1305話 満身創痍

アレクが魔力庫から取り出したのは……ポーション?


「昔、先代ゼマティス卿にいただいたポーションよ。きっとすごくよく効くと思うわ。」


「あぁー! 僕が魔法を使えなくなってた時、王都から帰る時に貰ったやつ!」


「その通りよ。とっておいてよかったわ。」


懐かしいなぁ。私も貰ったのだがとっくに使ってしまっている。それをアレクは大事に持っていてくれたのか。賞味期限は……大丈夫だろう。アレクの魔力庫に入ってたんだから。


アレクはその封を切り、私の体に少しずつかけていく。たぶん冷たいんだろうな。あまり感じないが……

それからマッサージを開始。私がアレクによくやるポーションマッサージだな。それもゼマティス家の秘蔵ポーションを使った贅沢版。これはありがたいね。




ポーションだけでなく、アレクの汗までもが私の肌にポタポタと垂れてくるのが見える。そこまでの熱意を込めてマッサージしてくれるなんて……ありがたいなぁ……


「ここまでにしておくわ。あんまりやり過ぎると体に良くないって聞いたことがあるから。」


「うん、ありがとね。こんなに一生懸命してくれて嬉しかったよ。」


後はゼマティス家の秘蔵ポーションとアレクのマッサージの相乗効果に期待して、休むとしよう。アレク、ありがとう。


ピラミッドシェルター内の布団に横になる私。そんな私の腹の上でとぐろを巻くコーちゃん。両隣にはアレクとカムイ。完全防備だな。よく眠れそうだ……無痛狂心が切れる時までは……




それから……およそ一週間。私は無痛狂心が切れるたびに激痛に襲われ、その度に目を覚ました。


「がっ! はぁ、ふぅ、ふぅ……」


「カース……」


いかんな……

いい加減アレクに心配をかけ過ぎだよな。体感で少しずつ良くなってきてはいる……だが、まだまだ全快にはほど遠い……




さすがに時間の無駄が過ぎるな……


よし! 決めた! 行こう!


「アレク、いい考えを思いついたよ。」


「えっ? 何?」


「簡単な話だよ。このまま進もう。」


「そ、そんな……カースの体が……」


「大丈夫。僕は鉄ボードの上に寝ておくよ。浮身は使っておくからカムイに引っ張ってもらおうよ。あの時みたいにさ。」


私が魔法を使えなくなっていた頃、あの時もそうして王都から帰ったんだもんな。


「そうね。確かにいい考えね。カムイは大丈夫なの?」


「ガウガウ」


楽勝だって? カムイはすっかり傷が癒えてるもんな。頼むぜ?


「楽勝だって。アレクも鉄ボードに乗ってさ、上から魔物を仕留めてよ。」


「分かったわ。任せてもらうわ。あの時の私より、強くなったつもりよ?」


「僕もそう思うよ。頼りにしてるからね。」




さて、ここは地下三十二階。現れる魔物はトロル。脳筋なこいつらがカムイを道連れにすることができるとは……

カムイからよくよく聞いてみれば、その直前に切り裂いたトロルの血で足を滑らせた時に落とし穴が開いたらしい。しかも、トロルを蹴って駆け上がろうとしたのだが、上から別のトロルが落ちてきてどうにもできなかったと。


それから、壁を駆け上がろうにも既に天井は閉まった上にトロル達は瞬く間に鰐どもに食いつくされた。しばらくはその鰐どもの鼻先を蹴りながら落水せずにやり過ごしていたが、小賢しい鰐どもは一斉に水中に引っ込んだ。必然的に落水するカムイ。

そんなカムイに大口を開いて襲いかかる鰐ども。牙に牙で対抗するも、ろくに身動きも取れない水中だ……

無数の鰐の強靭なあぎとを相手に……もう無我夢中だったと……

いち早く脱出したコーちゃんが、必ず私を連れてくると、疑いもなしに……


泣かせるじゃないか……本当に間に合ってよかったなぁ……


ちなみに私は鉄ボードの上に布団を敷いて横になっている。進行方向に足を向けて寝て、足元が下になるよう少し角度をつけているので前は見える。コーちゃんは私の腹の上から動かず、アレクとカムイが奮闘してくれている。アレクなんかさっきまで私の隣にいたのに。

でも、このメンバーなら安心して見ていられるよな。頼むぜ、三人とも。

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