第1274話 代官アカルージャ・オオバ

二度寝の後、うっすらと目覚めたらアレクに襲われてた。うん、いつも通りだな。




そして気がつけばノックの音が。もう昼か。早いもんだな。


私の身支度が早いのは当然だが、アレクもかなり早い。やはり換装の魔法は便利だよな。先にシェルターを出た私。アレクの身支度の邪魔をするわけにはいかないからな。


わずか数分後、艶やかなドレスに身を包んだアレクの登場だ。


「お待たせ。行きましょうか。」


全然待ってない。いつの間に髪を結い上げたんだよ。ミスリルの髪留めがキラリと光っている。私が作っておいて言うのも何だが、めっちゃ似合う。次はオリハルコンやムラサキメタリックで何か作ろう。


「どうぞ、お乗りください」


馬車か……嫌だなぁ……

まあ仕方ない。乗ろう。


馬車に揺られて十分少々、いかにも堅牢そうな建物に到着した。ここが代官府か。どうか代官がまともな奴でありますように。




案内されたのは応接室だろう。さすがに茶室ではなく普通に少し豪華なだけの部屋だった。


「まもなく代官が参ります」


そう言って案内係は部屋から出ていった。部屋に残ったのは私達とメイドが一人。そいつはお茶の準備を始めた。


「粗茶ですが」


用意されたのは緑茶かな。ぬる目で飲みやすい。


「ピュイピュイ」


コーちゃんも気に入ったそうだ。

緑茶を飲み、小さな饅頭を摘む。おっ、餡子が入ってる。甘くて美味しいではないか。


「失礼いたします。お代官様が到着されました」


朝の副官が先に入ってきた。一応立って出迎えてやるか。その後ろから現れたのはごつい大男だった。


「よく来てくれた。代官のアカルージャ・オオバだ。まあ座ってくれ。」


「カース・マーティンです。お招きどうも。」


「アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルです。」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


代官が座るとソファーが軋むな。


「はるばるローランド王国からようこそ。国王直属の身分だと聞いたが、それ程の者が一体何用なのだ?」


いきなりだな。まあ気になるもんだろうしね。


「そもそもヒイズルに来たのは物見遊山の旅でね。ヒイズルを一通り楽しんだら次は南か東に行く予定さ。で、今回はここに迷宮ダンジョンなるものがあると聞いて潜りに来たってわけだ。」


「別段どこの誰だろうと迷宮に立ち入りたければ断る理由はない。規定通りの税を納めてくれれば良いだけの話だ。」


ちっ、やっぱ税がいるよな。だが、その支配体制もここまでだ。一週間もすればガタガタにしてやるよ。代官に恨みはないけどね。


「確か契約魔法をかけられるって話だったな。こちらに問題はない。税も規定通り払わせてもらう。」


「分からんな。なぜ危険な迷宮などに潜りたがる? 八割も税をとられると儲けなどないぞ?」


「迷宮のことはよく知らないが、要は神域だろ? それなら行ってみたくもなるってもんさ。ちなみに最深部まで行けたらどんな事が待っているんだい?」


具体的にはどんな神がいてどんな祝福を貰えるのか。気になるぜ。


「分からんな。我が国にある三つの迷宮、どれにおいても最深部まで攻略したなどと聞いたことがない。もっとも、公表してないだけかも知れぬがな。」


「あー、なるほど。ついでに聞いておきたいが、何か注意する点はあるかい? 魔法が使えないとか罠があるとか。」


「魔法が使えない? そんな話も聞いたことはないな。魔法の効かない魔物ならいるそうだが。それにある程度の深さまで行くと罠はあるぞ。逆に金属製の武器が効かない魔物もいる。せいぜい注意することだ。」


「へぇー……それは凄いな。気をつけるよ。あ、それから中で一日過ごして帰ったら一ヶ月経ってたなんてことはないよな?」


「何だそれは? ないだろう。だが人間の感覚は当てにならん。時間の感覚を失わんうちに出た方が賢明だろうな。」


その辺りは何とも言えないな。時計があればいいのに。


「あれこれと忠告をありがとう。それで、俺達をここに呼んだ理由は以上かな?」


「いや、まだだ。一番の理由は礼を言いたかったからだ。オワダの領主、女狐マナオ・クロタキをよくぞ殺してくれた。ありがとう。」


軽く頭を下げる代官。


「ん? それは違うぞ。調べてないのか? 侍女は俺が殺したと思い込んでいるようだけど、メイドに確認してもらったら分かるぞ。何かを言いかけて、そのまま死んだんだ。アレクは覚えてる?」


もちろん私は覚えてない。


「ええ、何となく覚えてるわ。確か……私のことが妬ましいとか、捨て扶持ぶちとしてこの地をジュダ陛下からたまわったとか言ってたかしら。その直後でいきなり死んだのよ。」


あー、そんなことを言ってた気がする。


「なに? 捨て扶持だと? ふ、ふふふ、捨て扶持か。ふふふふ……そうか、そうだったのか! 捨て扶持か! はーっはっはっは! こいつはいい! あの女狐に相応しい処遇ではないか!」


いきなりご機嫌になりやがった。そんなに捨て扶持ってことが嬉しいのか。つまり、あの女領主は天王からオワダを任されたのではなくて、手切れ金的に下賜されたって感じか? 意味が分からんにも程がある。この国はマジでどうなってんだ? オワダは国家の要衝じゃないのかよ。


「その辺りの事情はどうでもいいが、俺は領主を殺してないからな。そこだけは誤解しないでくれよ。たぶん他の騎士達だって生きてるはずだしな。」


瀕死に追い込みはしたがトドメは刺してないんだから。


「ふーう笑った笑った。よい事を教えてくれた礼をしよう。迷宮税の減額でどうだ?」


ほう? 太っ腹なことを言うではないか。だが、必要ないな。


「いや、それはいい。ところでお代官様さ。国の玄関口とも言えるオワダを女狐ごときに任せる天王をどう思う?」


さあ代官、お前の忠誠度を見せてもらおうか?

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