1320話 赤兜騎士団二番隊

現れたのはやはり赤兜だった。まったくもう……私とアレクはもう裸、風呂に入ってるんだぞ?


「これは? いい匂いがすると思ったら……」

「おや? サザールさんじゃん? 酒飲んでんのか?」

「ふぇー疲れたー。お疲れ様でーす!」

「ありゃ風呂か? どうなってんだ?」


「お前達か……この酒はやらんぞ……」


そっちはそっちで勝手にやってくれ。私は風呂でアレクとイチャイチャするんだから。


「サザール……お前一人か? どうしたことだ?」


「全員死んだぞ? 魔王の怒りに触れてな……」


「魔王? 何を言っている? このような深層まで酔うほどの酒を持ち込んでいたのか? 正気になれ!」


嘘ではないが大袈裟なことを言いやがって。


「ふっ……正気か……お前こそ魔王に正気に戻してもらえ。あそこにいるぞ?」


えーい、こっちを指差すな!


「魔王だと? あれは……風呂か?」


「隊長ぉーいい女がいますぜー?」

「こいつぁ堪らんなぁ! 俺らも入ろうぜ!」

「隊長お先っす!」

「で、サザールさん魔王って何すか?」


えーい、こっちに近寄るな!


「そこまでだ。それ以上近寄るな。風呂に入りたいんなら一時間待ってろ。」


「何だこのガキ? 調子コイてやがるぜ?」

「でけぇ風呂入ってっからって強くなったつもりかぁ?」

「お前は出ていいぜー。そっちのかわい子ちゃんは俺が洗ってやるからさー」

「へー、いい木材使ってんなぁ。さっさと入ろうぜ!」


うーん、やっぱり赤兜はこうでないとね。


「お前ら風呂に入るんなら脱げよ。」


「バカかこいつ? 鎧着たまま風呂入るわけねーだろ?」

「一時間も待つわけねえだろ? さっさと出ろや」

「そんなに俺らの体が見てぇのか? お前の貧弱な体と一緒にすんなよ?」

「おーし、一緒にあったまろうねー!」


バカが。もう裸になりやがった。汚いモンをブラブラさせやがって。『解呪』

別に殺してもよかったんだけどね。


「あれ……?」

「何やってんだっけ?」

「迷宮で……風呂入るんだっけ?」

「だよな……? うーん……」


「正気に戻ったんなら服着ろ。裸のまま一時間待つ気なら構わんけどな。」


「お、おお……」


意外に素直だな。服を着やがった。洗脳されてないとこんな感じなんだろうか。


「貴様……うちの者に何をした!?」

「返答次第ではただではおかんぞ!」


この二人のどっちかが隊長って呼ばれてたな。あっちで酒飲み隊長とお喋りしてればいいものを。ご丁寧にムラサキメタリックの鎧に換装してるし。声からすると一人は女かな?


「見て分かんないか? 邪悪な呪いを解いてやったんだよ。感謝して欲しいぐらいだ。お前らも解いて欲しければ鎧を脱げば?」


「ふざけるな! 我らにそのような呪いなどかかっておらぬわ!」

「いつまで風呂に入っている! さっさと出てこぬとたたっ斬ってくれるぞ!」


この湯船に傷なんかつけやがったら死刑だぞ。


「お前達、その辺にしておけ。たった二人でここまで降りてくるほどの冒険者だ。只者であるはずがないだろう……」


おー、酒飲み隊長。酔っててもまともなことを言ってるな。コーちゃんとカムイを入れて四人だけどね。


「サザール……臆したか? それでも三番隊隊長か!」

「サザールさん、飲み過ぎじゃないですか?」


「怖いのか? どう見てもまだ十代の小僧だ。それが怖いのか? そそくさとムラサキまで纏うとはな……そやつが使った魔法はただの解呪だ。もっとも、込められている魔力は恐ろしく濃密だがな……怖くないと言うなら鎧を脱ぎ、解呪を受けてみればいいさ……」


おおー、煽るねぇ。でも……じゃあ受けてやるよ、とは普通ならないけどね。


「ふん、この俺が臆しているとでも? いいだろう! 受けてやるさ! おい小僧! やってみるがいい!」

「さすが隊長! 勇敢です!」


受けるんかーい! なんて単純な奴だ……あ、本当に鎧を脱ぎやがった。なら遠慮なく『解呪』


「ぬっ……これは……」

「あ……」


「おい魔王、おかわりはないのか?」


ついに魔王呼ばわりかよ。まあ少しは役に立ったから良しとするか。


「ほれ。」


ヒイズルの酒ならまだまだあることだし。くれてやるさ。


「そいつら適当に教育しといてくれよ。具体的にはこっちに近寄らせるな。この湯船は出しておくから俺達が上がったら好きに入ればいいさ。でも傷なんか付けたら殺すからな。」


ピラミッドシェルターに穴を空けやがった赤兜もいるしな。


「分かった。よく言っておく……」


やれやれ。色々あったけどこれでのんびりできるな。アレクもカムイも我関せずって感じで風呂につかってるんだから。言葉で撃退するのはアレクの役目だと思うのだがどうか。

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