1306話 地下三十六階

そして、到着したボス部屋。ここぐらい私が働かないとな。


「ここは任せてよ。アレクは周囲の警戒してて。」


「え、ええ……分かったわ。」


当然現れるボスはトロル。一発で決める!


『火球』


私の魔法はホーミングだからな。どんな状態から撃とうが頭部に命中する。終わりだ。


「カース、大丈夫?」


「うん、体を動かしたわけじゃないからね。さ、素材を拾って降りようか。」


「ええ。」


さて、いよいよ地下三十三階だな。とりあえず安全地帯を見つけて……休もう。それから風呂だな。


先ほどまでと同様、カムイに鉄ボードを引っ張ってもらう。すまないねぇ……こんな体になったばっかりに……お前にばっかり苦労をかけて。


「ガウガウ」


黙って寝てろって? 頼りにしてるぜ。




そして横になったままカムイに引かれる私。目を閉じて『浮身』と『魔力探査』それから『自動防御』を使っている。つまり、横にはなっているが眠っているわけではない。罠があるから完全に無警戒とはいかないもんな。





こうして、ゆっくりと探索と休憩を繰り返すこと五日。私達は三十五階を攻略した。まあ私はほとんど寝てただけだがボスだけは仕留めた。少しは役に立たないとな。


そして、アレクによる連日のポーションマッサージのおかげもあり、ようやく立てるようになった。ちなみにゼマティス家の秘蔵ポーションはもうない。

まだ歩けないんだけどな……




そしてここは地下三十六階の安全地帯。本日の探索を終え、ひとっ風呂浴びたところだ。


「今日と明日はここでのんびりしようよ。アレクもだいぶ魔力を消費してしまってるよね。」


たぶん二割を切ってる。


「ええ、結構きついわね。のんびりさせてもらうわ。でも、後でね?」


そう言って健気にマッサージをしてくれるアレク。優しさが沁みるなぁ。それに、もう十日以上も夜のお務めを我慢をさせてしまっている。ごめんねアレク。さぞかし欲望エネルギーが溜まっているだろうに、私の体を気遣っておくびにも出さない。


「僕が元気になったらたくさん楽しもうね!」


「もう……カースったら……そんなこと言われたら、我慢できなくなるじゃない……」


「はは、ごめんごめん。でもアレクのおかげでだいぶ良くなってきたし。もうそろそろだと思うよ。」


歩けないまでも立てるようにはなったし、自力でのストレッチも少しはできるようになってきた。


「私の方こそ……いつもカースが欲しくて……それに私がお義母様みたいに治癒魔法が使えたらカースだってもっと早く元気になってるかも知れないのに……」


「はは、無理なものは無理だよ。僕だって治癒の魔法は使えないんだから。別に急ぐ旅じゃないんだから、のんびりと楽しもうよ。」


確かに母上なら治してくれそうだな。

普通の筋肉痛ならポーションで治るんだけどなぁ。まあ筋肉痛をポーションで治してしまうと鍛錬の意味がなくなるので普通はやらないが。今回はそれを無視してポーションを飲んだり塗り込んでマッサージしている。そこまでやってこの回復の遅さ。もし自然に任せてたら何ヶ月かかることやら。いくら急いでないとは言ってもさすがにそれは遅過ぎるもんな。


ちなみにアレクは私だけでなくカムイも手洗いをしてくれている。苦労をかけるねぇ……私がこんな体なばっかりに。





それから翌日を丸々休息にあて、アレクの魔力は全て回復した。カムイは退屈そうにしていたが、さすがに散歩に出ることはなく時々コーちゃんと軽く狼ごっこをする程度だった。




そしてさらに翌日。私はついに歩けるまでに回復した。だからって呑気に歩いたりしないけどね。きっちり回復するまでは鉄ボードでの移動をやめるつもりはない。安全第一だからな。

今までと違うのは鉄ボードの上に寝るのではなく、座っていることだ。あぐらをかいてのんびりと。これなら魔物が現れても私が対応することもできる。それに、まだ赤兜どもは何組かいるらしいからな。あれから出会ってはいないけど油断はしてないぞ。ここまで深い所まで潜ってる奴らはどう考えても凄腕だろうからな。


ちなみにこの階層の魔物は、なんとゴブリンだ。しかし、ただのゴブリンではない。ローランド王国で言うところの上級ゴブリン、いわゆるレッドキャップだ。


長い上に薄気味悪く汚い髪。ぎらぎらと血走った赤い眼。ギザギザと突き出た黄色い歯に、手には鋭い鉤爪。見た目はそこらのゴブリンと全く違う。醜悪で背の低いジジイってとこだろうか。赤い帽子と鉄製の長靴なんか身に着けやがって、杖や斧を持ってやがる。


しかもこいつらは私達の目の前五メイルで現れるのではなく、どこかで既に発生しているらしく曲がり角に身を潜めてこちらを待ち構えたりもしている。まあ、カムイがいるからそんな待ち伏せなんか意味ないんだけどな。

そして待ち伏せがバレたとなると、狂ったように強烈な殺意で私達に襲いかかってくる。時には斧をぶん投げたりもしてくることも。確かに凶暴な奴らではあるのだが、首を切り裂いたり額に穴を空ければ死ぬのは他の魔物と変わりない。つまり敵ではない。


オーガやトロルのような大きい魔物の後に出てこられると非常に狙いにくくはあるんだけどね。かなり素早いし。でも私やカムイには関係ないな。ちなみにこいつらが落とす素材は小さな牙だった。売れるのか……?

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