1374話 夢の雫の出陣
あ、着いた。この洞窟か。暗っ。
「来たか。ようこそ魔王様。待ちかねたぞ。今夜行けるんだな?」
「ああ、 運んでやるよ。二十人ちょいだよな?」
「いや、四十七人だ。我らの仲間は四十七人だと伝えたはずだが?」
ははぁん。あの時反抗した奴らは始めっから仲間扱いではなかったってことね。あ、よく見たら女子供もいるじゃん。そりゃああの時は姿を現さなかったはずだわ。
「まあいいや。じゃあ行こうか。全員領主邸まで連れてっていいのか?」
「可能なら女子供は貧民街に置いていきたいが……」
「ああ、問題ない。」
『氷壁』
「じゃあ乗ってもらおうか。ちょっと寒いけど我慢な。」
「お、おお……よしみんな! 乗れ! 今こそ立ち上がる時だ!」
真っ先に乗り込んだのはアカダ。こいつはそういう役回りなんだろうな。続いて子供達、そして女。その後に男達、最後にヒチベが乗り込んだ。
よし、行くぜ!
人数も多いことだし、ゆっくり行こう。それでも三十分ぐらいで着くだろうけどね。
「そういえば冒険者が来なかったか?」
「ああ。うろついていたみたいだが、我らを見つけることはできなかったようだ。そこまで熱心に探していたように見えなかったしな。」
あー、もしかして私達と遭遇したせいでやる気を失ったとか? まさか小銭を拾っただけで満足したわけでもあるまい。普通に考えればもう獲物はいないと思い込むわな。
「一応聞いておくけどヤチロの騎士団には赤兜なんていないよな?」
街中では見かけることもなかったしね。
「ああ、赤兜がいるのは通常は天王直轄の領地、天領だけだからな。カゲキョー迷宮の混乱であちこちに流れたらしいが、この辺りでは見てないな。」
あれだけ迷宮の中にいたのになー。どこに行ったんだろ? まあ騎士って言ってもほとんどならず者の集まりだもんな。好き勝手にあちこちで暴れてんだろうね。それこそ盗賊みたいにさ。
よし、そろそろだな。いくら真っ暗な夜でもさすがにこれだけの大きさの氷の塊が近付いたらバレるからな。一旦どこかに降ろそう。
イグサ田エリアに軟着陸。ここでメンバー編成といこうか。
「先に貧民街に連れて行こうか? それともいきなり領主邸に行くか?」
「貧民街に頼む。だが、これだけもの人数だが……」
「ああ分かった。問題ないさ。じゃこっちに乗ってくれ。」
今度はミスリルボードだ。二十人ちょいが乗るには狭いけど、まあ我慢してもらおう。狭い足場に何人乗れるかを競うゲームを思い出すな。ゲームと違うのは周囲を風壁で覆ってるから落ちないってことだな。
『水球』
ミスリルの下面を黒く塗ってと。これで闇雲と隠形を使えば誰にも気付かれまい。
「よし、行くぞ。」
「ふん、世話になるわ!」
おっと、この子はこっちの組なのか。名前は……忘れた。クラヤ商会の長女だったか。顔は全然似てないが物言いは昔のアレクを少し、ほんの少しだけ思い出すな。こいつも若旦那の前ではデレるのかねぇ。
さて、ヤチロのはるか上空にやってきた。ちょいと確認しておかないとな。
「貧民街ってあの辺か?」
「見えるわけないでしょ……」
「カース、大丈夫よ。私が分かるわ。浮身を解除してくれる? 私が使うから。」
さすがアレク。やっぱ頼りになるぜ。では私は『隠形』『消音』
音もなく降り立ったのは貧民街に点在する狭い空き地だ。
「あ、ありがと……あんたやるじゃん……」
あ、デレた。
「何をするのか知らんが安全にな。」
「わ、分かってるし! あ、あんたも気をつけるのよ!」
意外とかわいいところもあるもんだ。もちろんアレクほどではないけど。さあて、次だ。
「待たせたな。次は全員だな?」
「乗れるならば全員を頼む。」
「もちろん大丈夫だ。さあ、乗りな。」
さっきより汗臭そうだけどね……
「先にアカダだけ領主邸の上に降ろしてもらえるか?」
「ああ、問題ない。」
さあ、急降下だ。領主邸はあそこだな……
「じゃあ降ろすぜ。あそこの屋根でいいな?」
「ええ。お願いします。」
全員黒尽くめ。頭まで覆って目だけ出してる。盗賊ってより忍者っぽいな。
「さて、残りはどこに降ろす?」
「領主邸の裏庭に頼む。」
「よし。あっちだな。」
あ、見張りがいる。『消音』『麻痺』そのまま寝てろ。
「この距離でその魔法を効かせることができるとはな……やはり配下に入って正解だったようだ。魔王様、この恩は忘れぬ……」
「おう。まあがんばれ。俺らは勁草の恩恵亭に泊まってる。いい知らせを待ってるぞ。」
「ああ、行くぞお前たち。今こそヤチロを取り戻すんだ!」
たった二十数人でヤチロを取り戻す? 領主を仕留めることならどうにかできそうだが……
まあ私が心配してもしょうがない。どうなることやら。とりあえず宿に戻って遅めの夕食だな。あー腹減った。
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