。それに足し算しかしてないし。面倒くさがらず紙にでも書けば誰でも正確にできるだろうさ。
「そうか……ローランド王国は進んでいるのだな……」
そうでもないぞ? でもヒイズルよりは多少はね?
「それより商人は普段何して遊んでんだ?」
「普段か……香合わせを競ったり茶会を催したりだな。酒も嫌いではないが、やはり茶の湯はいいものだ。また楽しめる日々が来るといいのだが……」
おお……意外に高尚な趣味を……ところで香合わせって何だ?
「げっへっへぇ! ほらほらもっと飲めぇよぉ!」
「いやだもぉケンちゃんたらぁ!」
「もぉーケンちゃんのエッチ!」
「わたし飲むぅ!」
ん? 蔓喰のボスか。こいついっつも飲んでるな。この女達もどこから来たんだ? こっちは上品な話をしてたってのに。
「お前魔王って言うんだってな。おかげで無職になっちまったぜ?」
「ん? おお、お前は目付けのところの料理人か。あん時はうまかったぜ。ありがとな。」
次から次へ色んな奴が現れるなぁ。
「けっ、おらぁ! これも食えや!」
職を失って荒れてるわけじゃないのか。あっ、トンカツもどき? おお、旨い。
「オーク肉を卵と小麦粉で包んで揚げたのか。旨いぜ。やっぱりいい腕してんな。おーいヒチベ、こいつ無職だってよ。使ってやったら?」
「ん? おお、フライタじゃないか。久しいな。お前が無職とはどうしたことだ?」
「ヒチベか。お目付け役の所で料理人をしてたからな。お前が新しい領主なんだろ? 職をよこせや」
へー。知り合いか。あーこの料理人は貧民街出身って言ってたもんな。積もる話もあるだろうから放っておこう。
「さあさあ! どちらさんも張った張ったぁ! 張って悪いは領主の頭! だぁがそんな領主はもういない! 張った張った! さあさ、よろしゅうござんすか? 入りやすぜ!」
カドーデラは丁半博打の壺振りやってやがる。人斬りじゃないのか? 営業熱心だねぇ。私は手本引きがいいなぁ。あんまり強くないけどさ。
それよりアレクはどこだ?
「だからね! カースってね! 最高の男なの! 聞いてるの!? あなたもそう思うでしょ! 違う!? 間違いないの! え? ローランド王国でカースよりカッコいい男? そんなのいな……フェルナンド先生しかいないわ! あの方は別格だから数に入れないの! だからカースが最高にカッコいいんだから!」
アレクの周りを囲むのは看板娘と同年代の女の子たちだ。ガールズトークしてるのかな。
「さすがお嬢様!」
「魔王様ってすごい!」
「それよりフェルナンド先生ですか? すっごく気になります!」
「そんなにカッコいいんですか!?」
「どんな方なんですか!?」
「カースはね! 先代の国王陛下や王妃様にも可愛がられているの! だって王都を救った英雄なのよ! いや! 王都だけじゃないわ! 私達のフランティア領都だって救った男なの! 国に二人といない英雄よ! いや! きっと勇者ムラサキより凄いに違いないわ! 最高の男なのよ! フェルナンド先生は凄い方よ! 凄すぎてよく分からないわ!」
アレクはかなりハイになってるなぁ。酔ってるせいもあるか。そんな所もかわいいなぁ。
「そんな魔王様とはどこで出会われたんですか?」
「あらイロハ。いい質問ね。じっくり話してあげるわ。それは今を遡ること十一年前。私とカースは出会ったの。春の風吹くクタナツの街でね。あの頃の私はクタナツに来て間もない頃で誰も友達がいなかったわ。そもそも私はアレクサンドル家なものだから………………」
アレクがこの話を始めると長いんだよな。軽く二時間コースってとこだろうか。酔ったアレクってかわいいんだよなぁ。
「そしてカースは言ったのよ! お前ら皆殺しだ……って! 信じられないぐらいカッコ良かったわよ! あんなギリギリでカースが来てくれるなんて! 頭がどうにかなりそうなぐらい嬉しかったんだから!」
カスカジーニ山で襲われた時かな。あの時の私は魔法が使えなかったんだよな。姉上とカムイで皆殺しにしてくれたんだった。懐かしいなぁ。もう少し聞いていたいけど、私もまだ飲みたいしな。あっちに行こう。まだまだ飲みたいぜ。今日はめでたいお祭りだからな。一般市民に紛れて飲むのもいいだろう。かんぱい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます