第1259話 交流拠点村

曲がりくねった下り坂をのんびりと歩いていると、後ろから声が聴こえてきた。


「おおーい! 魔王さぁーん! 待ってくれぇーー!」


振り向いてみれば先ほどのナンパ商人を庇った男だった。


「何か用か?」


九日十日って言いたくなるな。


「ひぃ……はぁ……カ、カツラハ村まで行くんだよな!? お、俺に案内させてくれ! お、俺はヒイズル中を流れる行商人ホホノリ・タツハラヤってんだ!」


「この山を下った村で一泊しようとは思ってる。村の名前は知らんな。」


「それだ。そこがカツラハ村だ。そこからどっち方面に行くつもりなんだ!? お、俺を案内に連れてってくれよ!」


案内ねぇ……別に道に迷ったって気にしないつもりで歩いてるしなぁ……

アレクと軽く目で相談をして……


「じゃあ村までな。」


「よし決まった! 旅は道連れ世は情け、渡る世間は敵だらけってな!」


「で、本当の目的は?」


案内をして小銭を稼ぐことではないだろうしね。


「い、いや、その、ちょっとな。その、お近づきになっておけば……色々と……な?」


コネが欲しいってとこか。まあどうでもいいさ。今後の話のタネぐらいにはなるだろう。


「村までだからな? で、案内も何も一本道だろ?」


「そりゃまあそうなんだけどな。でも俺と一緒なら村長なんかにも顔が利くからさ、いい宿に泊まりやすくなるってもんさ!」


「海の天国館よりいい宿なんてあるのか?」


「あるわけねーだろ! あそこはヒイズルん中でも十指に入る高級宿だぞ!」


そんなことは分かってる。聞いてみただけだ。


「ピュイピュイ」


おっ? コーちゃんの鼻が反応したのね。


「懐にいいもん持ってんな? ひとつまみくれよ。お近づきの印にな。」


「さすがは魔王って言われるだけあんな。鋭い嗅覚してんぜ。ひとつまみだけな? 高ぇーんだからよ?」


「ピュイピュイ」


口を大きく開けて奴に近づくコーちゃん。久しぶりのお薬だもんね。ジャンキーになったらだめだよ?


「この蛇ちゃんの口に入れてやってくれ。」


「お、おお……エチゴヤの奴を何人か発狂させた蛇ちゃんだよな……」


奴は懐から取り出したケースから白い、いやうっすらと黄色いお薬をひとつまみ。恐る恐るコーちゃんの口へパラパラと振り落とした。


「ピュイピュイ」


まあまあ? いつか王都で味わったやつには到底及ばない? やっぱりコーちゃんはグルメだね。確かあれは……『音速天国』だったか。やっぱお薬は南の大陸産に限るのかねぇ。


「ありがとよ。まあまあの味だそうだ。ところでヒイズルではこの手のお薬は違法じゃなかったのか?」


「おお、外国から持ち込むのは違法だぜ? 国内産を楽しむ分には問題ないってわけさ。」


ふーん。色々あるってことか。




「それよりよぉ、ちいっと急がねえか? この分だと夕暮れまでに着けないぞ?」


私達としては全然問題ないが、野宿用のピラミッドシェルターにこいつを入れたくはないしな。仕方ない、ペースを上げるか。幸い筋肉痛はもうすっかり治ってるしな。魔力だって満タンだしね。


「任せる。間に合うと思うペースで歩いてくれ。」


「よっしゃ。張り切って歩くぜ! しっかり汗かいて村に着いたらまず酒飲もうぜ!」


「ピュイピュイ」


もーコーちゃんったら。旨い酒だといいんだけどね……




「ぜぇっ……はあっ……げほっ……おっ……すげえな魔王さん……女の子まで……」


むしろこいつがペースを上げすぎたのが原因だと思う。下り坂だからって調子に乗ったな。両脚なんかガクガクしてるじゃないか。商人として国中を歩き回ってるんだよな? まだまだだね。


到着した村は想像よりだいぶ立派だった。エルフの拠点、山岳地帯のフェアウェル村のようにボロボロの柵に囲われてるのかと思えば……深めの堀はあるし頑丈そうな木の柵でしっかりと囲まれていた。しかも正面入口は跳ね橋だ。すごいな……

たぶん日が暮れたら入れなくなるんだろうな。


村の入口には……


「ようこそカツラハ村へ!」

「ようこそ旅の方!」


ごっつい二人組が出迎えてくれた。明らかに村人だが筋骨隆々だ。その割に愛想がいいな。


「よう、フータンにライタン。こちらのご一行はローランド王国からの賓客だ。一番の部屋は空いてるか?」


「ようこそタツさん。オワダでの商売は上手くいきましたか?」

「はるばるローランド王国からようこそ! 部屋の確認をして参ります!」


そう言って一人は走り去っていった。素早いな。


「さあ魔王さん! 飲もうぜ! この村ぁあちこちから商人が立ち寄るからよ、いい酒置いてあんだぜ!」


「ピュイピュイ」


「案内してもらおうか。うちの蛇ちゃんが飲みたいって言ってるからな。」


「ガウガウ」


カムイは腹がへったって? 私もだよ。ガッツリ肉が食べたい気分なんだよな。

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