1387話 余興とゲーム

大きく手を振り私を呼ぶグンチク。何だろう? とりあえず行ってみるか。おっと、杯を忘れずに。くぅー、朝から飲む焼酎は沁みるぜ。えーっと『たまみがき』って言ったかな。


「何が始まるんだ?」


「『かいな比べ』よぉ。おめぇも参加してみっか?」


かいなくらべ?


「何を比べるんだ?」


「まあ見てみな? 用意はいいな? 持て! 始め!」


「ふぬぅらぁぁ!」

「うらぁぁ!」


あ、腕相撲か。おーおー、こいつらは漁師かな。ごっつい腕しちゃって。私の細腕でどうやって勝てってんだよ。


「よっしゃあ! 俺の勝ちぃ!」

「ちっ! ほらよぉ!」


あー、金賭けてんのね。


「どうよ? 魔王の腕力がどれほどのもんかみんな興味津々なんだぜ?」


視線の半分は懐疑だけどね。魔王って言ってもどうせ名前だけだろ? その腕で強いわけがないだろ? って感じだな。


「やめとけやめとけぇ。そぉーんな細ぇ腕でやったらぽっきり折れちまうぜぇ?」

「ぎゃははぁ! そりゃそうだぁ! グンチクも無茶言うもんじゃねぇって!」

「俺でも勝てるぜぇ!」


ふーん。敢えて煽って勝負させようとしてんな? そんなに金を賭けて欲しいってのか。まあいい。これもお祭りだ。


「何かルールはあんのか?」


「いや、特にないな。手の甲が机に着いたら負けってぐらいだなぁ」


「分かった。やってみる。そっちのお前、やるか? 賭け金はお前の好きな金額でいいぞ。」


「ほほぉ? いい度胸してんぜぇ! よっしゃ! そんなら十二万ナラーだ! いいな?」


中途半端な金額だなぁ……


「まあ、いいけどさ……」


「じゃあ双方賭け金を出しな。俺が預かるぜ?」


なるほど。そういうルールか。勝った方の総取りね。当たり前か。


先ほど俺でも勝てるって言った奴を指名してみた。別段弱そうには見えないけどな。


「用意!」


向かい合って腕を握る。


「持て!」


私の手が強く握られた。朝から汗臭いことだ。


「始め!」


「ぎゃんごぉあーーーー!」


終わりだ。


「この場合はどうなるんだ?」


ふふふ、少し大人げないことをしてしまったぜ。身体強化の魔法を使い、あいつの手を握り潰してやった。こりゃあまたしばらく筋肉痛が酷いだろうなぁ……


「ま、魔王の勝ちだ……ほれ、勝ち分だ……」


「そいつにやるよ。治療代にしな。」


治療院って高いもんなぁ。


「お、おお……すまねぇ……後で渡しておく。おい! ソソヒムを治療院に連れてってやれ!」


「わ、分かった! おい立て! 歩けるだろぉが!」

「行くぞ! こんなのは早く行かねーとよぉ!」

「いっ、いぎぃあっ! ま、待てよ……ゆっくり……」


怪我人がこの場を去ると、静かになってしまった。いかんな……盛り下げてしまったか……

よし、それなら何か芸でも……




うーん、あ、できるか分からないけどフェルナンド先生みたいに……


「酔いはすでに回った。ならば、芸を見せてしんぜよう!」


先生の言い方まで真似してみた。とりあえず景気付けにもう一杯ぐびり。


「あぁん? 服脱いでどうした?」


「目隠しするから石を投げてみな。見事当てた奴には賞金出すぜ?」


私はそう言ってオディ兄から貰った鉢金を目隠し代わりに巻いた。この鉢金ってエルダーエボニーエント製なんだよな。最強の鉢金だわ。なーんにも見えない。気配ぐらいなら……だめだ、さっぱり分からん……


「おい、魔王……いいんか? 知らんぞ?」


「おお、一人ずつな。一斉に投げたら誰の石が当たったか分からんだろ?」


「よっしゃいくぜー!」

「おらおらー!」

「バカっ、待てっ!」


グンチクが制止しようとするも奴らは気にせず投げてきたようだ。もちろん私には当たらない。


「なっ、何か魔法使ってやがんな!?」

「卑怯だぞこらぁ!」


「一人ずつだって言ったろ? 一人三個までな。」


もちろん私は通常バージョンの自動防御を使っている。一人ずつ投げてくるのならこっちは解除するが……


「そんなら俺からいくったい!」


「いいぞ。」


イグドラシルの棍、不動を構える。声からして挑戦者までの距離は五から十メイルの間。意外に距離をとってくれて助かるな。


「おらぁ!」


あぶねっ! 肩をかすった!


