1377話 屋敷荒らしカース

厨房を出た私達は来た通路を戻り、目付けの寝室まで移動する。


「カース、帰らないの? あっ! もしかしてここで? い、いいわよ。カースったら宿まで我慢できないのね? もぉ……カースったら……//」


アレクの勘違いが可愛らしいな。


「それもいいんだけど、後でね。何か金目の物がないか探してくれる? せっかく来たんだから何かお土産が欲しいと思ってさ。」


「もぉ……カースのバカ! そんなの後でいいのに……」


何の後かな? まったく、アレクの可愛さは無限だな。


「それにここ寝室じゃない? 特にいいもの置いてないわよ? あっ! じゃあこれ! この畳を貰っておけば?」


「なるほど! それはいいね!」


アレクの発想がすごいな。スケールが違うぜ。


『浮身』


ほほう。ざっと十二畳か。これを私の自宅に敷く気はないが、どこかで使うこともあるだろう。だってあんな奴の中古だもんな。領都や楽園の自宅に敷くのはやっぱ新品でないとな。


「どうするの? まだ他に何か探すの?」


アレクめ……早く帰りたいって顔してるな。悪い子だ。


「ごめんね。もう少しいいかな。今度は本当に金目の物を探そうよ。」


「もぉ……次で最後なんだから! そしたら帰るわよ!」


そうして廊下を歩いていると……


「お前たち、まだいたのか。さっさと帰った方がいいぞ」


門番してた奴か。


「ええ、帰ろうと思ったのですが、お目付け役様のお言葉を思い出して引き返してきました。」


「ん? 何だ?」


「ご褒美に部屋の物で気に入ったものがあれば持っていっていいと。で、お目付け役様のお部屋とはどちらでしょう?」


あいつは私に褒美をとらすって言ってたからあながち嘘でもないんだよな。


「……こっちだ……」


案内してくれるのかよ。疑わないの!?


「ここだ」


「入ってもいいのですか?」


「構わん……」


扉の感じからして釣り天井の間ってこともあるまい。どれどれ……


ここは……執務室?


「いいんですか? ここって……」


「いいんだよ! お前らがここを荒らして逃げたことにするからなぁ!」


うわっと、いきなり斬りかかってきやがった。籠手で防いで金的。頭おかしいんじゃないか?


「何考えてんだ? あーあ、可哀想に。潰れたか?」


「うぐっおぉ……くそ……何者だ……」


客に決まってんだろ……


「知るかよ。でもここに金目の物があるのは確かなようだな。せっかくだ。お前は何を狙ってたんだ?」


股間を押さえてうずくまる男の頭を軽く蹴り飛ばす。どうせ素直に吐くわけないもんな。まずは痛めつけないと。


「お前にも分け前くれてやるぜ? で、どれだ?」


転がった男の腹を踏み潰す。肋が折れたかな?


「がはあぁっ! や、やめ……」


「やめて欲しいのか? なら言えよ。お前は何を狙ってたんだ?」


「き、金庫……」


金庫? どこだ?


「どこにある?」


「と、隣の部屋に……」


ふーん。目付けの机の後に扉があるな。あそこからしか入れない部屋に金庫を置いてるってわけね。


「アレク、こいつを押さえておいてくれる?」


「いいわよ。」


どうせ扉には鍵がかかってるんだろ。探す気などない。


『風斬』


むっ、切れない……生意気な……


『狙撃』


鍵穴を打ち抜いてやった。


どれどれ……隣の部屋は……ほほう。金庫室ってわけね。書類が収納されてそうな棚もあるが、一番奥には大きな金庫があるではないか。丸ごといただきだな。


あら、収納しようと思ったらできなかった。壁に固定してあるのか……もー、面倒だなぁ……


『金操』


無理矢理動かして壁から離す! 魔力が残り少ないってのに……まあ二割もあれば問題ないけどさ……


よし、外れた。そして収納。中身を確かめるのは後日でいいな。アレクを待たせてるんだから。


「お待たせ。金庫を貰っておいたよ。」


「今度こそ帰るのよね?」


金庫なんかより早く私が欲しいということだな? ふふふ。


「もちろんだよ。早く帰って……ね?」


「うん……! もう私我慢できないわ!」


ふふ、アレクったら。可愛いなぁ。おっとそうだ。


「ほれ、約束の分け前だ。」


小判を五枚。こんなもんで充分だろ。


「そ、そんな……たった……」


「それよりお前、さっさと逃げた方がいいぞ? ここに俺らを案内したのはお前なんだからさ。もし俺らが捕まったらお前に案内されたって言うからな。」


捕まればの話だけどね。


「なっ! ちがっ、そんなっ!」


それにしてもこいつは少しはまともな奴かと思ったが、機会があれば容易く本性を見せやがったな。やっぱ上が腐ってると下も腐ってるんだろうな。真っ当に生きれないものかねぇ。


「じゃあな。せいぜい早く逃げるんだな。」


倒れて起き上がらないこいつを放っておいて私達は目付け邸を後にした。金庫の中身が気にはなるが、そんなことよりアレクとの熱い夜の方が大事だ。少し早歩きで宿に帰った私達は部屋に入るなり、激しくお互いを貪りあった。寝室まで行く間も惜しいとばかりに。うーんサティスファクション!

ちなみにコーちゃんは一人でさっさと寝室に行ってしまった。

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