第1256話 出港するサンタマーヤ号
ジンマと二人でオワダの街を歩く。こいつとは長い付き合いではないが、妙に気が合うような気がするな。
「魔王はこれからどうするんだ?」
「ん? しばらくのんびりしたら南方面に行こうかってとこだな。パープルヘイズは?」
「またバンダルゴウさ。さっきの依頼があった奴らを送る船に乗ることになりそうだな。」
「それは心強いな。エチゴヤのカスが大半だが、別に死なせたいわけじゃないからな。いい仕事に期待してるぞ。」
私に言われるまでもないだろうけどね。
「おおよ。」
「さて、バーに行く前に宿に戻るぞ。うちのハニーも連れていくからな。」
「いいよなぁ……あんな別嬪さんといつも一緒でよぉ……」
「だろ? 最高の女の子さ。」
「けっ……!」
宿の入口にジンマを待たせて私は離れへと向かう。従業員からはお帰りなさいませと声をかけられる。ここは本当にいい宿だよな。
さて、アレクは起きてるかな? そーっと中に入ると……
「カース、おかえりなさい。起こしてくれればいいのに。」
「ただいま。いやーよく寝てたからさ。可愛らしい寝顔を見てたらもったいなくて起こせないよ。」
「もう……カースったら……」
「それよりさ、飲みに行こうよ。パープルヘイズの奴らが待ってるんだよね。コーちゃんも先に行ってるんだ。」
「いいわね。また酔ったらどうしようかしら……」
ふふ、酔ったアレクってめっちゃ可愛いんだよな。
「いいんだよ。好きなように飲んでさ。さ、行こう。カムイもな。」
「ガウ」
ここの飯の方が旨いって? そりゃあお前は酒を飲まないもんな。まあいいから行こうぜ。ボディーガードをしてくれないとな。
この後、夜更けまで楽しく杯を交わした。旅先でこうして気の合う奴らと出会うってのもいいもんだな。これも旅の醍醐味か。
ちなみにジンマの話によると、次にバンダルゴウ行きの船が出るのは一週間後だそうだ。別に急ぐ旅ではないので、奴らの出港を見届けてから私達もオワダを出ることにした。
明日からは特に用もないのでのんびりと過ごすことにする。散歩したり、山に分け入ったり。はたまた海に潜ったりだな。あ、少しは稽古もしないとな。私達が泊まってる離れは庭も広いから体を動かすのに何の問題もない。カムイだって体を動かしたそうにしているもんな。
そうして愛欲と稽古の一週間が過ぎた。
私達はオワダ港でサンタマーヤ号に乗り込む奴らを見送っている。
シーカンバーの妻子からはかなり感謝された。特に娘さんからはお礼の手紙なんてもらってしまった。正直かなり嬉しかった。助けてよかったよなぁ……
私より二、三歳下ってぐらいかな。よくできた子だ。そんな子を人質にとったあげく娼館で働かせるとは許せんなエチゴヤめ。根っこから潰してやらねば。
そんなエチゴヤの残党と同じ船でバンダルゴウを目指すとは……運命の悪戯だな。これもある意味呉越同舟ってか? エチシー同船?
そんな深紫の奴らからはもちろんムラサキメタリックの装備を全て取り上げた。有効活用できる見込みはないが、あって損はない。ついでに真人間として生きるよう契約魔法をかけた上でバンダルゴウの地回り、ランディの兄貴を頼るよう紹介状を書いてやった。なお紹介状の中にはちょっとしたサービスも含ませてある。これがクソ王子フランツウッドの役に立つかどうか……
「待ってくれぇーー!」
「俺らも乗せてくれぇーー!」
「バンダルゴウ行きたーーい!」
「頼むぅぅーー!」
ん? あいつらは……
「お前らも逃げるのか?」
「当たり前だぜーー!」
「旦那からも言ってくれよぉーー!」
「ねっ? ねっ? お願ぁーーい!」
「俺らもうヒイズルで生きていけねぇんだよぉーー!」
あー、言われてみれば当たり前か。むしろこいつらほど不真面目で仕事しない騎士がよく今までクビにならなかったもんだ。
「よう船長。こいつらタダでこき使ってやれよ。役に立たなかったら魔物の囮にでもすればいい。」
「ふん、まあええ。魔王がそう言うんなら乗せてやるかぁ。おう、お前ら、船ん上じゃあ俺が法だからな? 逆らったら叩き落とすからよ。分かったな?」
「あざーっす!」
「旦那もあざーっす!」
「船長男前!」
「旦那も太っ腹!」
つーかこいつら今日まで何やってたんだ? 手配をかけられて逃げてたわけでもあるまいし。まあいいや、それより確認しておくことがあるぞ。
「お前ら、海の天国館の宿代はきっちり払ったよな?」
「もちろんだぜー!」
「だって契約魔法かかってるもんなー!」
「またいつか飲もうぜー!」
「旦那の奢りでなー!」
それならいい。
「まあせいぜいがんばれよ。あっちはあっちで激動の時期だからよ。上手く立ち回ればのし上がれるかも知れんぞ?」
「そんなら旦那ぁ、紹介状書いてくれよぉー!」
「おお! 頼むよぉ! 旦那ならきっと凄え人に伝手があんだろぉ!?」
「どうせなら知ってる中で一番偉ぇ人に書いてくれよぉ!」
「ねっ! ねっ! 頼むよ旦那ぁー!」
どこまでも厚かましい奴らだなぁ……
一番偉い人ねぇ……そりゃ国王に決まってるけどさ……どうしたもんか……
あっ! ふふふ……
「よし、書いてやる。ちっと待ってな。おおそうだ、お前ら名前は?」
腐れ騎士としか認識してなかったからな。確かこいつらも自己紹介なんかしてないよな? 覚えがないし。
「えー!? 知らんかったのぉー!? 仕方ねぇ旦那だなぉー。俺はペイジ・アトウなー」
「ひでえ旦那だぜー。俺はジョーンズ・イトウだぜー」
「まったくだよな! あ、俺プラント・ウトウね」
「頼むぜ旦那ぁ! 俺らのこと覚えておいてくれよなぁ! 俺はボーンナム・エトウな」
うん、間違いなく初耳だな。
「分かった。やんごとなき凄い方へ紹介状書いてやる。下手すりゃお前ら貴族になれるぜ?」
「マジで!?」
「すげぇよ旦那ぁ!」
「どんだけぇー!」
「マジ感謝ぁー!」
信じるのかよ……まあ嘘じゃないけど。
「ほれ、待たせたな。そのお方の名前や居場所は中に書いてあるからバンダルゴウに着いたら読んでみな。着いてからのお楽しみだ。しっかりやれよ?」
「あざーーっす!」
「さすが旦那ぁー!」
「ぜってぇさぁ! 一旗あげるからなぁ!」
「また会おうぜ旦那ぁ!」
そして全員が船に乗り込んでいった。
「じゃあな魔王ぉ! また飲もうぜぇー!」
「またなぁ魔王ぉ! 元気でなぁー!」
「女神もまた飲もうぜーー!」
パープルヘイズの奴らが手を振る。私とアレクも振り返す。船はゆっくりとオワダ港を離れていく。うーん、出港する船を見送るってのはなかなか新鮮な気分だな。エチゴヤの奴らや腐れ騎士はどうでもいいが、乗員や冒険者、それに娘さん達は無事に着いて欲しいものだな。だからってバンダルゴウまで護衛をするつもりはないが。
さあ、私達も出発だ。時間はかかるだろうが歩いて旅をするつもりだ。まずはオワダを出ようかな。そろそろ夏も終わるか……
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