1298話 お邪魔虫退散

ほぼ炭と化した肉片だったが、一分もしないうちに消えて素材が現れた。まるで先程まで何事もなかったかのように肉の塊が鎮座していた。やはり酸欠になることはないようだ。まったく、どうなってんだよ……


「カース! 大丈夫だったの!?」


「やあお待たせ。大丈夫だよ。ちょっと威力があり過ぎたね。」


だいたい予想通りではあるんだけどね。込めた魔力は同じでも密室だからな。モンロー効果だっけ? 全然違うか。


そして例によって腰を抜かしている赤兜のマカ。


「あ……あ、そ、そんな……い、一瞬にして……」


「ほれ、さっさと立って仲間を呼んできな。もうすぐ外に出られるんだろ?」


「あ、ああ……」


マカはどうにか立ち上がり入って来た扉を開けに行った。さて、どうやって帰るのか見せてもらおうか。


ボス部屋から出る方の扉を開け、階段を降りる。




「ここだ。ここら辺の壁に手を当てて『外に出る』と念じるだけでいい……ミノズ、ヤマニ、先に出ておけ。」


「はっ!」

「分かりました!」


赤兜の二人が階段横の壁に手を当てると……消えた!?


「こんな感じだ……だいたい地下一階の入り口辺りに出る。じゃあ世話になったな……」


「なるほど……よく分かった。ありがとよ。

お礼に一つ忠告だ。外に出たら自由に生きるといい。もうお前達を縛るものはないからな。」


「自由に? ま、まあそれもありだな……じゃあな……」


そう言って四人とも壁に手を当て、消えていった。こりゃあすごい。なんて便利なんだ。神域ってことを考えると最後までクリアすればスパッと帰れそうな気はしていたが、まさか途中で帰ることもできるとはな。まったく、性格が悪いかと思えばサービスのいい神もいたもんだ。でも即死の罠もあるしな……神の考えることはさっぱり分からんな。


「やっと二人きりになれたね。」


「ええ、そうね。早く夕食にしてお風呂に入りましょ?」


「ガウガウ」


「ピュイピュイ」


カムイはしっかり手洗いしろと言い、コーちゃんはさっきの肉が食べたいと言っている。そりゃあボスが落とす肉は旨いんだろうさ。私も少し楽しみなんだよね。それにしても魔力庫が肉だらけになってきたな。野菜が無くならない限り何年でも潜っていられそうだ。まあ最悪の時は生で食えばいいか。ビタミン補給だ。


安全地帯を見つけ、風呂に入り、肉を貪り食った。その後は当然……アレクとの愛欲の時間だ。魔物は来ない上にピラミッドシェルターの外ではカムイが見張りをしててくれるので超安全だ。今宵は心ゆく迄アレクとしっぽり……







「起きた? 食事の用意ができてるわよ。」


「おはよ……早いね。」


「これでも遅かったみたいよ。カムイに何度も叩かれて起こされたの。きっとお腹が空いたのね。」


あらら、私はそんなに寝てたのか。無理もない。昨日のボス戦ではめちゃくちゃ魔力を消費してしまったからな。主に自動防御で……だいぶ減ってたんだよね。そのせいで寝過ぎてしまったか。悪かったなカムイ。


さあて、アレク謹製の朝食も済んだことだし、探索を始めるとしようかね。この階の魔物はトロルだったな。しかもなんと、それに合わせるかのように迷宮のサイズが大きくなってるんだよな。だいたい一辺が八メイルの正方形を立てたぐらいだ。そりゃトロルも出るわな。角がないからオーガより弱そうな気もするが、そのぶん体は大きいし力も強いんだよな。大昔オディ兄達がなすり付けを食らって全滅しかけたし。よし、皆殺しにしよう。


「カース、この階は私が先頭に立ちたいわ。」


あらら……


「うーん、いいけど……気をつけてね? 死んだら嫌だよ?」


口にするのも嫌な言葉だが……


「分かってるわ。かなり遅くなるとは思うけど。慎重に進むわね。」


「それがいいよ。安全第一で行こうね。」


「ピュイッ」


おおー、コーちゃんがアレクの首に巻きついた。頼むぞコーちゃん。


「うふっ、ありがとう。じゃあカース、距離を開けて付いてきてね。」


「オッケー。後ろの守りは任せてね。」


一匹たりともアレクを背後から襲わせないぜ。




それから……アレクは一歩一歩慎重に前進を続けた。身の周囲に視界を遮らない程度に『風壁』を張ってはいるものの、上からのギロチンを防げるような強力なものではない。せいぜい矢の威力を減退させる程度のものだ。だがガス系の罠を防ぐには効果抜群だよな。

落とし穴に対する反応の早さは私と変わらないが、穴が空いてから『浮身』を使うまでの時間が私ほど早くないため、腰ぐらいまで床に沈む。そのため見ているこちらがドキッとしてしまうんだよな。やはり魔法を発動するまでのタイムラグってのは重要だよなぁ。

私だってまだ鍛える余地はある。たぶんスタートのピストルに反応する一流スプリンターの領域には達していない。せいぜい一流半スプリンターってところだろう。

これと心眼をシビアに鍛えていけば『自動防御』の上位版、『自在反射』も使い放題なんだろうが……難しいよなぁ……


それからもアレクは進んでいった。立ち塞がるトロルには距離を取りつつ堅実に対処している。うん安心して見ていられるな。さすがアレク。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る