第1255話 老舗オワダ商会
昼過ぎかな。今日はもうこのままのんびりしようかな……
あっ、いかん!
ギルドに行かないと! ムラサキメタリックを預けてたもんな。あーもーダルいなぁ……
でも行かないと……
アレクはよく寝ているな……起こすのもなぁ……カムイ、アレクを頼めるか?
「ガウガウ」
よし、じゃあコーちゃん一緒に行こうか。
「ピュイピュイ」
一応書き置きだけしておこう。ギルドに行くよ、用が済んだらすぐ帰ってくるよ……と。
うーん、少し腹も減ってるが……帰ってからでいいか。アレクと一緒に食べたいもんな。
あちこちに焼け跡を見ながらギルドに到着。
「会長を頼む。もしくは預けてある物が保管してある場所に案内してくれるだけでいい。」
身分証を見せながら受付嬢に声をかける。混んでなくてよかった。
「伺っております。こちらへどうぞ」
さて、案内されたのはいかにも貴重品が置いてそうな厳重な部屋。
「どうぞ、お持ち帰りください」
そこには無造作に置かれたムラサキメタリックの装備。見たところパーツを盗んだってこともなさそうだ。しかし困ったな……今の魔力でこいつらを収納してしまうと、また魔力切れになってしまうな。とりあえず重そうなやつだけ……
あー疲れた……
わずか二つの鎧を収納しただけなのに……それも全身ではなく胴体部分のみ。
残りは持って帰ろう。鉄ボートの上に乗せて『浮身』
とても手で持てる数と重さじゃないからな。
よし、帰ろう。アレクが起きてるかも知れないからな。
「おお魔王! 聞いたぜ!」
「無茶しやがって!」
「それは戦利品か?」
おっ、パープルヘイズの三人じゃないか。いいところで会ったな。
「久しぶりだな。ちょうどいいや。オワダ商会へ案内してくれないか? ちょいと仕事の依頼がある。」
「おーそりゃ構わんが、この後暇か? 飲もうぜ? 奢りの約束を忘れちゃいねーよな!?」
「そいつぁいいな! 飲もう飲もう!」
「あのバーにしようぜなぁ!」
「ピュイピュイ」
やはり先に返事をするのはコーちゃんだな。
「いいぜ、楽しそうだ。もちろん奢るさ。じゃあ先にオワダ商会へ行こうか。」
「おう、こっちだ。お前ら先に店に行って飲んでてもいいぞ?」
「そうするぜ! 席を確保しておかんとな!」
「おう! 悪いなジンマ、先に飲んでるからよぉ!」
「ピュイピュイ」
あら、コーちゃんも先に行くって。もー、仕方ないなー。
こうしてリーダーのジンマは私とオワダ商会へ。ノエリアとミッチーは先にバーへと向かった。
「それで魔王よぉ……こいつぁエチゴヤからの戦利品か?」
ムラサキメタリックを指さしてジンマが問う。
「ああ、そんなところだ。収納に苦労しててこの様さ。所有者登録だっけ? 簡単にやってくれるところはないもんかなー。」
「そりゃ無理だろ。ムラサキメタリックの秘中の秘らしいからな。よくもまあエチゴヤみてーな闇ギルドが手に入れたもんだぜ……」
「エチゴヤと領主は繋がってたそうでな。なら天王家とも繋がってたっておかしくないよな。」
「領主とか天王家とか話がでけーんだよ。勘弁しろよな。こっちぁただの冒険者なんだからよ。ほれ、着いたぞ。」
ここか。ギルドから歩いて十五分てとこか。それなりに大きい建物じゃないか。昔は天王家御用達だったって言ってたな。
「よう、テディ。番頭さんはいるかい? お客さんを連れてきたぜ。ローランド王国の魔王様だ。」
「あっ、ジンマさん! 魔王様!? ちょ、ちょっと待ってくださいね!」
今の子は丁稚ってとこかな。
三分後、小さいおっさんが出てきた。これが番頭さんか?
「ジンマか。元気そうだな。で、こちらがあの魔王様ってわけだな?
