第1247話 領主の侍女達

館の庭に案内された。ああ、ここは訓練場でもあるのね。稽古ができそうな施設があるじゃないか。


「待たせたな。では始めるとしようぞ。カサギ! 出てまいれ!」


「はっ!」


ん? 騎士じゃないのか?


「妾の侍女カサギじゃ。こう見えてもとある騎士団の重鎮を父に持つ剛の者じゃ。ではカサギ、遠慮は無用ぞ。存分に胸を借りるがよい。」


「はっ!」


「ではマーティンよ。準備はよいな?」


「ええ。」


偉そうに呼び捨てにしやがって。ひーひー言わすぞ?

さて、お相手には悪いが不動を使おうかな。アレクが見てる前で負けたくはないからな。


「始めぇ!」


キンキンとした声を出すなよ……


「参るっ!」


真っ白い太刀、アイリックフェルムか。だが、間合いになど入れてやらん。私の腕では太刀を往なすことなどできない。だから、真っ向から叩きつける!


「ほう? そのような木の棒で私の愛刀『華一匁はないちもんめ』を防ぐとは。相手にとって不足はない」


むしろ刃こぼれを心配しやがれ。神木イグドラシル製の棍だぜ? おらぁ、隙ありぃ!


「ぬっ!」


ちっ、頬を掠めただけか。おやおや、きれいな顔から血が出てるねえ。まだまだいくぜ! 突いて突いて突きまくる!


「ちいっ!」


ほほう。なかなか上手く避けるじゃないか。身のこなしに刀の腕、見た感じの若さの割にはよく鍛錬をしているのだろう。だが、アイリーンちゃんやゴモリエールさんを知っている私からすればまだまだ甘い。どうやらこいつは長物と戦った経験が少ないな。ほぉーら足ぃ!


「うぐぅっ!」


脛当ては着けているようだが、その程度の防具で不動は防げんな。ほら、脛当てごと壊れただろう?


そして注意が下に逸れたところで!


「ぬがぁっ!」


脳天をひと叩き。もちろん手加減している。本気でぶっ叩いたら頭蓋骨なんか簡単に割れてしまいそうだからな。


「ほう。見事である。相手がおなごだろうと油断も隙もないようじゃの。では次じゃ。ミスナ!」


「はい!」


また侍女かよ。なぜ騎士が出てこない?


「ではよいな? 始めぇ!」


「いきます!」


今度は槍、いや薙刀か。私の不動より長いな。そしてこれまたアイリックフェルムかよ。


うーん、ぶんぶんと振り回すではないか。切れ味だって良さそうだし。おまけに容赦なく脚を狙ってきやがる。さっきの私の意趣返しか?


よし、それなら……上段に構えて……


「隙だらけだぞ!」


私の足首に叩き込まれる薙刀。ふふ、隙だらけなのはどっちだ?

私は防御もせず不動を彼女の肩口に叩きつけた。


「ひぐっ……ぐうう……」


終わりだ。いくらアイリックフェルムでも私のドラゴンブーツは切れまい。もっとも、奴の薙刀にもっと威力があったなら足払いの効果ぐらいはあっただろう。まあ修行が足りないってとこだな。


「ちっ……次! バウラ! 行け!」


「はいぃ!」


まだやんのかよ……

結構きついんだけど……

それにしてもこの領主……もう仮面が剥がれてきてないか? 馬脚を露わすのが早すぎだぞ。


次も侍女か。なぜ女ばかり? 今度の奴は一文字槍か。さっきの薙刀よりは短いな。不動と同じぐらいか。


「はあぁぁぁぁ!」


うおっ! めっちゃ突いてくるじゃないか! こんなのを槍衾って言うのか? 回転が速い!

さすがにこんなの躱せないから距離をとろう。


「逃しません!」


くっそ……隙間なく突いてきやがる! 首から上にさえ当たらなければいいんだが、それでも避けずらい! シンプルな武器って対応に困るんだよな……

くそ……単純な力量では勝てん……


「往生際が悪いですよ!」


模擬戦じゃねーのかよ! 思いっきり刃物を使いやがって! 刃物か……思いついたぞ! どうにかあの場所まで……


「逃げてばかりとは! それでも男ですか!」


うるせぇな。クタナツ男の誇りは逃げても傷つかないんだよ! 生き残りさえすれば勝ちなんだからな!



よし! ここだ!


「ようやく観念しまし、なっ!?」


よっしゃ隙あり! 不動を相手の顔めがけてぶん投げる! 一文字槍をかち上げ不動が弾かれる。胴も首も隙だらけだぜ?


「くっ、小細工を!」


もう遅い! 間合いに入った! 両手でその細い首を掴み、絞めながら……突進の勢いそのままに、押し倒す! 後頭部が地面に直撃コースだぜ!


「まっ! 待て! それまでじゃ! これは模擬戦であろうが!」


ちっ、手を離したためにもつれるように転げる私達。

意外と判断が早いじゃないか。少し見直したぞ。さすが領主。


「げっ、げほっ、ひ、卑怯な! あのような位置に逃げるなんて!」


やはりこの程度か。甘いな。ちょっと領主の前に移動しただけなのだが。アレクなら私の後ろに母上がいても平気で魔法を撃ってくるだろうよ。


「領主様が止めなかったらアンタは死んでたんだが、その辺についてはどう思う?」


もちろん殺す気なんかなかったけどね。


「くっ、だからと言ってあのような!」


「そうやって文句を言うこともできなかったはずだよな?」


「もうよい! バウラ、お前の負けじゃ! 控えておれ!」


「は、はい……」


やれやれ。結局何がしたいんだ? 目的が見えないな。


「マーティンよ。あっぱれである。後ほど褒美をとらそうぞ。おっと、そうそう。そちらのおなごよ。お前も腕を見せてみぬか?」


あ? このクソ領主……またアレクに向かって無礼な口を……暴れてやろうか……

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