1350話 初秋の散歩道
翌朝。朝食を済ませた私とアレクは散歩がてら海までやってきた。宿から歩いて一時間ぐらいかな。散歩としてはちょうどいい距離だ。
適当に歩いて到着したのは、特に整備されているわけでもない海岸。砂浜でもなく、大小様々な石が転がっており少し歩きにくい。でも散歩は続行するけどね。
「改めて思うけど……海って広いのね。あの向こうに私達の国があるのね。全然見えないわ。」
「そうだね。遠見を使っても見えないよね。」
水平線の彼方だもんな。そりゃあ見えないよな。
そして浜辺の散歩における定番と言えば……
「あっ、石が跳ねた! 何かに当たったのかしら?」
そう、石切りショットだ。こんな何の意味もないことが楽しいのもアレクが一緒にいるからだ。
「あっすごい! 三回も跳ねたわ! 私もやってみる!」
ふふ、楽しいなぁ。ガンガン投げよう。周囲には釣り人なんて一人もいないし。
「できた! 一回跳ねたわ!」
「やったね! よーし、僕も負けないよー!」
ふふ、楽しいなぁ。
「カース! 見て見て! 私も三回跳ねたわ!」
「おお! やるね!」
私だって負けん!
「ふふ、すっかり熱くなっちゃったわね。ねえカース、泳がない?」
「いいね! 泳ごう泳ごう!」
アレクったら。もう十月だってのに。でも気にせず泳ぐのだ。あーもう! アレクのスク水が眩しい!
いつの間にアレクも足裏からの水流で泳げるようになっている。弛まぬ研鑽だね。しかもなかなか速いぞ。待て待てー。
うーん、浅い海が続いたかと思ったら急に深くなってるな。こういう深い海って底が暗くて見えないからどことなく怖いんだよね。何がいるのか全然分からないし。
ぐほっ、背中にアレクがのしかかってきた。素敵な感触がたまらないね。そして私の手を引き浅い方の海底へと。なるほど、アレクも貝を獲りたいんだな。よーし、それなら見本を見せてあげちゃうぜ!
どうにか日の光が差し込む程度の海底。そこにはたくさんの貝類が! でも先に注意しておこう。
『あれみたいに大きい貝には近付いたらダメだよ』
シャコ貝って言うんだったかな。二メイルも三メイルもある、やたら大きい貝がちらほら見えるんだよな。やっぱ海って危険だわ。
『知ってるよね? これが僕の好物、
ここまで潜って獲れる奴なんかそうそういないだろうけどね。それでも小さいやつは獲るべきではないよな。
『それからこれ。
アレクはうんうんと聞いてくれている。ちなみにここらにはウニがいないんだよな。特に問題ないからいいけど。
『後は海藻に注意だね。
アレクはバンダルゴウで巻きつかれてしまったもんね。私は勝手に魔昆布って呼んでるが、正しい名前は何て言うんだろう?
『獲れたやつはこの中に入れておくといいよ』
なんせ獲れたては魔力庫に収納できないからね。瞬間冷凍してもいいけどあまりにも魔力を消費しすぎるからね。素直に網に入れておくのが一番さ。
私から網を受け取り、アレクは海底へとその身を躍らせた。後ろから見るアレクのお尻ときたら……もうプルンプルンだね。美人は三日で飽きるなんて言ったのはどこのどいつだ? アレクを見てから言えってんだ。
さて、アレクのことはひとまず置いといて……私の狙いは……巨大な貝だ。名前が分からないから、とりあえずパールシャコと呼ぼう。生意気に真珠のように輝いてるもんな。案外こいつを加工したらいい装飾品になるかも知れないな。
うーん、どうやって獲ろう……近付いて観察するもののよく分からない。これに挟まれたら腕なんか潰されるんじゃないか? 万力並みの咬筋力がありそうだなぁ……
よし!
『金操』
方法が分からない時はごり押しが一番。無理矢理持ち上げてくれるさ。
ぬっ……がっちり根付いてやがるな……だが、私は数万トンの岩でも持ち上げることができるんだぞ……『浮身』
ぬおおあぅ? 岩ごと持ち上がりやがった……どうなってんのこれ? げっ! 触手? 根? 触手のような根のような無数の何かがワサワサと私に襲いかかってくる……キモぉ……
だがそんなの待ってやらん。一緒に行こうぜ上空へ。浮身をそのままかけ続けて私とパールシャコは海上へ。
空は私の独壇場だ。お前は呼吸すらできまい? そしてキモい根はいらん。『風斬』
それからくっ付いてきた岩もいらん。
壊そう。『水球』
よし。貝そのものが残ったな。
『氷壁』
超低温の氷に閉じ込めれば……よし、収納できた。ふー、めっちゃ魔力を消費しちゃったよ。こんなの何個も獲ってられないよな。後は私もサザエやアワビを狙うとしようかな。
再び水中へ。
ぬう? こ、これは……
なんとたまらん光景なんだ……
さっき斬り落とした奴の触手が数本ほどアレクの体に巻きついているではないか……
まるで荒縄で縛ったかのように……ギチギチと……
アレクの右腕はまだ自由なのだが、体に密着しているため中々斬りにくいようだな。確かにアレクがその気になれば自らの皮膚など顧みずに斬るだろう。よく切れるナイフを持ってるんだし。だが、アレクは私のためになるべく体を傷つけないように対応しようとしているのだ。嬉しいではないか。ならば私が助け舟といこうではないか。海だけに。
方法は簡単。触手とアレクの肌の間に手を入れて、隙間を作ってそこを切るだけ。両手が自由だから簡単なんだよね。触手の本体が死んでることだし大した抵抗もなくアレクの救出成功。
それからおよそ二十分後。アレクが上を指差した。そろそろ上がるかな。寒くなってきたことだしね。いやー楽しいひと時だった。
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