1378話 革命の朝

翌朝、目が覚めたら昼前だった。うーん、よく寝た。ユメヤ達の革命はどうなったんだろうね。とりあえず昼飯、の前に風呂だな。少し寝汗をかいたみたいだし。アレクが密着してたからだな。朝からいい汗かいたぜ。


「ガウガウ」


おわっと、カムイ……お前風呂に入ってたのかよ……いつの間に帰ってきたんだ。


「ガウガウ」


ついさっきね。まったく、器用な狼だな。ところで街の様子はどうだった?


「ガウガウ」


気にしてないから知らない? カムイらしいな……まあいっか。後でイグサ田にも行くことだし、じっくり見てやろう。そう言えば目付けの奴、夜明け前とか朝方に手勢を連れて攻めてくるかと思えば、音沙汰ないな。もしかして犯人が私だと分かってないのか? それとも逃げた門番の方を追ってるとか? 案外それどころじゃなかったりしてね。


「おはよう。カースもお風呂だったのね。カムイも。」


「やあおはよ。いい朝だね。」


昼だけど。


「そうね。お昼からお風呂って最高ね。それにしても今日は楽しみね。この街が一体どうなっているのか。まだ私、外を見てないもの。」


「僕もだよ。この部屋は防音がしっかりしてるから騒ぎも聴こえてこないしね。」


「ガウガウ」


そんなことより洗えって? 分かってるって。甘えん坊さんめ。




さて、カムイを洗ってアレクとイチャイチャして、昼食を済ませたらお出かけだ。なお、昼食は部屋ではなく食堂で食べた。他の客の会話から街の様子を窺おうと思ったのだが、タイミングのせいかほとんどいなかった。


よし、イグサ田に行こう。コーちゃんとカムイは先に行っててよ。少し寄り道してから行くから。

まずは街の中心部、領主邸がある辺りに立ち寄ってみようかな。


うーん、こんなに人がいたのかってぐらい道が賑わってるな。めっちゃお祭り的な雰囲気だが……どれ、道行く人々の会話に耳を傾けてみよう。


「あれやったのユメヤ商会なんだろ?」

「奥さんの仇とったそうだで?」

「ろくな領主じゃなかったもん!」

「ざまぁみさらせー!」


あれとは? でもやっぱ成功したのか。奥さんの仇って何だ?


「クラヤ商会はどうすんのかな?」

「あいつら阿漕な真似してたもんなぁ!」

「領主の後ろ盾がなきゃあ何もできんのじゃない?」

「それでも金だけは持ってそうだけんね!」


クラヤ商会か……闇ギルドの蔓喰はどう出ることか。


「それよりユメヤは大丈夫なのか?」

「いくらクソ領主を倒したからって近隣の領主や天王様がどう出るか……」

「だよなぁ……ヤチロ騎士団だってほぼ残ってんだろ?」

「領主とその家族だけは番頭が殺したって噂だもんなぁ……」


へー。やっぱアカダの奴やりやがったのか。すごいな。


そして領主邸に到着。正門は開放されている。中にはえらく大勢の人間がいるが……


「魔王様! ようこそお越しくださいました!」

「魔王様! ありがとうございます!」

「魔王様! 会長がお待ちになってます!」


こいつらは誰だ? 夢の雫のメンバーか? あの時は夜だし黒装束だったから顔がさっぱり分からないんだよな。


「えらく人数が多いな。どこからこれだけ集まったんだ?」


「貧民街の人間や領主に恨みのある人間を集めたんです!」

「たぶんヤチロ中の人間が喜んでますよ!」

「会長万歳! 魔王様万歳!」


あんまり魔王って連呼されると私が黒幕みたいじゃないか。でも夢の雫は私の配下だしな……つまり私がやったも同然か? まあこれも天王にダメージを与えたと考えれば悪くないよな。


「さあどうぞ! こちらです!」


一人の女の子が私を先導する。この子も夢の雫のメンバーだったのか。


それにしても領主邸か……やっぱ広いな。クタナツの代官府よりは大きいが、フランティアの行政府ほどではないか。




「会長! 魔王様がいらっしゃいました!」


ノックもそこそこに女の子はドアを開けた。ここは領主の執務室かな?


「これはこれは魔王様! 今回はおかげで助かった。一年……は無理でも半年ほどはこのまま居座れるだろう。」


ん?


「このままヤチロに居る気はないってことか?」


「当然だ。いくら領主を打倒したからとて、商人上がりの元盗賊が貴族領を支配できるなどと思っていない。すぐに近隣の貴族か、または天王様の軍がやって来るだろう。だが我らとて今すぐ逃げるわけにはいかない。せっかく奪還したこの地を、貧しき民を見捨ててはおけんからな。」


そんなもんか。この世は無常だねぇ。


「そうか。大変そうだが上手くやりな。ああそうだ。これ、成功した祝いにやるよ。」


魔力庫から取り出したのは昨夜の金庫だ。中身は知らない。


「こ、これは? 金庫か?」


「ああ、目付け役って奴の家に置いてあったから貰っておいた。開け方なんて知らないけどお前らならどうにでもなるだろ?」


「目付け役……グンダユ・タチカワリか! ふ、ふふふ……これはいい物をいただいた。さすがは魔王様だ。ありがたく頂戴する!」


「おう。畳の件だがイグサができ次第連絡を入れる。そっちも上手くやれよ?」


むしろそっちがメインなんだけどね。畳を作る前に逃げられちゃあ困るからね。もっとも、契約魔法がかかってるから高品質の畳を百畳仕上げるまではヤチロから離れることはできまい。頑張って欲しいものだ。


「ああ。すでに畳職人は解放した。これからヤチロの街は生まれ変わるのだ。魔王様の御恩は終生忘れぬ!」


「おう。イグサはもう一週間もすれば育つ。それ以外の材料を頼むぞ?」


「任せておいてもらおう。最高品質の畳を作ってみせる。」


「会長、連れて来た……」


おや? 番頭のアカダが小太りの男を連行してきたぞ?

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