第1279話 猫かぶりカース

帰り道。何人かの赤兜とすれ違ったが、あっちが気付く頃には私達は通り過ぎている。この迷宮は高さが五メイルほどあるので上を通り抜けることに支障はない。


さて、外に出る前にやっておくことがある。ここらでいいかな。


「カース、どうしたの?」


「ちょっと実験かな。」


『徹甲弾』


迷宮の壁に向けて一発。うーん、無傷か。


『徹甲魔弾』


これでも無傷かよ。


『白弾』


えー? まだ無傷なの!?


『徹甲白弾』


嘘だろ……


『紫弾』


傷が……つかない……全く……


『徹甲紫弾』


し、信じられない……一発しか作れなかった切り札なのに……傷一つ付いていない……

くっ、伊達に神域じゃないってことか……


神域か……それなら……


『身体強化特盛』


螺旋なんとか突き!


校長先生の真似をしてみた。同じ神域の素材であるイグドラシル製の不動なら……


おおー、穴が開いた!


開いたけど、ここまでか。実験終了。はぁ……またしばらく筋肉痛に悩まされるな。


後は隅っこの方で……


「魔石を捨てるの?」


「そうなんだ。あいつらに儲けさせる気がないからね。ここに捨てて、なおかつ……」


『火球』


全部燃えてしまえ。赤兜に拾われたら嫌だからな。魔石ってめちゃくちゃ魔力を込めてやると、燃えるってより爆発するんだよな。


「よし、用は済んだよ。外に出ようか。」


「ええ。ここからなら歩いて三十分てところかしら。」





おっ、出口だ。うーん、外が眩しいね!


「止まれ!」

「獲物を出せ! 計算の後二割を返却する!」


「お務めご苦労様です。実は……恥ずかしいんですが……獲物はありません。ずっと逃げ回ってました……」


さあ、どう出る?


「ぷっ、ぷははは! 契約魔法が反応してない! 貴様ら本当に手ぶらか! 情けない奴め!」

「ぐはははは! ローランド王国のお偉いさんだと聞いたが所詮は魔法しか能のないお国柄よな!」

「これに懲りたらもう入るなよ? 迷宮ダンジョンは遊びではないからな?」


「えへへ、ご親切にありがとうございます。少し街を見学したら帰ろうと思います。」


くっくっく。どうよこの名演技。


「そっちのお嬢さん? こんな身分だけの男と一緒にいても将来が見えてるぞ?」

「俺たち赤兜のようなエリートと一緒にいた方がずっと得だぜ?」

「ヒイズルの民は辛抱強いからな。チャラチャラしたローランド王国民とは違うからな?」


ふーん。舐めたこと言ってくれるな。身分だけならアレクの方が遥かに高いんだぜ? でも今日は我慢。今日だけね。


「いやぁ、あはは、勘弁してくださいよぉ。僕この子にベタ惚れなんですからぁ。えへへ。」


ぺこぺこしながら後退り。このまま退却だ。


「けっ、玉なし野郎が!」

「自分の女も守れねーのか?」

「情けない……これがローランド王国か……」


くくく。お前らが私の実力を読み損なえば読み損なうほど、後手にまわるんだぜ?




「よし、じゃあ食料を買いに行こうか。」


「ちょっとカース……さすがにあれはないんじゃ……」


「幻滅した?」


「い、いや、そんなことはないけど……さすがにカースらしくないなって……」


昔の私はこうだったような気もする。敬語キャラでギリギリまでぺこぺこして。そして、ここぞってタイミングで契約魔法をかける。今回も同じことになるよ。きっとね。


「大丈夫だよ。結局はいつも通りになると思うから。この街に住む人は可哀想な目に遭うけど、無念のうちに死んだ王都の民のことを思えばどうってことないよね。」


「そうね。カースのやることだもの。きっと上手くいくわわね。王都の仇をヒイズルで討つ……ってわけね。」


いやー私のやることなんて行き当たりばったりだぞ?


それにしてもアレクの言い方、江戸の仇を長崎で討つ的な。違うからね。筋違いじゃないからね。ヒイズルがローランド王国を狙ってムラサキメタリックや偽勇者でちょっかい出してたのは確定だからね。ヤコビニ派の動乱につけ込まれた……むしろヤコビニ派に火を点けたんじゃないかとも思ってるし。どんだけ頭がイカれたら自分があの広いローランド王国を支配してダイヤモンドクリーク帝国を復活させるって妄想ができるってんだ。何らかの方法でヒイズルから空気入れられたに違いないからね。


あ……そうか!


天王の洗脳魔法か? つまり、ヤコビニがヒイズルに行くか、天王がバンダルゴウ辺りに来た時……来たのか……!? ヤコビニの旧支配地はバンダルゴウも含んでるし!


はっ! そう言えば先王が言ってた! 八年ぐらい前にヒイズルの天王が変わった時に使節が挨拶に来たって! その時か!? ジュダ・フルカワこと天王が紛れてたとか?


すごいぞ私。めっちゃ冴えてる。天王が洗脳魔法を使えるって仮説だけで大概の謎が解けてしまう。これは面倒だが天王に会う必要が出てきたかな?




「ってことを考えたんだけどアレクはどう思う?」


「さすがカースだわ。洗脳魔法一つからそこまで結びつけるなんて。私も実は気になってたことがあって。王宮の吊り天井のことよ。あの時の御側御用人って結局偽物だったじゃない? 他人の顔を変える個人魔法使いって線が濃厚だったけど。」


「うわ、それ懐かしいね。初めて王宮に入ったのに封魔の首輪とか付けさせられた上に吊り天井が落ちてきたんだよね。あれ? てことはヒイズルは魔蠍まかつとも関係があったのかな。なぜか僕にかけられた賞金が増えてたし。」


クソ針こと闇ギルド連合の会長まで殺したってのに。それにしても考えても分からないから放っておいた事件がここに来て蘇るとは。旅はするもんだね。可愛いアレクに旅をさせよって言うもんな。

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