第1261話 いつものカース
行商人タツは三人の冒険者にオワダで起こったことを説明している。えらい詳しいな。さすがは商人ってとこか。
「はあ!? 船を海底から引き上げただぁ!?」
あれは大変だったなぁ。
「クウコ商会のボンボンをぼっこぼこにしただとぉ!?」
そんな奴もいたなぁ。
「エチゴヤの
あれ?
「どうせお前ら明日にはオワダに行くんだろ? そしたら嫌でも納得するさ。この一行は全員やべぇんだってな!」
「納得ぁいかねぇが……ホラにしちゃあデカすぎる……」
「こんなガキが……マジで……」
「ローランドの魔王……」
おや、信じかけてるのか? 意外だな。タツの信用力のせいか?
「この際だから聞いておきたいんだけどよ……領主を殺ったってのはマジなんか?」
ああ、街中の情報は分かっても領主周辺の正しい情報は知りようがないってことか。
「嘘に決まってんだろ。侍女は俺のせいにしたいようだったけどな。追手だってかかってないしな。本当にやってないぞ。」
あの領主は結局何がしたかったんだか。嫉妬がどうとか言ってたか。天王の女でエチゴヤと嫌々付き合ってて、おそらく契約魔法のせいで死んだ……うーん、さっぱり分からん。
「ついでにそっちのお前ら、さっきからガキガキ言い過ぎだ。その程度の事に目くじら立てる気はないが、その辺にしとけ。」
私の頭脳はオッさん、体はシックスティーンだからな。こいつらだって三十過ぎってとこか。
「あ? やっと口ぃきいたと思やぁ何じゃこら?」
「まださっきの話ぃ信じたわけじゃねぇからな!」
「洒落た格好しやがってよぉ? 腕ぇ見せてみろや!」
「バ、バカ! やめっ!」
腕ときたか……せっかく楽しい時間なのに無粋なことを言うなぁ。ならまあ軽く……『風斬』
「いぎゃあぁぁあーー!」
「いっぎでぇぇぇーー!」
「うがああぁぁぁーー!」
片耳だけ落としてみた。三人ともお揃いで右耳を。
「そうわめくなよ。ほれポーション。今なら余裕でくっつくだろ。それとも要らないか?」
耳以外に一切の被害を出さないところが腕の見せ所だ。血すら飛び散ってないんだから。
「ぐっ……」
「この魔法……」
「いつの間に……」
「ガウガウ」
あら、カムイまで。ふらりと三人のそばを通り抜けたと思ったら……
三人のベルトだけを見事に切ってるじゃないか。ちょっとやってみたくなったって? 私のためかい? ありがとな。
「どうよ。うちの狼ちゃんは凄いだろ? まあさっさと耳を治して落ち着けよ。楽しく飲もうぜ?」
「魔王さんって意外と優しいんだな……気に入らなけりゃあすぐ殺すのかと思ったぜ……」
どんな無法者だよ……
「ガキって言われたぐらいで殺すわけないだろ……奢ってくれるんだしな。」
「でもカースったら王都の動乱の時は千人単位で殺したわよね。数万の魔物から王都や領都を守り切ったし。」
「ああ、そんなこともあったね。なんだかひどく懐かしいよ。さて、腹も膨れたことだしそろそろ宿に行こうか。おいタツ、宿は?」
「おっ、おお! さっきフータンが来てよ、村長んちに来てくれとよ。歓迎したいんだろうよ。」
なんだそれ? 面倒くさいなぁ……
村長と言えばタティーシャ村のみんなはどうしてるかな。また行きたいな。
「仕方ないな。行こうか。じゃあなお前ら。ご馳走になったな。ポーション置いとくから好きに使え。」
結局私は大赤字だけどね。
さて、村長宅か。フェアウェル村の村長宅はいい家だったなぁ。
カース達がいなくなった店内。三人の男達は呆然としていた。ちょっと腕を見せろなどと言ったばかりに、目にも止まらぬ速さで耳を斬り落とされてしまったのだから。
いや、カースがその気になれば腕でも首でも自在に切り落とすことは容易かったのだろう。そこに考えが及んだために、また寒気に襲われていた。いい気分で酔っていたのが、完全に醒めてしまった。もう下手なナンパができる雰囲気でもなくなったため、とぼとぼと宿へ帰っていった。
「マジでエチゴヤ潰したんかなぁ……」
「魔法の発動が恐ろしく静かだったぜ……」
「ああ……息をするようにって感じでなぁ……」
「お前らあいつの魔力……感じたか?」
「いや……耳ぃ落とされるまで全く……」
「俺もだ……あの女の子の魔力の方が余程デケぇよなぁ……」
「明日の夜にぁオワダに着いてんだろうから……ちっと聞いてみねぇとな……」
「おお……オワダでいってぇ何が起こったかってよお……」
「やっぱタツの言うことぁ……」
彼らが事実を知る日はそう遠くないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます