第1251話 船に刻んで名を残す

「おっ、旦那ぁー! やっとかぁ!」

「俺らも行っていいんだよなぁー」

「へっへっへーお宝ざっくざくぅー」

「頼むぜ旦那ぁー!」


お宝なんかあるわけないのに。バカな奴らだ。


「好きにしろ。操舵室には来るなよ? アレク、行こうか。」


「ええ。」


カムイは見張りを頼むよ。誰も中に入れないでくれよ?


「ガウガウ」


腐れ騎士どもは勇んで突入していった。バカな奴らだなあ。金属部分以外は全部燃えてるんだぞ?


『浮身』


私達はゆっくりと操舵室を目指す。キモかったフジツボやイソギンチャク類が全て燃えてしまってスッキリしてるな。でも少しぐらいフジツボで出汁をとってみたかったかな。


さて、再び操舵室に立ち入った。ずいぶんとすっきりしたが壁の傷に変化はない。溶けてなくてよかったな。


「アレク、この壁を読んで欲しいんだ。」


「壁を読むの? あっ……」


そう。この壁には神代文字が刻んである。日本語に例えると、平仮名にあたるのがローランド文字。そして漢字にあたるのが神代文字だ。情けないことに今生での私は小卒なので読めない神代文字が多い。本も最近は全然読んでないし、恥ずかしながら勉強不足なんだよな……


わざわざ神代文字で刻んだ理由は……ある程度の知識層に読んで欲しかったからだろうか……? それとも……

ローランド文字とヒイズル文字は結構似ている。だから宿帳への記入も困ることはなかった。しかも神代文字は似ているどころか両国に共通している……勉強をしていない人間には読むことができないところまで。だから闇ギルドなんぞにどっぷり浸かった人間には普通読めない。だって私が読めないぐらいなんだから。くっ、小卒か……

それがスケルトン船長の狙いなのか?


「カース、これってエチゴヤの情報みたいよ? 『アガノはハネド・クウコの弟』とか『イトイガの店はトツカワムのコヤマテ商会』とか書いてあるわ。」


「おおー。これはいい情報みたいだね。イトイガって第四番頭だし、トツカワムってヒイズルの南方面の街だよね。コヤマテ商会ね。さすがアレク。じゃあ書き写しておいてくれる?」


「ええ、任せておいて。」


やはりアレクなら容易く読めるよな。さすがだ。

多分沈没する間際に壁に刻んだはずだよな……それにしては意外なほどたくさんの情報がある気がする。きっとギリギリまで……

スケルトン船長クロマとナマラか。せめて私達が語り継いでやろう。


「終わったわよ。それにしても、ここの壁ってアイリックフェルムよね? よくここまでたくさん刻むことができたものね。ただ傷を付けるだけでも大変でしょうに。」


「ありがと。だよね。死の間際によくやったもんだよね。実はアンデッドになってからも刻み続けたとか? あのスケルトンならやりかねないかもね。」


丈夫な金庫が一つあればわざわざ刻まなくても解決したのだろうが、ないものは無いよな。金庫って上級貴族ぐらいしか所有してないし。大抵の人間は魔力庫を持ってるんだから必要ないしね。


「不可能な話じゃないわね。人間のアンデッドってたまに意識があるって聞くものね。結局は魔力次第らしいわよ。」


あー、リッチとかノーライフキングとかってたまに聞くもんな。幸か不幸かこの世界のアンデッドって弱いんだよな……よく燃えるし。スケルトンはゾンビより強そうではあるが。ゴースト系は本当に雑魚だし。リッチか……会ってみたくはあるな。いるのか?


なにはともあれ、これでこの船での用は終わった。後はこれだけのアイリックフェルムだ。たっぷり弾丸も作れるし、何かの素材にもできる。差し当たっては魔力庫の容量を食わないように一つの塊にしてしまうかな。


「アレク、耳を塞いでいてくれる? 大声を出すから。」


「分かったわ。いいわよ。」


『お前ら! 探索はここまでだ! さっさと外に出ろ!』


拡声の魔法を使った。この船は今からスクラップだからな。


「よし、僕らも出ようか。そろそろオワダですることもなくなりそうだね。」


「それならそれで数日ぐらいはのんびりしてもいいかしらね。カースは働きすぎよ? まだ体が痛いんでしょ?」


「それいいね。あいつらをバンダルゴウに送る手配が終わったらのんびりしよう! オワダを出るのはそれからでいいよね。」


さすがアレク。ナイスな選択だ。


「旦那ぁー! もう終わりなん!?」

「もうちょい探させてくれよぉー!」

「何かありそうな気ぃすんだよぉー!」

「お願い! ねっ!? ねっ!?」


こいつらっていつでも四人で行動してんのか? いい歳こいて変な奴らだな。


「一時間だけな。それを過ぎたら後は知らんぞ?」


スクラップ作業を始めるからな。


「あざーす! さすが旦那ぁ!」

「やったぜー! 行くぜ!」

「俺ぁあっち行くからよぉ!」

「よっしゃ! そんなら俺ぁそっちだ!」


あ、さすがに探索は別行動なのね。どうせ絶対服従が効いてるから、見つけた物を全部寄越せって命令したらどんな顔するかな。ふふ、面白そうだ。


それにしても、オワダはこれからどうなることやら。領主は原因不明の死。騎士団はほぼ壊滅。凄腕の治癒魔法使いがいなければ治るまでかなりの時間がかかるだろう。

それに多分この街の裏を仕切ってたであろうエチゴヤもボロボロだし、無秩序になるんじゃないかな? 第三番頭の後任がすぐに送られてくるのだろうか?

エチゴヤ以外の闇ギルド、シーカンバーとかシーブリーズとかはどう出るのか……シーカンバーは他にも生き残りはいるそうだが……


こんなのどかな港街なのに、めっちゃどろどろしてるよな。住民もろくな奴がいなかったし。まともなのはナマラと宿の従業員ぐらいじゃないのか?


まっ、どうでもいいよな。私はアレクやみんなと気楽な旅ができればそれでいいんだから。

今のところ全然気楽じゃないけど……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る