1293話 地下での遭遇

よーし次は地下二十六階だな。二十五階のボス部屋では結構ゆったりと過ごした後なんだけど、そろそろ寝たいよな。とっくに時間の感覚がなくなってるし。もう朝昼晩の区別がおかしいんだよな。このまま進んで大丈夫かな?

ふざけた迷宮にも見えるが、それでも神域だもんな。甘くないのは分かってるが……




そうやって慎重に歩いていると丁字路に差しかかった。カムイ、どっちだい?


「ガウガウ」


正解ルートは右だが左に何かがあるって? 宝箱かな。カムイにしては珍しいな。さっきまで全部スルーしてたってのに。せっかくだから寄ってみようかね。


なんだここは……やたら魔物が現れるし罠も多い。この階の魔物はオーガなのだが、平気で罠を踏んで発動させやがる。自分らの身の安全はお構いなしかよ。


よし着いた。うーん普通の宝箱か。どう見ても木箱だけどな。開けてみるか。

ぶへっ、何かが噴出してきた! もちろん自動防御があるから効いてはいないが気分的にね。げっ!? スライムだと!?『乾燥』

ふぅ、焦った。やっぱりスライムには乾燥だよな。いやー危ないね。普通は顔にスライムが貼り付いたら大惨事だよな。ふぅ。


さて、箱の中身は……まだ何かあるかな?


おっ、こりゃなんだ? インゴット? うわっ重いな。底面が十センチ×二十センチ、高さは三センチってところかな。それにしてはえらく重いな。体感で十キロムぐらいかな。でも見たことないな。紫のインゴットだなんて……


ん? 紫……


まさかこれがムラサキメタリックの原料なのか? 魔力庫に収納……ぐっ……できた!

これはキツいな……収納するだけで魔力がどっさり減ってしまったぞ……

ふぅ……めっちゃ疲れた……


赤兜どもはこれをどうやって収納してるんだ? 私でさえこれほど魔力を消耗してるってのに。次に出会ったらきっちり聞いておかないとな。


よし、ではボス部屋を目指すとしよう。それで今日はもうボス戦が終わったら休もう。


「お待たせ。いやー宝箱からスライムが噴き出てくるとはびっくりだったよ。」


「私も驚いたわ。カースったらいきなり開けるんだから。」


「どうせ罠があることは分かってたからね。自動防御はだいぶ厚めに張ってるよ。」


用心しないとね。


それよりカムイ、よく分かったな。


「ガウガウ」


たまたま? 魔物の気配が濃厚だったから? それでもすごいけどな。ありがとな。今夜は手洗いからのブラッシング確定だ。


それにしても一階層につき魔物が一種類しか現れないのは対処が楽でいい反面飽きるな。気が緩むと言ってもいい。まあそれを狙って三十階あたりから種類が増えるってことはありそうだよな。こちらの油断につけ込むかのように。だが、そうはいかないからな。




よし、ボス部屋に着いた。身の丈十メイルのオーガか。『白弾』

今日は疲れてるからな。あっさり終わらせた。本当は『狙撃』の稽古がてらじっくり戦いたかったのだが。さて、何を落としたのか……やはり角か。いらんな。せいぜい高く売れることを期待しよう。


さて、二十七階だ。ここの魔物は何かなー。


またオーガだった……まあいいや。安全地帯を探そうっと。だいたい一階層に一つか二つはあるんだよな。


それから歩くこと一時間半。安全地帯を見つけたのだが……気分の悪いことに赤兜どもがいた。人数は六人、そのうち三人が大怪我をしているようだった。


「よう、お前ら赤兜だな。困ってんなら助けてやるぞ?」


こちらを見て一瞬で警戒を強めた赤兜ども。私達の姿を見ればすぐに警戒を解く、と思ったのだが……


「待て! それ以上近付くな!」

「まさか冒険者なのか!? 得体の知れない奴らめ! まずは名乗れ!」

「さもなくばここからすぐに消え失せろ!」


あれ? 変だな。こいつら系のやつらは私達を見れば油断しまくりの上に良い鴨が来たとしか思わなそうなもんだが。


「まあ落ち着けよ。こっちは冒険者だ。敵対する気はない。困ってるのならポーションを分けてやろうかと思っただけだ。必要ないか?」


見た目から私達の正体を看破するのは難しいよな。外で会えばただ洒落た服装をしているだけの若者だからな。その上アレクからは高貴なオーラまで漂ってるんだから。こんな所で会えば怪しまれても不思議ではないってことか。まともな警戒心を持ってる奴なら。


「冒険者風情に施しなど受けん! 言え! 対価を!」

「お、おい、取引するつもりか?」

「やむを得ん……か?」


対価か。そうだな……


「これはローランド王国産高級ポーションだ。価格は一本五十万イェン。そのまま換算すれば五十万ナラーか。だが、国力の差を勘定に入れれば……五百万ナラーだろうな。」


妥当な計算だよな。


「なっ!? 貴様ローランドの!?」

「それがここまで潜って来おったのか!?」

「そのような金子きんすはない! だが……」


「まあ慌てるなよ。こんな状況なんだ。定価でいいさ。代わりに少し迷宮の情報を教えてくれよ。それに、支払いは現金でなくてもいいさ。持ってんだろ? 相応の素材、現物でいいさ。」


「ほぅ?」


あからさまにニヤリとしやがったな。安物で押し切る気か? 私に目利きなどできないからな。


「これでどうだ?」


赤兜の一人が魔力庫から取り出したのは石。ほほう、何かの原石か?

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