1297話 地下十三階

それから二十九階では十六倍オーガに挑戦してみた。めちゃくちゃマッチョな上に巨大棍棒を振り回していたが、そんなのが当たるような距離まで近寄らせることもなく仕留めた。徹甲五十連弾でどうにか額をぶち抜くことに成功したのだ。やはり十六倍ってのは伊達じゃないね。相当硬かった……

もっともその計算でいけば、三十二倍オーガや六十四倍オーガも存在することになるが、どこまで強くなれるのかは疑わしいな。


それはさておき……何よりの収穫はこれほどの魔法を使っても、ほとんど頭が痛くならなかったことだ。やはり私は着実に成長している。旅はするもんだなぁ。


「さあ、夕方までまだ時間があるだろ。ガンガン行くぞ。」


この迷宮は暗くなるわけではないのだから、その気になれば一日中動いてもいい。だが、そんな過酷なことをする理由もないし、する気もない。腹具合に合わせて朝、昼、晩を定めて動くのが上策だろう。


唖然とする赤兜どもを促し階下に降りる。いよいよ三十階だ。


「な、なあ……あの狼に先頭を歩いてもらえないのか……?」


マカの奴が何か言ってる。


「何だよ、道が分からないのか?」


「いや、それは分かるが……この階は罠が怖いんだ……毎回同じ罠とは限らないから……」


あー、場所が違ったり種類が違ったりするのね。十の倍数階はそんな所まで厄介なのか。それならカムイに行ってもらってもいいが……


よし、私が行こう。罠などごり押しでどうにでもできるって事を試してやろう。


「アレクも油断しないでね。どこから罠が襲ってくるか分からないから。」


「ええ、分かってるわ。カースこそ気をつけてね。」


「うん。ありがと。それからお前らは後ろな。後方から魔物が来ないよう警戒しとけよ。」


そうするとアレクが真ん中ってわけだ。コーちゃんとカムイもついてるし、一番安全だよな。では行こうか。


『氷壁』


正確には氷の円柱だ。それを道幅ギリギリのサイズで私の前を転がす。

両サイドの壁は擦るわ床は刺激するわ。片っ端から罠を作動させてやる。


私は氷壁の三メイル以上後ろを歩いているのだが、それでも多少は罠が流れてくる。矢だったりガスだったりつぶてだったり。

ギロチンだったり岩塊だったり酸のような液体だったり。

見る見るうちに氷壁は削れ、すり減っていくがそんなもの補充すればいいだけだ。あ、落ちた。床が横幅いっぱい抜けちゃったよ。じゃあまた『氷壁』ガンガン行こうではないか。ちなみに出現した魔物も氷の円柱に巻き込んでいる。こいつは合理的でいいね。我ながらナイスアイデア。

あ、真ん中から割れた。生意気なオーガが棍棒でぶち割りやがったのか。


『狙撃』


よし終わり。では三度みたび『氷壁』


まったく、手間をかけさせるんじゃないよ。ちなみに魔物が落とす素材は無視している。どうせ角ばっかりなんだからさ。後ろで赤兜どもが拾っているようだし、それぐらいくれてやるさ。でもそろそろ腹が減ってきたんだよな。よし、ペースを上げよう。そして正解ルートをカムイに聞きながら……




二時間後。ようやくボス部屋に到着した。はー、疲れた。


「ここのボスは何が出る?」


「あ、ああ……オーガだ。ただしデカい……二十メイルはある……」


「一匹だけか?」


「いや、五メイルほどのオーガもうじゃうじゃ出てくる……」


普通に考えたらそれって絶望的じゃん……


「なるほど。じゃあマカだけ来てもらおうか。他は外で待ってな。」


「ああ……分かった。お前たちは待っていろ……」


せっかくだし、このまま私が相手をしていいよな、カムイ?


「ガウガウ」


譲ってやるって? 生意気言いやがって。もうすぐ風呂にするから待ってなよ。


「アレク、大きい魔法を使うからしっかり身を守っておいてくれる?」


「分かったわ。全力で守っておくわね。」


「ついでだ。お前もアレクに守ってもらえ。ムラサキメタリックの鎧に換装しておいてもいいけどな。」


「そうしよう……」


ふーん、やはり持ってやがったか。ムラサキメタリックの装備をきっちり整えていたらオーガの変異種なんかに負けなかっただろうに。あいつの動きが速すぎたせいで換装が間に合わなかったんだろうな。


さて……錬魔循環をしながらボスの登場を待つ。うほーデカっ! さすがにこのサイズのオーガを見たのは初めてだな。大きいだけならドラゴンとかヒュドラとか、たくさんいたけどさ。

うお、そしてわらわらと小さなオーガどもが、いやそれでも私より何倍も大きいんだけどさ。素手だったら一匹たりとも勝てないだろうなぁ……


『氷壁』


おっ、アレクが防御を固めたね。


一応私からも追加で『氷壁』


『ガアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーー!』


ほほう、魔声か。部屋ごとビリビリ震えてるじゃないか。魔力が低い奴がこれを聞いたらよくて気絶、悪くて即死だな。やっぱボスは違うね。さあ、もう攻撃が当たる頃かな?


『超圧縮業火球』


湖が蒸発してなくなるほどの火球を、こんな密室で使ったらどうなるか……




オーガどもは全て肉片と化した。私が構築した方の氷壁は溶けてなくなり、アレクの方の氷壁は辛うじて残っていた。ちなみに私自身は自動防御をかなり厚めにして守っていたのだが、全て消えており吹っ飛ばされた。まあ吹っ飛ばされただけで火傷はしてないのだが。もちろん頭は庇ったので無傷だ。さすがに自動防御で弱められた衝撃でドラゴンの装備は傷つかないよな。


結論、あれは密室で使うもんじゃないね。


悔しいことにドアや壁は無傷なんだがね……くそぅ……

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