1348話 イグサの専売
アレクがこんこんと一連の流れを説明している。最初に看板娘を助けたのはアレクなのに、なぜかそれまで『魔王の慈悲』と言ってしまっているが。
「なるほど……そのような大金をポンと……魔王と言う呼び名にもかかわらず何という心優しきお方……イロハに代わりましてお礼申し上げます」
客室係が頭を下げる。まあその金を出したのもアレクなんだけどね……どっちでもいいけどさ。
「おありがとうございますです!」
おっさんは土下座のままだ。
「事情は分かったわね? それじゃああなた達は苗の用意をしっかりしておくのよ。三日後にはもう植えるから。いいわね?」
「あ、あの……でも、今の季節に植えても……うまく育つかどうか……」
おっさんの心配はもっともだ。
「問題ないわ。魔王カースの魔力に不可能はないわ。気にせず用意しておきなさい。」
「へ、へへぇぇーー!」
うーん、アレクにそう言われると何だかできそうな気がしてきた。がんばろ。ちなみにさっき田に張った風壁は今までであれば私が寝たら解けてしまう程度のものだった。しかし、私だって成長しているのだ。まあ解けないようにたっぷり魔力を込めて、ちょいと制御に一工夫してるだけなんだけどね。自動防御の要領で。だから迷宮内でもある程度は安全だった。生意気な赤兜がシェルターに穴を開けやがったけど。
「それからあなた、私たちの用が済むまでお酒はだめよ。カース、契約魔法をかけてあげて?」
「オッケー。おっさん分かったな? イグサが手に入るまで禁酒だ。博打もだめだ。うまくいったら報酬に色をつけてやる。約束だ。」
「へっ、へへぇーーっのっろぽおぉっ?」
うん、普通にかかったね。
「これ以上借金はないわよね?」
「へっ、へいっ! たぶん……」
本当かぁ? まあどうでもいいけどね。イグサさえ手に入ったらこいつがどうなろうが知ったことじゃないし。
「ガウガウ」
あ、妹がカムイをなでなでしてる。
「ここの風呂に入っていくかい? こいつが君に体を洗わせてやるって言ってるよ。」
「はいりたいです!」
うん。素直な女の子だね。キアラと同じぐらいの歳かな。
「よし、任せた。こいつの名前はカムイだ。君は?」
「クレハ・コガデです! 十歳です!」
おお、キアラより歳下か。
「風呂はあっちだ。ゆっくり入るといい。」
「はいっ! いこっ狼さん!」
「ガウガウ」
さて……
「この際だから聞かせてもらおうか。ヤチロは今どんな状況なんだ? 何年か前からイグサは領主の専売になったと聞いたぞ。」
「その通りです……四年前の春でした。ご領主のカガミアリ・ヤチロ様が突然イグサをヤチロ領の専売にするとの触れを出されたのです……」
「それが酷ぇもんで……買取価格は今までの半分……しかも今ではいい頃の三割にまで落ちてるんで……」
だろうね。
「しかもイグサ田を減らすことは許されず、むしろ他の田畑までイグサ田にすることを強要され……イグサ農家は毎日の食事にも困窮する有様なんです……」
「何人もの男達が領主様の横暴を天王様に訴えようと旅立ったんですが……誰も帰ってこねぇんで……」
うん。だろうね。どう考えても天王が諸悪の根源だろうからね。
「全てのイグサの取り扱いを任されたクラヤ商会と領主様だけが肥え太り……私たち領民は……」
「畳職人だって腕のいい奴らはみぃんな連れていかれちまって……街に残ってるのは三流どころばかりで……」
職人か……その事を考えてなかったな。いくらいいイグサを収穫しても職人がいないんじゃどうにもならないな……まあいいや。どうにかなるだろ。やはり今考えるべきはイグサの生育だな。
「あ、それに闇ギルドの『
「イグサ農家のほとんどがあいつらに借金をこさえてるんで……特にうちとこみてぇに若く美しい娘がいるところは……」
自分で自分の娘を美しいとか言ってんじゃないぞ。それにしてもまた闇ギルドか。まあどこにでもいるよな。つるばみねぇ……
「ヤチロにはエチゴヤはいないのか?」
「エチゴヤ……ですか? 申し訳ありません! 分かりません! それって闇ギルドなんですか?」
「そうだけど、知らないならいいさ。」
なんだエチゴヤめ。あれだけ大物面しておいてヤチロには進出してないのかよ。それとも一般市民には知られてないだけか……どうでもいいや。
「エチゴヤ、知ってます。知ってはおりますがヤチロには、いやヒイズル南西部にはおりません。詳しくは存じませんが、闇ギルドの世界にも縄張り的なものがあると小耳に挟んだことがあります」
おお、さすが客室係。色んな情報が入ってくるんだろうね。
「てことは南西部一帯はそのツルバミが仕切ってるって感じなのか?」
「そうらしいです。エチゴヤとの関係までは分かりませんが」
なるほどね。闇ギルドか……私に賞金がかかってるって話だったがどうなってることやら。
そうやって少し話しているとカムイが風呂から出てきた。あらあら、まだ拭いてないのかよ。ここでぶるぶるするんじゃない。
「ガウガウ」
分かってるって今乾かしてやるよ。
「ガウガウ」
おお、そうなの?
「君の洗い方は合格だって。こいつでブラッシングしてやってよ。毛並みに合わせてな。」
「はいっ!」
カムイの後に出てきた妹にブラシを渡す。この子の髪は私が乾かしてやろう。キアラは今ごろ何してんのかな……しっかり勉強してるに違いないよな……うん、きっとそうだ。
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