1337話 カースの魔法修行 〜基礎編
私の魔力庫に入っている大量の肉。その内、迷宮でゲットしたやつはどれが何だったか最早さっぱり分からない。だから美味しそうな順に片っ端から焼いてやった。
特にアンデッドや魔物が集まるということもなく、夕食が終わった。そうなるとお風呂タイムだな。迷宮内でも欠かすことのなかった寛ぎと悦楽の時間だ。
「ガウガウ」
分かってるって。手洗いだろ? まだ体が痛いのに。カムイは甘えん坊なんだから。まあ夜の見張りを頼むんだからこれぐらい当然だけどさ。カムイやコーちゃんのおかげでほぼ無警戒でアレクとイチャイチャした上にぐっすり眠れるんだから。
そして翌朝。起きてびっくり、などということもなく普通の朝だった。強いて言うならもうすでに朝ではなく、たぶん午前十時過ぎってことぐらいだろうか。太陽的に。昨夜もつい盛り上がってしまったもんなぁ……アレクはまだ寝てるし。
「ガウガウ」
散歩に行ってくる? いいけど昼までには帰ってこいよ。
あんまり寝てないだろうに元気なやつだなぁ。あ、コーちゃんも一緒に行くのね。行ってらっしゃーい。
そうなると私は少し暇だな。よし、心を落ち着けて錬魔循環だな。やはりこうした基本の稽古を疎かにしないことが強者の条件だからな。
魔力が全身をゆっくりと廻る。最初は小川のようにさらさらと。そこから少しずつ量を増やし、早さを増して。
やがて大河の激流のごとく魔力をぶん廻し……ここからさらに魔力を込めると……まるでオイルでも流れているかのように滑らかに、スムーズに体内を巡っていく。一切の魔力抵抗なし。魔力のロスをなくし、百の魔力を使って百の威力を出すために必要な境地でもある。精密制御や発動速度を上げるためにもこのような基本を疎かにしてはいけない。
そして……さらに魔力を込めてブン廻すと……
魔力が流れているのかいないのか分からない不思議な状態、山奥の静謐な泉状態になる。
この状態では魔力の精密さが桁違いとなる。普段何も考えず百程度の魔力を込めている『
そしてさらに魔力を込め、廻し続けた先にあるのが、何もない白い空間状態だ。ここに至り、私の魔法は他者と隔絶したものとなった。同じ百の魔力を込めたとしても、他者では私の百に勝てない。魔力の質、魔法の基礎そのものが違うのだ。いかに基礎が重要かよく分かるというものだ。なのにまだ、私はあの時の母上の『
よし、では最後に……『魔力解放』
ふぅ……すっきりした。昔は毎日のように魔力を空っぽにしてから寝ていたものだが、旅先や魔境ではなかなかそんなこともできないもんな。今は昼だし、この街道は安全っぽいから一割ほど残して全部を放出してみた。全身から一瞬にして放出できるのも私の強みだ。
「カース!?」
「あ、おはよ。ごめんごめん。起こしてしまったね。あはは。」
普段は他者からほぼ感知されない私の魔力だが、魔法を使ったり放出すればもちろん感知される。大量に放出したのだから尚更だ。
「もう……驚いたじゃない。何か大物でもやって来たのかって。」
「ははは、ごめんごめん。でも大物は来ると思うから眠気覚ましに相手してみたら?」
「そうね。それもいいわよね。」
さーて、どこから来るかな? 範囲警戒はオフにしておこう。アレクに任せた。
『浮身』
空へ十メイルほど浮かび上がったアレク。なるほど、広範囲を目視で警戒するためだな。慎重でいい。そして下からの眺めも素晴らしい。今日はピンクか……
ぴしっ……
むっ!? 慌てて前方に飛び込むように回避した私。足元からは黒い何かが立ち昇っていった。
ほう……大百足か……横幅一メイル半、全長は見えているだけで十メイルか。
『火球』
アレクの魔法が奴の頭に直撃するが……
「シュパァーーーーーーー!」
声なのか、単に息を吐いただけなのか分からない妙な音を発してアレクに襲いかかった。上昇するアレクを追い越し、上から押さえ込むかのように。
『水球』
アレクの必殺パターン。ゴブリンやオークの頭部を覆って窒息させるエゲツない魔法だ。
しかし、大百足の動きに変化は見られない。何も意に介さずアレクを追い続けている。ムカデってどこで呼吸してるんだろ?
大百足は先端の大鋏でアレクを捕らえんと体をどこまでも土中から伸ばしていく。もう五十メイルは出てるぞ? どんだけ長いんだよ。そしてそれだけもの長さの体を屹立させるほどのパワーまで兼ね備えているとは……侮れない魔物だよなぁ……
今のところ『火球』『水球』『風斬』『落雷』のどれも効いてない。めっちゃしぶといけどアレクはどうするのだろう? 気のせいか飛ぶ速度が少し遅くなってきたような……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます