1371話 休息と汚職
ふぁーあ。アレクの膝枕は最高だな。肉をたらふく食べてからの膝枕。よく眠れたなぁ。せっかく起きたしイグサ田に行こうかな。おっさんの様子はともかく、イグサの様子は大事だからな。
それにしても貝から真珠が見つかるとはびっくりだな。さすがコーちゃん。アコヤ貝でもいたのだろうか。アレクの耳元を飾るのにちょうどいいかも。
ピアスはだめだな。どうにかイヤリングに加工できないか……ダークエルフの職人クライフトさんに相談かな。頼むことがどんどん増えていくな……
到着。見た感じ変化なし。当たり前か。
「アレク、どう? 中身は問題ない?」
幻術がかかってるからアレクに確かめてもらおう。
「ええ、問題なさそうね。カース、今日は成長促進かけるの?」
どうしようかな……魔力的にはできなくはないが、全部できそうにないしな……
「やめとくよ。明後日辺りがちょうどいいかな。」
「あら、カースにしては計画的ね。でもたまにはいいわよね。じゃあちょっと待っててね。」
あはは……確かにそうだな。いつも行き当たりばったりの私らしくないかな。
「お待たせ。父親に食べ物を渡してきたわ。特に異変はなかったそうよ。」
「あ、それなら僕も行くよ。浄化ぐらいかけてあげようかな。」
それぐらいしてやってもいいな。
「まあカースったら。優しいんだから。こっちよ。」
イグサ田エリアの外れの納屋。夜は冷えるだろうに。
「ま、魔王様! へへぇー!」
「いやいや、そんなのいいから。」
これは忠心と言っていいのか? めちゃくちゃビビってる感じだが。
『浄化』
「ひえぃ? こ、これは……」
「すっきりしたろ? 頑張ってるじゃないか。この調子でやれ。ついでにこれやるよ。夜は冷えるからな。」
「はっ、ははぁー! おありがとうございます!」
トビクラーの白いコート。初めて作ったコートだけどもう全然着てないんだもんな。このおっさんにサイズは合わないが羽織ったり腹にかけて寝る分には問題ないだろう。今回の件が終わったら看板娘にでも渡してやればいいし。
「じゃあ帰ろうか。」
「カースって本当に優しいのね。平民に恵みを与えるのも上に立つ者の務めだわ。」
「そう? あいつ頑張ってくれてるからさ。」
いやー照れるなぁ。さあ帰って夕食だ。明後日まではのんびりしよう。
うーん。のんびりしてたのに、あっという間に過ぎた二日だったな。宿の部屋で昼から酒を飲んだり、錬魔循環したり。風呂でアレクとイチャイチャしたり棍術の稽古をしたり。たまにはこうやってのんびり過ごすのもいいよね。
さて、魔力は六割近くまで回復した。これならどうにか残りのイグサに成長促進をかけて植えるところまで終わりそうだな。
朝食を済ませて四人、いや看板娘と妹も含めて六人でイグサ田へと向かう。なんと妹はカムイの背に乗っているではないか。この短期間にえらく仲良くなったものだな。あ、ただ乗ってるだけじゃなくて背中をマッサージしてるのか。もしかしてカムイからすると下僕扱い? まあ……二人がいいならいいんだけどさ。
さーて、そろそろイグサ田に着くんだけど……何だあれ? なーんか人が集まってるな。見たところ農民だけでなく役人ぽいのまでいないか? よってたかっておっさんに詰め寄っているようだが。
「おーい。どうした?」
うわぉ、一斉にこっちを向きやがった。そんなに大きな声出してないぞ?
「ま、魔王様! お、お役人様が!」
「貴様が魔王とやらか? 良からぬことを企てていると通報があった。よって調べようとしていたのだが……イグサ田に立ち入ることが出来ぬではないか! これはどうしたことか! とくと説明してもらおうか!」
通報ねぇ? 密告の間違いじゃないか?
「お役人様、このような朝早くからお務めご苦労様でございます。おい! お役人様をこのような場所に立たせておくとは何事だ! 椅子ぐらい用意しろ!」
「へっ、へい!」
そこらの農民に怒鳴ってやった。こんな所に椅子があるわけないけどね。
「ほほう。貴様少しは物の道理を弁えておるようだな。くくく……」
「わざわざお運びいただいたお役人様に対する無礼、平にご容赦くださいませ。『水壁』ささ、こちらにお座りください。」
「ほう? 水の魔法か。なかなかやるではないか。褒めてつかわすぞ?」
「ありがとうございます! さ、どうぞどうぞ。さぞかしお疲れでしょう。こちらローランド王国渡りの秘酒でございます。お口汚しとは思いますが味見などしていただけるとこの上ない栄誉でございます。アレク、お酌して。」
バンダルゴウの名前も知らない酒なんだよね。だから秘酒ってことで。スペチアーレ男爵の酒はもちろん残っているが、こんな奴らに飲ませてやるわけがない。
「さ、お役人様。皆さんお座りになってください。日夜領民のためにお骨折りいただきありがとうございます。おかげで私達は安寧に暮らしていけますわ。」
うーん、アレクは女優力もすごいな。いきなりでこれだもんな。女は魔物だね。
「ほほう! これは
「お役人様、お先にこれをお納めください。夜のことは夜にご相談といきましょう。今夜のお楽しみということで。」
「むふふ、そうよな。夜のことゆえな! ほう……気が利くではないか。天晴れであるぞ!」
小判を人数分ほど配ってやった。ただしこいつだけ三枚だけどね。しめて六十万ナラー。後のことを考えればこんなの端金さ。
「それでお役人様。この度は一体どのようなお調べでしょうか? お手を煩わせて申し訳ございません。何なりとお申し付けください。」
「なぁに、大したことではない。このイグサ田で何やらご禁制の作物を育てておるとの通報があったのよ。だが見ての通り何もない。そこのコガデとやらでは話にならず参っておったのよ」
参ってたってより面倒で嫌になってたって顔だな。こんな貧乏そうな農民の訴えを聞くより私と仲良くした方が余程儲かりそうって顔に変わってるし。
「それはそれは。お手間をとらせてしまいましたね。見ての通り今からイグサを植えたいと思っているところなのです。ですが、今は時期が悪いですよね。耕してはみたものの、あらあら困ったどうしよう……と言うわけなんです。どうでしょお役人様? 何かお知恵を拝借できませんか?」
「ふはははは! これはとんだ粗忽者よの! あい分かった! わしはご領主様直属お目付け役グンダユ・タチカワリだ。困ったことがあったら言ってまいれ。手土産を忘れずにの?」
「ありがとうございます! 私はカースと申します。このご恩は忘れません。」
「ありがとうございます。」
「よいよい。では今夜、我が屋敷で待っておるぞ?」
「もうお役人様ったら……私も楽しみにしてますから……」
おお……アレクの演技が凄すぎる……こりゃ役人じゃなくても勘違いするわな。私だって勘違いしてしまいそうだ。アレクがあんな奴に色目を使うなんて!
「ふはははは! ではの! イグサの成育、期待しておるぞ!」
くくく。お目付け役のお墨付きゲット。いやー役人が腐ってると対処が簡単でいいね。ローランド王国は大丈夫か? バンダルゴウ周辺なんかダメダメだったよな……
ようやく先ほど椅子を探しに行った農民が息を切らせて戻ってきた。遅ぇよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます