1299話 生肉食べ放題
それからもアレクはゆっくりと、かつ着実に進んでいった。冷や冷やする場面はいくつかあったが、今のところ無傷だ。
だが……
『氷連弾』
『氷刃斬』
『氷嵐破』
「はぁ……はぁ……ふぅ……」
「アレク、大丈夫?」
「え、ええ……」
いかんな。だいぶアレクの息が上がってきている。先程から中級の上位魔法を連発したせいだ。トロルってしぶといからな。再生能力が高いんだよなぁ……
『氷塊弾』
うおー、身の丈五メイルのトロルをぶっ飛ばし、そのまま壁に叩きつけ……ぐちゃりと潰した。やるねー。
「ふぅ……はぁ……ここまでね。カース、代わってくれる?」
「いいよ。よくがんばったね! カムイに座って休むといいよ!」
「ガウガウ」
その代わり今夜も手洗いだと? 分かってるって。この甘えん坊め。
だいたい赤兜どもが六人がかりで連携しながら進む迷宮を一人で進んでいけば疲れるのも当然だ。体力や魔力は当然だが、いつ襲ってくるとも知れない罠の数々があるんだ。張り詰めた神経の疲労だってかなりのはずだ。よし、今夜はアレクにポーションマッサージだな。じっくり揉み揉みしよう。
おーし、では進撃再開だ。トロルはオディ兄の仇だ。皆殺しにしてやるぜ。うーん逆恨みも甚だしいな。
あ、来た。
『火球』
さっきまでは確信が持てなかったからあまり火の魔法は使わなかったけど、もう大丈夫だろう。なぜか迷宮内では酸欠にならないってことで。しぶといトロルも頭が燃えたら死ぬしかあるまい。
棍術の稽古もしたいがこの階層では無理だ。もう肉弾戦が通用するような相手ではないからね。魔法でごり押しするしかない。ちなみにトロルは肉を落とす。たまには野菜を落とす魔物とかいないのか? 果物でもいいんだが。
それから昼休憩を挟んでボス部屋へ到着。どうせデカいトロルなんだろうな。
ん? 危ねっ! マジかよ! いきなり目の前に現れやがった! そんなのアリかよ! とっさに風球で吹っ飛ばしてやったからよかったけどさ。ふー、焦った。
では距離が開いたので落ち着いて頭に『火球』
んー、よく燃えるね。
「ガウガウ」
え? カムイが戦いたかった? 先に言ってくれよ。
「ガウガウ」
もう一回やる? 仕方ないなー。じゃあ一時間休憩な。腹は減ってないからティータイムといこうか。
「と言うわけで休憩ね。さっきも休んだばかりだけど。」
「ふふっ、カムイったら自由ね。」
アレクの淹れてくれた紅茶を飲みながらしばし歓談。この中に入って一体何日が経ったんだろうね。さっぱり分からなくなってしまったよ。ここを出た時に時間の感覚は一体どうなってしまってるのか、少し不安ではあるんだよな。
部屋の中央で寝そべっていたカムイの目の前にボストロルが現れ、いきなり握り拳を叩きつけた。もちろんカムイに当たるはずもない。それにしてもカムイと比較するとますます大きく見えるな。十二、三メイルってとこか。
おっ? カムイの奴、すれ違い様に両足ともアキレス腱を切りやがった。バランスを保てず転倒するトロル。そんなトロルの腹の上を流れるように駆け抜けるカムイ。おおー、トロルの腹が横一文字に裂けた! なっ!? カムイの奴、そこに顔を突っ込みやがった!? 何やってんの!? うえっ!? いつの間にやらコーちゃんまで!? 二人してどうした!?
腹の上から二人を弾き飛ばそうと腕を振るうボストロル。だが激痛のためか見当違いのところばかりを攻撃してしまっている。まるで駄々っ子のように腕を振り回すのみだ。
あら、コーちゃんなんかとうとう見えなくなってしまったぞ……
「ガウッ」
むっ、閃光が走ったかと思えばボストロルの両腕がだらりと垂れ下がっている。腕の腱も切ったのか……なぜトドメを刺さない?
「ピュイピュイ」
おっ、コーちゃんがあいつの腹を突き破って出てきた。なになに? 内臓が美味しい?
はぁー、生で直に食べたのね。それでカムイもトドメを刺さずに手足が動かないようにしてるのね。しかもあいつの内臓って再生するから、もしかして食べ放題?
そう言えば大昔アレクんちで食べさせてもらったクイーンオークの心臓は美味しかったよなぁ……よし!
『氷壁』
巨大氷壁でトロルを拘束する。でも腹だけは剥き出しにしておく。
「ガウガウ」
ついでだから腹を裂けって? カムイはどこが食べたいんだ?
「ガウガウ」
あー、肝ね。で、コーちゃんは心臓が食べたいのね。よし、では解剖といこうか。ごめんねボストロル君。
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