お初にお目にかかります。手前はオワダ商会の番頭、タイト・シリノアでございます。魔王様のことはサンタマーヤ号のバルタ船長から聞いております。この度はようこそお越しくださいました。」
「この度は世話になる。俺はローランド王国の六等星冒険者、カース・マーティン。バルタ船長やサンタマーヤ号の皆の仕事ぶりを知っているので、ぜひ頼みたいことがあってやって来た。」
「なんと! 魔王様からのご依頼ですか。ではどうぞ中へお入りください! ジンマもな。」
通されたのは応接室かな。出されたのは冷たいお茶。まだまだ暑い日が続くもんな。
「それで、魔王様。どのようなご依頼で?」
「人を運んで欲しい。バンダルゴウまで。人数は二十人程度だ。次にバンダルゴウに行く便に乗せてくれたらそれでいい。」
「いいでしょう。ただし、いくら魔王様のご依頼でも私どもは法に触れることは一切いたしません。どのような人間を乗せるのでしょうか?」
さすがはオワダ商会。好感が持てるな。
「まずはシーカンバーの男。聞いてるかも知れないが、エチゴヤに家族を人質に取られたためにシーカンバーを裏切った奴だ。もちろんその家族もな。」
「特に問題はないですね。」
「それからエチゴヤの奴ら。
「ふうむ……解せませんなぁ……なぜエチゴヤの奴らなどをお助けになるのですか? 用がなくなれば殺してしまった方が後腐れがなくて良いのでは?」
さすが商人、シビアだね。でもそれって商人らしからぬ考えのようだが。
「簡単な話さ。命だけは助ける約束をしたからだ。ついでに希望者はバンダルゴウまで逃す約束もな。約束は守る。当たり前だろ?」
「そのような奴らが改心するなどとお思いで?」
「思うわけないだろ。だから契約魔法はかけるさ。真人間として生きるようにな。ローランド王国にゴミを送るわけにはいかないからな。」
「エチゴヤを恨む人間は数多くおります。奴らを逃すぐらいなら船ごと沈めたいと考える者も多いでしょう。それについてはどうお考えで?」
「何も? そこは俺が心配することじゃない、だろ? それともそんな見えない相手にビビって依頼を受けないとでも言うのか?」
「おっしゃる通りですね。私どもは商人。金になることなら何でもいたしますとも。法の範囲内でね。では、今回のご依頼ですが承りましょう。対価はそうですね……今、お手元にございますムラサキメタリックでいかがですか?」
ほぉう……いきなりぼったくってきたな。さすが商人。だが、全然オッケーなんだよな。私の懐は全然痛まない。一応難しそうな顔ぐらいしておくか……
「いいだろう。では約束だ。このムラサキメタリックは置いていく。オワダ商会はいつも通りの誠実な仕事で俺が指定する奴らをバンダルゴウへ無事届ける。いいな?」
「いいでしょっおっごぉう……ふぅ……契約魔法ですか……恐ろしいことを……そしてこれだけものムラサキメタリックを簡単に寄越してくださるとは……なんたる器の大きさ。これからも末永くお付き合い願いたいものです。」
「ああ。そうなるといいな。よろしく頼むよ。」
エチゴヤの奴らみたいな闇ギルドの人間を国外に逃すのって法に触れたりしないのだろうか? 番頭が気にしてないから問題ないんだろうけどさ。これで私が心配することはもう何もない。オワダでしばらくのんびりしたら次の街に行こうかな。
「よし、これで話は終わりだな。飲みに行くぜ! 番頭さんもどうだい? 魔王の奢りだぜ!」
「ほう、それは何とも。ですが残念な事にまだ仕事があってな。終わり次第お邪魔させてもらおうか。魔王様、よろしいでしょうか?」
「ああ、構わんよ。というか『様』なんて付けなくてもいいんだがね。いやまあ好きに呼べばいいんだけどさ。」
「おし、行こうぜ! じゃあな番頭さん!」
こうしてオワダ商会を後にした私達だった。
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