1304話 地上と地下

カースが身動きできなくなった頃……

地上、カゲキョーの街では……


「よこせ! そいつぁ俺んだぞ!」

「ふざけんな! 見つけたんは俺どぉ!」

「てめぇさっき食ったろぉがや!」

「腹ぁ減らしてんのぁ俺も同じじゃあ!」


街の人間同士で食糧の奪い合いが始まっていた。そんな状況なのに、騎士団は一体何をしているのか?


赤兜騎士団は……


「やってられっか! 俺ぁ抜けるからな!」

「俺もだ! もう行こうぜ!」


「貴様ら! 天王陛下の御恩を何と心得ておるか!」


「知るか! 何が御恩と奉公だ! 使い潰すだけじゃねぇか!」

「おっと、この鎧は貰ってくぜ? どうせ自分でしか使えねぇからよ?」


「き、貴様らぁ……あ! お代官様! こやつら裏切り者ですぞ!」


カースにより解呪をかけられた者は正気に戻り、今まで迷宮内での行動が全てただ働きであったと認識している。だが、そうでない者から見れば自分達を見出してくれた偉大な王を裏切る行為に他ならない。

それは当然代官も同じで……


「痩せ浪人だったお前達を拾ってくださった天王陛下に……弓を引くと言うのだな……」


「ち、ちが……俺たちはただ……」

「べ、別に天王陛下に逆らおうってんじゃっぺっ「もう死ね!」


代官の一刀が首を斬り裂いた。


「ヒノリ! くそっ、やっぞてめぇら! 代官もこいつらも皆殺しにしちまえ!」

「おお! 舐めんじゃねぇぞ!」


瞬く間にムラサキメタリックの装備に換装した反乱騎士達。だが、ムラサキメタリックの装備を持っているのは代官達も同じ。つまり、勝負を分けるのは……数であった。




「はぁ……ぐっふ……」


「お代官様……ご無事で?」


「あぁ……こいつらは腐っても赤兜だな。手こずらせおって……」


「これからどうされます? ひとまず天都へ救援を求めますか?」


「バカ者! この有様を天王陛下にお知らせなどできるかぁ! 何としても我らだけで解決するのだ! 生き残りをまとめよ! それから騎士団はどうしておるか!?」


「おりません……ほとんどが迷宮へ突入していきました。それ以外は逐電してどこぞへ散っております……」


「くっ、役立たずが! 所詮は天王陛下に御目見おめみえが叶わなかった程度の奴らか……まずは代官府の守りを固めよ! 平民どもの統制はそれからだ!」


「はっ!」


カースが解呪をかけた赤兜の方が、かけられてない赤兜より格段に数は多い。だが、そんな者でまだカゲキョーに残っている者はほとんどおらず、まとまりのよい代官側の赤兜には対抗できなかったのだ。しかも、代官の強さの前にはそこらの赤兜では束になっても太刀打ちできなかったという現実もある。

そのような経緯もあり代官府周辺だけは、どうにか秩序を取り戻しつつあった。


なお、一儲けを企んで街に食料を運んできた行商人の多くは街を脱出する赤兜の目にとまり……略奪の憂き目にあった。その様子は当然噂となり近隣の街にも広がることだろう。

すると、必然的に……ますます街に食料が届かなくなるのであった……


そうなると、飢えた平民が次に起こす行動は……街を脱出するか、代官府に訴え出る。さもなくば集団で略奪に走ることぐらいだろう。迷宮の街として栄えたカゲキョーも、徐々に悪い方へと転がっていった。


一方、そんな状況を作り出した張本人は……





「あがぁっ!」


「カース!? 大丈夫なの!?」


『無痛狂心』


「ふー、大丈夫だよ。ちょっと目が覚めただけ。起こしてごめんね。」


マジかよ……ぐっすり眠ってたはずなのに、激痛で目が覚めた……どんだけ酷い筋肉痛なんだよ……もう一日近く横になってるのに全然痛みが引かない……ポーションだってちびちび飲んでるんだけどな。

体だって動かないなりに金操を使ってストレッチをしている。いくら痛いからってただ寝ているだけでは治りが早くなるものでもないだろう。少しは動かさないとな。


「カース、すごい汗よ。お風呂入る? 私、洗うわよ?」


「そうだね。そうしようか。湯船に横になるから悪いけど頼むね。」


情けないことに、まだ自力では指一本動かせないんだよな……幸い魔法が使えるから不自由はしてないが。それに、アレクが献身的に面倒を見てくれるのも嬉しいなぁ。うう、泣きそう。


『浮身』


風呂までひとっ飛び。服を脱ぐのも換装で解決。そして湯船に身を浮かべる。アレクが柔らかいタオルを使い、体を洗ってくれる。きっと普段ならさぞかし気持ちいいんだろうけど、今は無痛狂心を使ってるからあんまり感覚がないんだよな。ちょっと魔力の方向と威力を変えて痛覚だけを遮断することもできるのだが、魔力の消費が酷くなるからな。今はこれでいい……


あ、次は頭を洗ってくれてる。頭皮マッサージぽくて気持ちいい、気がする……


「さあ、きれいになったわよ。じゃあ次ね。外に出てくれる?」


「いいよ。」


湯船の外に出る。床にコートを敷くアレク。


「ここに寝て。うつ伏せにね。」


「分かった。」


ふふ、マットの代わりにドラゴンコートを使うだなんて。かなりの贅沢だな。

うつ伏せしようにも腕が動かないから枕代わりに水壁。ドーナツ型のクッションだ。


「いいものがあるわ。きっとこんな時に使うべきなのよ。」


「おっ、何かな?」


アレクはどんな良いものを持ってるんだ?

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