1303話 代償
空いた穴は私の頭サイズだ。これではまだ降りられないし、カムイを引き上げることもできない。だが……『落雷』
この程度でも穴があれば下に魔法を撃ち込める。そして落雷ぐらいではカムイにダメージなどない。先に水中の魔物を仕留めてしまわないと……
「カムイ! 無事か!」
「ガブッ、ゲブッ」
大丈夫じゃない? 傷口に雷がしみるって? そんだけ元気があれば上等だ。もう少し待ってな。
これで時間は稼げる……後はカムイが通れるほどのサイズに穴を広げて……
「ゴボァガァァァァーーーー!」
「ガァバオァァァァーーーー!」
「ゲブゥゴォォォォーーーー!」
ちっ、まだ生きてやがったか! あれは……鰐か! くそ、何匹いやがんだよ!
「アレク! カムイに浮身を!」
「任せて!」
小さな穴から遠隔で魔法を使うのは難しい。だがアレクなら……
「かけたわ!」
「よし! そのままでお願い!」
さらに急いで修羅を振る。どうにかカムイが通れるサイズまで……
くそ、もう少しなのに……一体この床はどんな材質で出来てんだよ! 硬いくせに粘り強い!
『氷弾』
アレクは下に向かって牽制をしてくれている。鰐どもは水中から飛び上がってカムイに噛みつこうとしてきやがるからな……
アレクは私が修羅を振る動きに合わせて、まるで餅つきの相手役のように。タイミングを見計らって氷弾を撃ち込んでくれる。阿吽の呼吸だな。
そして……ついに……
「ガウゥ」
よし! ついにカムイの救出に成功した! やった……
「カムイ、これ飲め。」
「ガフゥ」
体中が傷だらけだ。おまけに水から上がったばかりなのに真っ白だった毛並みが赤黒く汚れている。暗闇の水中であれだけもの巨大鰐を相手に……よく生きてたなカムイ。心配させやがって……
さあて、安全地帯に戻る前に……
死ねやクソ鰐ども!
『轟く雷鳴』
広範囲に雷を落とす魔法だが、それをこの小さな穴から落とせばどうなるか……
轟音を立てて稲光が視界を埋める。
次の瞬間、穴から大量の熱水が吹き上がり天井に直撃した。熱水は周囲を濡らし、蒸気が充満し迷宮を覆う。
「ちょっとカース……すごく眩しかった上に、頭が割れそうな音じゃない……」
「いやーごめんごめん。ついムキになってしまったよ。カムイをこんな目に遭わされてしまったもんで。」
「あ、足元が!」
ほう、ようやく開いたか。時間が来たのか、それとも……
落とし穴の底は池、と言うより水牢だろうか。深さなど分からぬ仄暗い水はまさしく檻。カムイはこんな所に落とされて……巨大な鰐と一時間余りも戦い続けたのか。本当によく生きていたものだ。普通は即座に食い殺されてるよな……
当然ながらすでに鰐は一匹もいない。もしかして再び床が開いた理由は鰐を全滅させたからとか? そうでなければ下に落ちた人間が脱出できる可能性がなくなってしまうもんな。時間の経過を待ち、上に残った仲間が床を開けるか……下に落ちた者が自力で鰐を全滅させるか。助かるにはきっとその二通りと見た。やはりここの神はいい性格してんなぁ……
せっかく倒したんだから鰐の素材は欲しいけど……沈んでるんだろうな。潜ってる間に閉まったら嫌だしな。無視して帰ろう。どんな素材を落としたんだろうなぁ。逃した魚は大きいもんだしね。
「さ、戻ろうか。お休みは今日だけの予定だったけど、延期だね。長引くと思うよ。」
「そんなの構わないわよ。カースの体調が一番なんだから。」
「ガウガウ」
助かって良かったなカムイ。一緒にゆっくり休もうぜ。状況はまた今度教えてくれよな。
帰りはミスリルボードだ。魔力的にはまだ余裕があるが、体力的にそろそろヤバい。だから安全地帯に帰るまでは身体強化も無痛狂心も解除せずに……早く帰ろう……
安全地帯に戻り身体強化だけ解除すると……だめだこりゃ……体が全然動かない……『浮身』とりあえず風呂だ。湯船に横になって体を休めよう。
『金操』でポーションも飲んでと……
「カース、具合はどう?」
「いやー、だめだね。体が全く動かないよ。無痛狂心を解除したら激痛でのたうち回りそうだよ。しばらくゆっくりするね。」
「それがいいわ。こんな時ってしっかり揉むべきなのかしら?」
「どうかな。とりあえずしばらくは放っておいた方がいいかも。痛みが引いてきたら頼めるかな。」
「ええ、任せておいて。」
もし、このタイミングで本気の赤兜どもが攻めてきたら危ないな……
カムイは手負いだし……
幸い私の魔力はまだ余裕があるし、三日もあれば全快するだろう。体の方は……何日かかるんだか……
でもまあカムイが生きてたんだからそれでいいよな。問題なし!
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