1338話 カースの無茶振り、アレクサンドリーネの奮闘
アレクは結構ギリギリで避け続けている。大百足の鋏だけでなく、無数の脚からも。
キモいことに大百足の脚は見た目は一メイルちょいぐらいしかないのだが、アレクが近寄ると伸ばしてきやがるのだ。およそ三メイルほどにまで。本数は多いし、つくづく厄介な魔物だ。絶対百本どころじゃないよな。
「シュヒューーーー!」
またもや大百足から妙な声が聞こえる。どこから発してるんだ?
アレクの胴体を狙っているのか大百足はやけに動きが大きい。アレクはそれを縦横無尽に、時には浮身の魔法を解除したりしながら避け続けている。先ほどからさっぱり攻撃をせずに。何を狙っているんだ?
あっ、地面に降りた!? 上から大百足が迫ってくるぞ!
『身体強化』
おお! ダッシュで躱した! アレクやるぅ!
大百足は頭から地面に突っ込んだが、すぐに首をもたげてアレクに迫る。ちょっ! アレク! そっちはあいつの胴体が!
わざわざ地面から屹立する大百足に向かって逃げなくても……おぉ、うねる数多のキモい足をどうにかスルーした。何やってんだよ……大百足の追跡が止まらない……
『氷球』
おっ? 下からぶつけて……かち上げた?
『浮身』
『風操』
飛び上がって……あいつの鋏目がけて突っ込んだ? マジか!?
「ピュヒューーーー!」
喜び勇んで鋏が閉じる……が、ギリギリですり抜けたアレク……あ、髪が少し切れてる! 髪型には影響ないぐらいか。危ないことを……しかしピンチが去ったわけではない。依然として大百足は一直線にアレクを追い……動きが止まった?
あっ! なるほど!
あんな不自然な逃げ方をしてたのはこれが理由か!
大百足のやつ、自分の体を固結びしてやがる。所詮は人間様の知恵に比べたら、大きいだけの魔物なんて獲物を追いかけることしかできない間抜けってわけだな。むしろそこまで上手く誘導したアレクの方が数段上手だったってことだな。お見事!
『ムゲームタイ コーエンオウ チョーニーガ コージンセイ ヒッシメッドー 天を貫く
おお! 普段なかなか使い道のない火柱だが、縦長の魔物にはピッタリじゃないか! 体に沿うかのように炎がまとわりついている! しかも丁寧に詠唱したので威力マシマシ! アレクを狙いたくても思った通りに体を動かせず、その場であたふたすることしかできていない。それでもアレクは油断せず周囲も警戒している。偉い!
そして一分後……「キュシューーーーー……」
断末魔なのかよく分からない音を立てて、大百足は地面へと崩れ落ちた。本来なら骨も残さず燃やし尽くす魔法なのだが、表面がこんがり焦げる程度で済んでいる。どうやら相当魔法に強い魔物だったんだろう。それでも半身を丸ごと火に巻かれてはどうにもならなかったってところかな。
「アレク、まだ触っちゃだめだよ。少し待ってね。」
「ふぅ……ええ。分かってるわ。後は頼むわね。寝起きでこんな大物と戦わせるなんて、カース酷いわ。今夜はご褒美をたっぷり飲ませてもらうわよ?」
「ふふ、分かってるって。たっぷりね。」『金操』
大百足を地面から抜く。うっわ、なっが! 何メイルあるんだこれ?
街道にそってまっすぐ置いてみる。うわー、二百メイルは超えてるな。こいつ一体どこに魔石を持ってるんだろう? さすがに解体なんてやってられないぞ? とりあえず収納っと。よし、間違いなく死んでた。
「これでよし。お見事だったね。いい動きだったよ。疲れただろうから朝食は適当にあるものを出すね。」
「ええ、ありがとう。思ったほど魔法が効かなくて焦ったわ。でもどうにか倒せてよかった。カースから貰ったドラゴンウエストコートのおかげで至近距離で戦う勇気が出たの。いつもありがとう。」
そう言って私のほほに口づけをするアレク。可愛すぎる……
そりゃ私達が着てるウエストコートはムカデごときには傷一つ付けられない代物だけどさ。それでも首から上、アレクは膝周辺も無防備なんだからさ。よくやったもんだよ。
あと、切断には強くても圧迫には弱いんだから注意が必要だよね。そこが鎧と比べて弱い点なんだよなー。やっぱ決戦用に鎧もあった方がいいかな……まあ後回しだな。ムラサキメタリックの鎧なんか作っても私には邪魔なだけだしね。
『水壁』で作ったソファーに腰を下ろしてお食事タイム。アレクのミニスカートの奥にチラチラと見えるピンクの布が私の目を奪うんだよな……でも夜まで我慢しよう。こうして欲望エネルギーを溜めることも人生には大事なはずだ。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
おっ、帰ってきたね。おかえり。おや、お土産かい? へー、猪か。特に魔物ってわけでもない普通の百キロル程度の奴だね。今夜は牡丹鍋で決まりだな。『火球』
威力を調整して……毛だけを燃やしておく。現代日本だと火力強めのガスバーナーじゃないとなかなか燃えてくれないんだよな。私の火球の場合だと丸ごと炭になるので注意が必要だが。
よし、上手く燃えた。ついでだから解体しておこうかな。『浮身』
両足を持ち上げて、頭を下に。
「アレク、ここに落とし穴を開けてくれる?」
「いいわよ。」
『落穴』
今日は内臓を食べる気分じゃないし、肉以外は全部捨てよう。内臓を傷つけないように腹を割いて……『水壁』の魔法で肛門を塞ぐ。後はちょちょいと切れば……内臓が全て穴に落ちるって寸法だ。私も少しは解体が上手くなったかな。
「いいお手並みだったわ。だいぶ上達してるわね。」
「いやー、まだアレクほどじゃないよ。でもありがとね。」
私の解体の腕は七等星の標準レベル。つまり、六等星にしては下手な方だったりする。まだまだだな。でも夕食に楽しみができたことだし、今日もしっかり歩くとしよう。
ちなみに穴にはコーちゃんが飛び込んで、心臓や肝臓など美味しいところだけ食べていた。さすがコーちゃん、抜け目がないね。
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