1349話 カースはトラクター

カムイの毛が乾いたら私もアレクと風呂に入ろう。だからお前らさっさと部屋から出ていけ。


「というわけだから、この三人はしばらくこの宿に泊らせる。部屋の用意はできてるな?」


「はい。ご用意してございます」


「じゃあお前達、また三日後な。こっちは明日から田を耕しておくから。」


「はい! 魔王様のお役に立てるようがんばります!」

「がんばります!」

「へへぇーーー!」


そう言って四人は部屋から出ていった。さあお風呂お風呂、アレクとお風呂。ふふ〜ん。




かぽーん、なんて音がするはずもない風呂。アレクはいつものように湯船で私にしなだれかかっている。


「季節外れの作物を植えて大丈夫なの? 何かいい考えがあるみたいだけど。」


「もちろんあるわよ。カースの魔力に不可能なんかないって私知ってるもの。」


そう言って私の首筋に舌を這わせるアレク。ふふ、悪い子だ。今夜もフィーバーだな。




翌日。私とアレクはイグサ田まで来ている。コーちゃんとカムイはいない。看板娘一家の護衛に行ってもらってる。まあそこまで離れているわけでもないんだけどね。イグサを手に入れるまではあの一家には無傷でいてもらわないといけないからね。


アレクと分担して田を耕す。アレクは昨日私なら『田畑を耕すぐらい一瞬で終わるわ』って言ったが、別に急ぐことでもないからね。のんびりやればいいさ。


魔法なので腰が痛くなることもなく昼までに半分が済んだ。こりゃ夕方までには全部終わるな。そうなると明日と明後日は観光だな。海の方にも行ってみよう。海産物を補給しておきたいしね。


そして昼。宿から弁当が届いた。あらかじめ頼んでおいたのだ。ちょっとお高い弁当を七人分届けてくれるようにと。妹には量が多いだろうが、残したらカムイが食べるしね。

うーん、野外で耕したばかりの田を見ながらアレクと食べる弁当の旨いこと。こりゃあマジで楽園で農業やるのもいいよなぁ。あっちには米がないから私が育てるのもありだ。危険な場所でスローライフが始まってしまうな。


遠巻きに他の農家がこちらをジロジロと物珍しそうに見つめては去っていく。どうだい? 画期的な農法だろう?


そして夕方。全ての田を耕し終えた。もちろん堆肥もきっちり撒いてある。


「魔王様! お疲れ様でした! 一日で全部耕してしまうなんてやっぱりローランドの方の魔法って凄いんですね!」


「違うわよ。カースが凄いの。勘違いしないようにね?」


「は、はいっ!」


はは、照れるなぁ。


「それよりそっちはどうなの? 明後日植える……二次苗って言ったかしら。問題ないわね?」


「はい! 二次苗まで育てる若苗ですね。問題なく植えられると思います。でも……お願いします……もし、あの苗が枯れたら私たち一家は……」


「大丈夫よ。カースに不可能はないから。大砦に籠った気でいなさい。」


「はい……」


ローランド王国では大船に乗った気とは言わないもんなぁ……ヒイズルだと何て言うんだろ?

それにしても不可能なことなんてあるに決まってのに。もうアレクったら。




そして宿で夕食。その後はアレクとのんびりお風呂タイム。ふぅーいい宿だ。


「それでアレク、どんな考えがあるんだい?」


「カースにとっては簡単な事よ。明日見せるわ。それを読めばカースならすぐに解決する話ね。それより、せっかく二人きりなんだから野暮なこと言わないでよ?」


そりゃそうだ。明日できることは明日やればいい。今はアレクとの時間を楽しもうではないか。アレクは今日も頑張ったんだからポーションマッサージをしてあげよう。


「ねぇカース……魔力が一気に倍に増えたけど……だからっていきなり強くなれるってわけでもないわね……んっ……」


「そうだね。長い時間魔法を使えるようにはなったと思うけど、威力が倍になるわけじゃあないもんね。」


私のように小さい頃から一気に魔力を放出できるよう修練していないと、魔力をごり押しして魔法の威力を上げるのは難しいもんな。だから普通は上級魔法など様々な魔法を使い分けるのだが。


「はぁ……魔力が上がれば上がるほどカースの凄さが分かってきたわ。威力を倍にするにはただ魔力を倍ほど込めるだけではダメなのよね。制御の難しさまで倍になってしまうから。カースは本当に凄いわね……大好きっ……」


暖かい浴室。そこに裸でお湯のウォーターベッドに寝そべり、私にマッサージを受けてるもんだからアレクの声が艶かしい。まったく、かわいい声して悪い子だ。

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