第1252話 『金』属を『融』かすカース
浜辺で海を見ながらティータイム。アレクが紅茶をいれてくれたのだ。
海は凪、紅茶は美味しい……
『ふるさとの クタナツ離れ 遠い海
いつでも側に いるのはアレク』
ふふ、一句詠んでみた。酔ってもないのにいい気分だからかな。
『たらちねの 母の魔力を 思い出す
辛い修行と
たらちねって何だよ。我ながら意味分からん。でも面白くなってきた。
『お土産は 笑顔でいいね ベレンさん
なんならそこで 拾った石でも』
ぷぷっ、なんでベレンガリアさんのことなんか思い出してるんだよ。もっと他にあるだろうに。オディ兄はどうしてるかな。
マリーが人化の儀式とやらを受けるからフェアウェル村に連れて行くとかって話があったけど、結局私が旅に出てしまったもんな。まあ帰ってからでいいか。
『人間と エルフの間に 子はできぬ
だからどうにか 無理矢理解決』
うーん、意味が分からん。別に発表するわけじゃないからいいけど。あー紅茶が美味しい。ちなみにコーちゃんとカムイは磯の生き物を捕まえようとあちこちを走りまわっている。
「……カース、カースったら。さっきからぼーっとしてどうしたの? やっぱり疲れてるのね。」
「あ、ああごめんごめん。浜辺の岩に腰掛けてるだけなのにアレクがあんまり綺麗だから見惚れてたんだよ。」
「も、もう……カースのバカ……//」
アレクって本当に絵になるよなぁ。岩に座ってるだけだぞ? 私に絵心があったら描いて残したいぐらいだ。
『ヒイズルに 過ぎたるものが ふたつあり
氷の女神と ムラサキメタリック』
うーん字余り。
さて、そろそろ一時間かな。あいつらは出てきてないけど、別に構わないよな。スクラップ作業を始めよう。
「おいしかったよ。ご馳走様。じゃあちょいと船をいじくるから、待っててね。」
「ええ、手伝えることも無さそうだし、適当に稽古してるわね。」
そう言ってアレクは魔力を廻し始めた。うーん、頑張ってるね。偉い!
よし、私も頑張ろう。
『浮身』
まずは船を浮かせて……
『火球』
全体的に加熱して……
「あじぃぃいーーー!」
「ちょっ! 旦那ぁー!
「待ってくれよなぁー!」
「あちちちちちぃぃぃーーー!」
おっ、出てきたか。軽い火傷で済んだようでよかったね。
「金目の物は何かあったか?」
「いやーそれがさぁ……」
「小銭とかばっかりで……」
「鉄鉱石はたんまりあったけど、俺らの魔力庫に入る程度じゃあ大した金になんねーし……」
「骨折り損のくたびれ何とかってやつだわー」
「だろうな。じゃあお前らは生き残った奴らがバンダルゴウに行くまで面倒見てやんな。あいつらと一緒にいた方がお前らだって安全だろうぜ。」
「へぇーい……」
「あーあ……」
「俺らもバンダルゴウ行こうかな……」
「その方が安全じゃね?」
それは好きにすればいい。だってこいつら完全に騎士としての仕事放棄して好き勝手に動き過ぎだろ。よくクビにならないなと思ったら、クビにする領主が死んでるしな。怖ーいエチゴヤだってしばらくはオワダには手を出さないだろうし。こいつらってかなりの幸運なのか?
どうでもいいや。作業を続けよう。
『火球』
めっちゃ加熱してやる。具体的には鉄の部分が全て融けるほどに。それでもさすがのアイリックフェルム、白い金属は全く融けないんだよな。
『浮身』
そして浮かせている船を傾けると……
解けた鉄が流れ出てくるって寸法だ。
『金操』
鉄は鉄で一つの塊にしておいて……
『氷霰』
軽く冷やしておこう。収納は後だ。
よし。残りは全てアイリックフェルムだな。ここからが本番だ。魔力は足りるかな……
『風壁』
周囲をしっかりと囲んで……
『業炎』
めっちゃ熱くしてやるぜ。鉄なら蒸発してるだろうね。
これでもアイリックフェルムは融けない……が、柔らかくはなってる!
ここで!
『金操』
『重圧』
めちゃくちゃに圧力をかけて、潰せるだけ潰す! そろそろ魔力がヤバいな……
最終的に出来上がったのは、一辺が五メイル程度の立方体。これなら魔力庫の容量をほとんど圧迫することもない。我ながらいい仕事したな。船のままの方が高く売れた気もするが、そもそも売る気がないから関係ない。これで今後は『白弾』でも『徹甲白弾』でも撃ち放題だな。
よーし、帰ろう。宿に帰ってのんびり風呂に入るんだ。だってもう魔力がほぼ空っぽなんだから。アレクやコーちゃん、カムイがいなかったらゾッとするね。あー疲れた。
お待たせみんな。
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