「ちいっ! 次ぃ!」


不動でどうにか防げた。まぐれだな。


「くそっ!」


ざんねーん。大腿部なら当たっても無傷だ。あれ? この場合は賞金どうしよう? まあいいや。


「おら! そこまでだぁ! 次に代われやぁ!」


グンチクが仕切ってくれてる。こいつって面倒見がいいんだよな。フォルノの所にも案内してくれたし。


「次ぁワイやぁ!」


おおっと、顔をかすった! 私の玉のお肌に傷が付くところだったぜ。くそーやっぱ心眼って難しいな……どうやったら先生の領域まで行けるってんだよ。


「ちっ!」


「次ぃ!」


「俺がいくぜ!」


おっと、後ろからか。振り向きざまに叩き落とした。ギリギリだったな。


「まだまだぁ!」


丁寧に投げる前に合図してくれるから助かるわ。観客だって静かに見物してるから今のところどうにかなってるんだよな。


「次だぁ!」


「よっしゃ! いくぜ!」


来ないぞ? 三個同時に投げたせいで全部変な所に飛んでいったパターンか。バカめ。


「次ぃ!」


「これだから漁師ぁ甘ぇんだよ! 見てろや!」


おや? 漁師ではないのか?


「ばっ、バカやめろ!」


グンチクは苦労人だねぇ。ん? この風を切る音、ナイフか……腕に自信があるんだろうな? だからこそ、少し動くだけで簡単に避けられる。普通狙うのは上半身、その中心。

だから右足を引き半身になるだけで充分だ。


「どうよ? 意外に当たらないもんだろ?」


ナイフ程度だと急所に突き刺さないと意味がないもんな。


「舐めんなぁ!」


「それまでだ!」「いてぇっ!」


ん? どうした? 目隠しを外してみると……


グンチクが冒険者風の男を殴ったようだ。男の背中には抜きかけの剣が。


「わざわざすまんな。助かったわ。どうもこの芸は面白くないな。もっと簡単に参加しやすくて熱くなれるやつがいいかな。」


「俺ぁ決まりを守らねぇ奴が許せねぇタチでな。つい余計なことしちまったぜ。で、次はどんな芸を見せてくれんだ?」


「むしろヤチロの漁師は普段何して遊んでんだ?」


「そうさなぁ……『縄張しま取り』が多いなぁ……」


ほう? 気になるではないか。


「やろうぜ。教えてくれよ。」


「おっしゃ、そんならまずはやってみようぜ! 使うのはこの札だ!」


一から六までの数字が書かれた木の札が二組。


「こいつをお互い持って、一枚ずつ出すわけよぉ。で、数が大きい方が勝ちだ。ただし、『一の札』は最弱だが『六の札』にだけは勝てるぜ?」


「同じだったら?」


「そのまま置いといて次にいくぜ。次に勝った方が四枚総取りってわけよぉ!」


なーるほど。トランプで似たようなゲームがあった気がする。戦争だっけ?


「勝ちはどうやって決まるんだ? 枚数か、総和か?」


「そうわ? ようけ木の札持ってた方が勝ちだぁ。簡単だろ?」


枚数ね。獲得した札の数字の和で勝敗を決めても面白そうなんだけどな。


「おう。分かった。そんじゃあやろうぜ。」


「ひと勝負千ナラーでどうだ?」


「構わんぞ。」




「よっしゃあ! また俺の勝ちぃ!」


うーん、五連敗だ。こんなの運任せだと思うんだけどなぁ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る