第1262話 村長ワイダ・カツラハ
ふーん、ここが村長宅か。周りの家より一回り大きい程度かな。
「どうぞ、こちらです」
門番の彼に案内され中へと入る。もちろん玄関では靴を脱ぐし、カムイの足は丁寧に拭いておく。本当は魔法一発でいいのだが、きれいにしましたよアピールのためだ。
通されたのは茶室。村長宅にこんなもんがあるとは……それともヒイズルでは家に茶室を作るのは常識なのか?
「お待ちしておりましたぞ。お呼びだてして申し訳ありませんな。私がカツラハ村の村長ワイダ・カツラハと申します。はるばるローランド王国からよくいらっしゃいましたな。」
「カース・マーティンです。お招きどうも。物見遊山の旅をする予定かな。それで、何か用でも?」
「いや、趣味みたいなもんですな。有望な方がこの村を通られる時、叶うならばこの屋敷にお泊まりいただきたいだけですぞ。もちろん代金などいただきませんとも。旅の土産話など聞かせていただければ他に何も望むことなど何も。」
なるほど。オワダに行くには必ずこの村を通る……もんだからここで各方面の有力者とのコネを手に入れておけば色んな面で有利ってことか。そうやって村を大きくし、安全を保ってきたんだろうな。ローランド王国に比べるとだいぶ小さいこの国だ。きっと資源も少ないことだろう。だからこそ人との繋がりが武器になる、的な?
「大した話もないが一泊ほど世話になるとするよ。よろしく。」
「おお! ありがとうございます! そうと決まればささやかながら夕食を用意してございます! ささ、こちらへ!」
茶室から一転して食堂って感じか。結構旨そうな匂いがするな。
「ささ、まずは乾杯とまいりましょうぞ!」
『乾杯!』
これは……レモンの酒!? まるでレモンサワー……こんな所で!?
「あら、きりっとして美味しいわ。柑橘系かしら?」
「そうなのです。我がカツラハ村はリモンの産地でもありましてな。そこからこういった酒も作っておるのです。ちなみにこれはリモン酒を数日前に清水で割ります。それを冷やした後、飲む直前に生のリモンを絞ったものです。」
レモン、ここではリモンか。いいな、色んな酒に絞って飲みたくなるじゃないか。絞った後の皮は風呂に浮かべてもよし! オワダではオラカンに出会ったことだし、結構色んな柑橘類があるもんだな。来てよかった。
「ピュイピュイ」
「すまないが、この蛇ちゃんにお代わりを頼む。美味しいそうだ。」
コーちゃんっていつも私達と同じものを食べるもんな。だからテーブルにも一人前用意してもらった。カムイだって酒がないだけで私達と同じメニューだ。
「それはようございました。おい、お代わりだ。」
下女って感じの女の子が拙い手つきでお代わりを注いでくれた。
「ピュイピュイ」
女の子に向かって頭を振ってウインクするコーちゃん。かわいいなぁもう。
「ありがとうだって。ああこれお土産。よかったらどうぞ。」
鉄製のコインにコーちゃんの姿を刻んでみた。もちろん今作ったのだ。裏面にはカムイの姿だってある。
「あ、ありがとうございましゅでしゅ!」
方言かな?
「私にもお願いできるかしら?」
「は、はひ! ただいまっ!」
おっ? アレクにしてはペースが早いな。だって美味しいもんな。私も飲もう。
「どうよ魔王さん? 来て良かっただろぉ?」
「ああ、気に入ったよ。特にこの酒はいいな。ヒイズルにはこんな風に柑橘系の酒は多いのか?」
「おおよ! その土地土地の酒があるぜぇ! 魔王さん達はどっち方面に行く気なんだぁ?」
「言ってなかったっけな。南だ。畳が欲しいからヤチロに行くつもりだが、その前になんとかダンジョンにも寄る予定だな。」
名前を忘れてしまった。
「おお、カゲキョー洞窟か。危ねぇ上に税も高えってのによく行く気になるなぁ。よっしゃ! そんならそこに着くまでは一緒に行こうぜ! 俺ぁヤチロからもう少し南のテンモカまで行くからよ!」
「あー、カゲキョーだったか。騎士以外は八割って話だったな。その辺は行ってみてからだな。深さとか広さとか分かるか?」
ダンジョンって神域っぽいんだよな。そんな危険な所に入るのに税金八割って無茶言い過ぎだろ。どうにか回避してやる。
「さすがに知らねーな。シューホー大魔洞なんか底なしとかって聞くけどよお……」
ふーん。でもこの小さな島の中に三つも神域があるってのは凄いよな。ローランド王国内には一つもないってのに。いや、私が知らないだけか?
山岳地帯にはイグドラシルが何本も聳え立ってるってのに。
「げあっはっはっはぁ! ここにおったか村長ぉ!」
ハゲの太っちょが乱入してきた。服装からすると役人っぽいな。
「こっ、これはこれはヘアーナイ様! てっきり明日ご到着されるものかと……」
村長の顔色が一気に悪くなった。
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