第1265話 貧相な少女と白い狼

それにしても水汲みか……井戸なのか川なのか……

井戸は見当たらないから……川まで行くのか? あの小さな体で? 水って重いんだぞ……


「悪いな。俺が話に付き合わせてしまったんだ。叱らないでやってくれ。代わりに水なら俺が汲む。どこに溜めたらいい?」


「まあ! お客様! お客様のお手を煩わせるわけにはいきません! それにこいつを甘やかせると調子に乗りますから!」


『水球』


「ほら、どこに溜めてるんだ? もう魔法使っちまったぞ。早く指定しろ。」


そっちの事情なんか知るかよ。私がやってやるって言ってんだからありがたく助けられてろってんだ。


「あ……こ、こちらのかめに……」


裏口付近に大きめの甕が置かれている。百リットルは軽く入りそうだな。水球をふよふよと動かして甕の上で魔法を解放。


「いっぱいになったな。他に何かあるか?」


「い、いえ……あ、ありがとうございます……」


「ありがとうございましゅ! すごい魔力でしゅた!」


「ああ、仕事がんばれよ。」


そうこうしている間にカムイは肉を食べ尽くした。満足そうな顔をしてやがる。よし、二度寝するぞ。


「ガウガウ」


何? 今度は風呂とブラッシングだと? この贅沢もんが! 野生の誇りはないのか! まあ昨夜はアレクと二人で久々の空中露天風呂を楽しんでしまったもんな。村長宅にも風呂はあったが私のマギトレント湯船とは比べ物にならない。まあ昨夜はアレクにお仕置きをするために空中露天風呂をしたって事情もあるんだけどね。


では魔力庫から湯船をどーん。


「こ、これは……何でしゅか?」


「ん? ああ、風呂だよ。入るか?」


私は入らないけどな。カムイはそそくさと浸かってる。


「お風呂……でしゅか……? これが……」


「いい木材を使った自慢の湯船さ。朝から風呂ってのも悪くないもんだろ?」


朝寝朝酒朝風呂……私が好きなのは朝寝だな。


「し、失礼しましゅ……」


躊躇いもなく服を脱いだ女の子。ここは裏庭だぞ……勧めた私が言うことではないが。うーん、貧相な身体してるなぁ……

しかも服と言っても貫頭衣が一着のみかよ……下着ぐらい用意してやれよな。


「ガウ」


「風呂に入る前にはこれで湯を汲んで体にかけるといい。」


いきなり入ろうとした女の子にカムイが注意したのだ。体を流してから入れと。自分はいきなり入ったくせに。


「は、はいっ!」


拙い手つきで手桶を頭上からひっくり返し頭からお湯を浴びた。入浴の習慣がないのか、それとも掛け湯の習慣がないのかどっちだ?


「あ、あの……入って……いいでしゅか?」


「ああ、いいよ。ゆっくりとな。」


「は、はい……狼さんもお隣失礼しましゅ……」


「ガウガウ」


「ふあぁぁ……気持ちいいでしゅぅ……」


ふふふ、そうだろうとも。私の湯船は最高だからな。


「よし、じゃあ体を洗ってやるから目を閉じてな。」


「はいっ!」


『水操』


水流を操作して二人まとめてお湯洗いだ。なんとなくキアラと風呂に入った日々を思い出すな。キアラはどうしてんのかなぁ……フランツと風呂なんぞに入ってないだろうな!?




「ガウガウ」


やっぱり手洗いがいいって? どこまで贅沢なんだお前は。明日な。悪いが今はだめだ。ほれ、乾かしてブラッシングしてやるから出てこい。


「ガウ」


カムイは体をぶおんと振るわせ水滴を飛ばす。私が乾かす必要あるのか? まあいいや。威力弱めで……『乾燥』


毛並みが傷んではいけないからな。そしてブラッシングしながら指先から温風を出す。


「ガウガウ」


ふふ、気持ちいいか。こうか、ここがいいんだな? うりうり。




ふう。終わった。うーん、いつもカムイの毛並みはピカピカだな。トリートメントなんか何もしてないってのに。


「よし、次。上がっておいで。」


「はっ、はいぃ!」


『乾燥』


体は一瞬で乾かしてやった。少しぐらい傷んでも構わん。しかも服だって洗濯しておいてやったぞ。最後に髪を梳かしながら乾かしてやる。カムイと同じブラシだが構わんだろう。むしろカムイから文句が来たけど。


「ほれ、これでいいだろう。今日も一日頑張れよ。」


「はいっ! このご恩は忘れません! ありがとうございましゅた!」


うーん、いい事をすると気分がいいな。よし、今度こそ二度寝をしよう。


「おっと、俺らの分の朝食はいらないからな。昼まで起こさないよう言っておいてくれるかな。」


「はいっ! かしこまりましゅた!」


さて、これで再びアレクの隣で夢うつつ……

起きたら昼飯食って、それから出発だな。この分だと今夜は野宿になるのかな。別に構わないけど。

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