1302話 カムイのおさんぽ

あー疲れた。ついつい身体強化まで使ってしまったし。またしばらく筋肉痛だな……まあ肉体の鍛錬にはちょうどいいか。


「アレク、援護ありがとね。助かったよ。」


「どういたしまして。別に必要ないとは思ったんだけど。私も少し腹が立ってたし。」


「だよね。いきなり切り込むなんて酷いよね。やっぱり赤兜は野蛮な奴らだよね。」


「本当ね。それよりコーちゃん達はまだかしら? そろそろ帰ってきてもいい頃なのに。」


「そうだね。あの二人に限って問題ないとは思うけど。探しに行って入れ違いになっても嫌だし、夕食でも食べながら待ってようよ。」


「それもそうね。きっと大丈夫よね。」


そして料理を始めるアレク。設備がないなりに魔法を併用し工夫してくれている。すごいなぁ。


私はシャツを替えてポーションを飲もう。膝が折れる寸前だったからな。結構痛かったんだぞ。しかもそんな状態なのに無理やり身体強化を使って大技を放ってしまったからな。うー痛い。関節の怪我は後々に響くからしっかり治しておかないとな。




「お待たせ。さあ、温かいうちに食べましょ。」


「おおー! 美味しそうだね! いただきます!」


コーちゃんとカムイがちょっぴり心配だけど、まあ問題ないだろう。あぁ美味しい……やっぱり私がただ焼くだけのバーベキューと違って、一手間かけた料理は美味しいなぁ。さすがアレク。




「ご馳走様! 美味しかったよ!」


「どういたしまして。それにしてもコーちゃんたち遅いわね。探してみる?」


「うーん、それもそうだね。散歩がてら行ってみようか。」


入れ違いを防ぐためにアレクにはここに残っておいて欲しくもあるが、また別の赤兜が現れたら最悪だもんな。一緒に行こう。ある程度近付けば『伝言つてごと』や『発信』が届くだろうし、それにまさかあの二人に限ってピンチに陥ってるってこともないだろう。まあのんびり歩こうではないか。




少し歩いた頃、遠くから慌ててこちらに這ってくるコーちゃんが見えた。


「ギャワワッ! ギャワワッ!」


「コーちゃん! そ、その声は!」


コーちゃんが警告してくれる時の声だ! あ、カムイがいない!? 一人でここまで戻ってきたのか!?


「ギャワッ!」


カムイが落ちたって!? コーちゃんも一緒に落ちたけど、私に知らせるために一人で這い上がってきたのね。しかも下は水が溜まっており、何やら魔物が棲んでいるだって!? おまけに落ちた後に上が閉まったの!? コーちゃんなら蓋が閉まろうが関係なしにすり抜けられるんだろうけど……カムイには無理だ……あのバカ!


「アレク! カムイが危ない! 乗って!」


久々登場の鉄スノボだ。このような迷宮ではミスリルボードは小回りが利かないからな。


「分かったわ!」


一つのスノボに二人で乗るのは少々狭いが、その分密着すれば操作性が増す。コーちゃんの案内に従って最速で現場へと向かう。道中に現れる魔物はことごとくね飛ばした。


移動すること十五分。右左、左右とかなり入り組んだルートを過ぎた頃……「ギャワッ」


ここだね!?


何の変哲もない迷宮の通路。ここに落とし穴があるのか……一体なぜカムイは落ちたのか……


「ピュイッピ」


大勢の魔物と混戦になってそいつらごと落ちてしまったのか。ここら一帯が丸ごと落とし穴になったと……


「アレク、浮身を使っておいてね。ここら辺は丸ごと落とし穴らしいよ。」


「ええ。カムイが落ちるぐらいだもの。相当範囲が広い落とし穴なのね。」


カムイならいくら範囲が広くても壁を蹴ったりしてどうにでもなりそうだよな。よほどたくさんの魔物と揉み合いになったのだろう。そんなことより……


「アレク! 落とし穴を作動させよう! そこら辺を片っ端から刺激してみるね!」


「ええ! 私は大丈夫よ!」


『氷壁』


円柱バージョンだ! どんどん転がれ!




くそ! 開かん! 床から壁から天井まで全部刺激したってのに!

はっ!? そういえば! 罠が一度作動したらその後ってしばらく動かなかったよな……くそが! それじゃあ間に合わないんだよ! いくらカムイでも暗闇の水中でどれだけ戦えるってんだ! あいつは泳げるけど潜るのはそんなに得意じゃないし! くそ……どうすれば……


そうだ……やるしかない……筋肉痛がどうとか言ってる場合じゃない……


「アレク、魔物が現れたら頼むね……」


「ええ、任せておいて!」


魔力庫から取り出したのはイグドラシル製の木刀『修羅』だ。初めてまともに使う相手が床とは申し訳ないが、カムイのためだ。勘弁してもらおう。


『身体強化』


もちろん魔力は大盛だ。薪割りでもするかのように迷宮の床に向かって振り下ろす。くそ、手首に衝撃がすごいな……

だが、そんなこと気にしてられるか! 待ってろよカムイ! 死ぬんじゃないぞ!




何十回木刀を振っただろうか。くそ、手首どころか全身が痛くなってきた……『無痛狂心』痛みなど無視だ!

しかし床にはヒビすら入ってない……

まだ威力が足りないのか……それなら……さらに『身体強化』

魔力超特盛だ。後のことなんか知るか!


木刀を背中まで振りかぶり……全力で床に……叩きつける!


よし! やった! ほんの少しだがヒビが入った!


もう一度、二度、三度……


そして六度目……ついに、床が陥没した!


下が見える! ちっ、やはり真っ暗だ!


『光源』


穴の中を照らす! カムイはどこだ!


「カムイ! 大丈夫か!」


カムイ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る