1292話 即死の罠
二十一階のボス部屋前に到着すると、ちゃんとカムイ達は待っていた。
「ガウガウ」
遅いって? お前の動きが速すぎるんだって。まあ途中の安全地帯で二時間ばかり休憩した上にあちこち彷徨ったせいもあるんだろうけどさ。カムイがいなけりゃそりゃ迷うよ。すまんすまん、勘弁しろよ。
「ピュイピュイ」
コーちゃんは楽しかった? それはよかったよ。
よし、ではボス戦だ。どうせオークなんだろうけど。
ほら、やっぱり。身の丈十メイルかよ。オークにしては巨大な魔物だよな。でも全体的に白っぽいよな。オークのくせに。
『狙撃』
よし終わり。どんなに大きくても額に穴が空けば死ぬよね。ほーう、素材は肉。一辺が一メイルの肉の塊か。一体なに肉なんだろうね。見た感じだとヒレってとこか。
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
あーもー、生でいきなり食べるのかよ。待たせてしまったから腹が減ったのかな? いや、この二人のことだ。どうせそこら辺の魔物を食べまくってたはずだが。まあいいや。せっかくだから私たちも食べよう。
『風斬』
厚さ四センチのステーキといこうか。オークをレアで食べたくはないからウェルダンで……
「美味しいわね。この味ってもしかしてアルビノクイーンオークかしら。珍しいこともあるものね。」
「それって確か初めてアレクの家に遊びに行った時に……」
「そんなこともあったわね。カースったらガラにもなく落ち込んでた時だったかしら?」
あったなぁ。確か人生初の殺人をしてしまって、少し落ち込んだんだよな。それが今ではもう何人殺したのか忘れてしまったし、悪人ならば即座に殺せてしまう。時の流れとは恐ろしいものだね。
ふぅー腹いっぱい。肉ばかりで栄養バランスがよくないが、野菜を食べるのは次の休憩の時にしよう。いや、生野菜だけでなく発酵食品も食べるべきだな。チーズやピクルスは行商人から買った中にたくさんあったし。ちなみに納豆もあった。それだけを食べてもやはり旨くなかったが、王都で買ったソース類を少し垂らすと多少マシな味になった。やはり好き嫌いはよくないからな。
さて、地下二十二階だ。だが特筆すべきことはない。罠も魔物も二十一階と何一つ変わっていない。強いて言うなら数がほんの少し増えたぐらいだろうか。
二十三、二十四と似たような階が続き、二十五階へと到着した。
「ガウガウ」
この階は何かが危ないから先を歩くって? カムイにしては親切だな。任せたぜ。
ほほう、ここの魔物はオーガか。ちなみにカムイは魔物を無視して素通ししやがる。オーガも何匹かはカムイに向かうが、大半はこちらに向かってくるではないか。
『風斬』
ちっ、さすがにオーガは硬いな。一撃とはいかないか。まだ制御が甘いのか。くそ、母上なら一撃で全部真っ二つなんだろうな。
ちなみにオーガが落とす素材は角だった。いらねー……まぁ一応キープしとくか。いくらで売れるんだろ。
それからは道なりに進む。やはりカムイが先導してくれると楽でいいな。かわいい奴め。
「ガウッ」
ん? てくてく歩いていたカムイが不意に後ろに飛び
「どうしたカムイ?」
「ガウガウ」
この先が危ない? うーん全然分からん。とりあえず自動防御を厚めに張って歩いてみよう。危ないのは……ここかな? うわっ!
ふぅ……びっくりしたなぁもう。上からギロチンのような刃が落ちてきた。しかも自動防御が少し切れた……危なかったぞ。迷宮の壁を見ても罠の形跡がない。こんなのどうやって見抜けってんだよ。落ちる前に駆け抜けるか寸前で避けるか、いよいよ危ない罠が現れてきたか。エゲツないなぁ……
「カムイ、ありがとな。よく分かったな。えらいぞ。」
「ガウガウ」
野生の勘だって? ふふ、野生の誇りを忘れたわけじゃなかったのね。よしよし。
「ここからはもっと注意して進もうね。」
「それがいいわね。今のあれなんて私が呑気に歩いてたら死んでるわ。やっぱり迷宮って怖いのね。」
「そうだね。慎重に行こうね。」
即死の罠か……見た感じ私の装備なら問題なさそうだが、頭に食らったら即死だもんな。首から下なら大丈夫だとしても重量で押し潰されたらアウトだもんな。気をつけよっと。
結局、この階はボス部屋に着くまでこのギロチンは出現しなかった。なかなか気を揉ませてくれる迷宮だよな。やはり一筋縄ではいかないってことか。神域は甘くないね。
あ、ボスはちょっと大きいオーガだったがそこまで苦戦することもなかった。やっぱ目に見える敵ってのは楽でいいよな。
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