1386話 収穫祭

所変わって領主邸前。とても革命から一週間後とは思えないほど落ち着いていたのに。今また騒がしくなろうとしている。朝っぱらから。


「お前らぁぁーー! 酒ぁ行き渡ったかぁーー!」


なぜかカドーデラが場を仕切っている。


「おおー!」

「うるせー!」

「早ぉ飲ませろ!」

「引っ込め闇ギルドぉぉー!」

「斬れるもんなら斬ってみぃや!」

「かんぱーーーい!」


「さ、魔王さん。頃合いですぜ。挨拶頼んまさぁ。」


なぜか冒険者風の野郎どもの割合が高い気がするんだよな。朝のこの時間って、あいつらが丁度ギルドに出入りしている時間帯……あ、だからか!


『おう! ヤチロの野郎ども! 聞けや!』


拡声の魔法を使ってやったぜ。だって私も朝からハイだもん。アレクはそんな私から離れて『消音』の魔法を使ってるけど ……


『通達は出したから知ってるとは思うけどよ! もしも! ローランドの者が本人の望まぬ形で奴隷になってるのを見たら! 当人の意思にもよるが助けてやれや! そしたら高く買い取ってやるからな! 分かったかお前ら!』




あれ……シーンとしてしまったぞ? なぜ?


「魔王さん、難しいこと言ってもダメですぜ。もっと簡単に言わないと。」


そんなに難しいこと言ったっけ? まあいいや。


『ローランドの者をヒイズルで見かけたら助けてやれ! 分かったな!』


「おっしゃあー!」

「任せとけぇー!」

「ローランドもんは弱ぇって聞いてるからよぉ!」

「しゃーねーから助けてやんぜぇー!」


反応があるだけマシか。


『それじゃあお前ら! ガンガン飲めやぁ! 乾杯!』


「かんぱい!」

「かんぱーい!」

「まおーに乾杯!」

「ユメヤにも乾杯だぁ!」


私も飲もう。どれどれ、客室係が用意した酒の味は……旨い! 朝から、それも一杯目からこれはどうかと思うが……ひょっとして焼酎じゃないか? 南の方で作ってるってやつか?

いや、でもこの味は……麦ではない。芋でもない……米か? 米焼酎か?


「おいカドーデラ! これは何て酒だ?」


「おっ、魔王さんのお気に召しやしたか? こいつぁヤチロの東、オンヒトヨ村で作ってる『田万御垣たまみがき』ってんでさ。冷やしてよし、温めてもよし。アタシぁ熱めなのが好きなんでさぁ。」


朝から焼酎を熱燗か……アリだな。


「ピュイピュイ」


コーちゃんも熱燗がいいの? よし、待っててね。


『水壁』


自家製の湯煎だ。これに酒樽ごと突っ込めばすぐに温かくなるだろう。


「魔王様、さあ飲んでくれ。」


「お、おう。」


ヒチベが酒を注ぎにきた。


「魔王様、これもお飲みください。」


アカダまで注ぎにやって来た。よく見ればなんだこの杯は? 三角錐じゃないか。これに酒を注がれたら飲むしかないってことか。面白い杯もあるものだな。ぬっ? アレクの周りを野郎が取り囲んでやがる!


「お前ら、アレクほどの美人を見たことないんだろ? それなら仕方ない。取り囲んだり穴が空くほど見つめたりくんくん匂いを嗅いだりするのはまあいいさ。許してやる。だが指一本でも触れたらぶち殺すからな。」


「もうカースったら。大丈夫よ。私に触れていい男はカースだけよ。ほら、こんな風に。」


「ぎいやっ!?」


あらら、アレクの髪に触れようとした男の手が凍りついてる。早く解かさないと手首から先が捥げてしまうぜ?


「一瞬でヒネルドの手が凍ったぜ……」

「魔王だけじゃなくこの女もやべぇんか……」

「でもたまらねぇ匂いさせてるなぁ……」

「これってローランドの香水か?」


違うよ。アレクの体臭だよ。私を狂わせる魔性の芳香だ。


「こ、これ飲んでくれ!」

「こっちもだ! 旨いから!」

「次はこれも!」

「俺が先に注ぐんだよ!」


おっ、一列に並んでアレクに酒を注ごうとしてる。それなら許してやろう。その酒を飲むのはコーちゃんなんだけどね。こっちで熱燗飲むんじゃなかったのかよコーちゃん!

よし、私は何かつまもう。早起きしたから何も食べてないんだよな。客室係ったら手回しのいいことに大きなテーブルまで用意して、そこに食べ物やら酒やらをたっぷり置いてくれてる。さすがだね。

私が気に入ったのは、やっぱこれかな。レンコンにマスタードを詰めたやつ。酒によく合うんだよね。へー、マスタードだけでなく肉を詰めたやつもあるのか。旨いなぁ。


「魔王様、こいつらの酒も受けてやってくれるか?」


「ん? いいぞ。」


ヒチベの後ろにいるのは……見た感じ役人だな。


「ヤチロをお救いいただきありがとうございました!」

「魔王様のおかげでヤチロの街は生まれ変わります!」

「我らが立て直してみせます!」


「お、おお、頑張れよ。」


悪徳領主がいなくなった後の貴族領か。普通なら天王なんかがさっさと騎士団を送り込んで制圧しそうなもんだけどね。ヒチベの読みだと半年後か。えらいゆっくり構えてるんだな。


「ガウガウ」


え? 肉を焼けって? もー、そこにあるやつを食えよな。まったくカムイは贅沢なんだから。ちょっと待ってろよ。えーっと肉肉……

これでいいかな。ムリーマ山脈名物のブルーブラッドオーガ。肉が硬くて私はあんまり好きじゃないけどコーちゃんもカムイも好きだよな。


解体するのが面倒だから丸焼きにするぞ? 丸ごと食えよ。お前の顎と牙ならオーガだって骨ごと食えるもんな。


「ガウガウ」


それで勘弁してやるって? もーカムイの贅沢もんめ!


「ま、魔王様、これは?」


「これはローランド王国によくいるオーガで、ブルーブラッドオーガって奴。カゲキョー迷宮にもいたと思うぞ?」


いたよな? いや、オーガベアの方だったっけ?


「そ、そうなのか……」

「額を一撃ですか……恐ろしい手腕ですな……」


「丸焼きにするから、お前らも食いたかったら食っていいぞ。」


全長六メイルぐらいあるもんなぁ。私は食べないけど。


『浮身』

『火球』

『風壁』


少し浮かせて火を着けて。風壁で囲えば後は待つだけ。丸焼きってより蒸し焼きかな?

さ、他にはどんなつまみがあるかなー。


「おおーい! 魔王も参加しろよー!」


ん? あの声は漁師のグンチクか?

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