第1246話 オワダの女領主

ふわぁ……あぁ……よく寝た……もうすぐ昼かな……まだ眠いな……

でも腹もへってきたし、起きようかな。


あれ? アレクがいない。いつも私の左側に寝ているのに……あ、いた……私の股間に顔を埋めたまま寝ているじゃないか。もーアレクったら、そんな所で何してたんだぁ? ふふ……堪らんじゃないか。昼から悪い子だ……












「はぁ……はぁ……カース……すっかり元気になったわね……はぁんんっ……」


「アレクのおかげだよ。色々とありがとね。さて、お腹の具合はどう? へってる?」


「ええ、空いてるわ。カースが激しいから……」


それはアレクが魅力的だからいけないのだ。




うん、昼飯も美味かった。高い宿にして本当に良かったな。さて、面倒だが出かけるか。船の中を探索して、名簿を控えておかなければな。


少しだるいが例の浜辺に行くか。




なんだよ、あの腐れ騎士ども来てないじゃないか。私を待たせるとはけしからんな。まあいいか、別にあいつらがいなくても困らないし。操舵室を確認するだけだしな。では、船をどーんと出そうかね。


ん? 誰か来た。あの赤い鎧は……


「魔王! 神妙にしろ! ご領主様直々のお呼び出しだ! あの四人はすでに拘束した! 大人しく付いて来い!」


名前は忘れたが女騎士ちゃんだったな。領主か……少し興味あったんだよな。今の魔力で会うのは少し不安があるが、カムイがいるんだし大丈夫だろう。


「お前が来い、と言いたいところだが……領主様のお呼び出しとあれば行かないわけにはいかんな。仕方ない、案内しろ。」


確かここの領主は国王、いや天王の愛人とかって話だったな。何を考えてるのか、とりあえず当たってみるかな。




領主の館は先ほどの浜辺から少し北の港へ向かい、そこから真東。山に向かうメインストリートをまっすぐ歩く。

山と山の間を利用した天然の要塞って感じだな。海側から攻められる分には堅固だろうね。


「閣下の仰せによりローランド王国要人、カース・マーティン殿を連れて参った! 開門!」


ほう。さすがにクタナツの城門並みのとはいかないが、それなりに堅牢そうな城門ではないか。生意気な。


城門が開かれ、足を踏み入れると道の両脇には騎士がずらりと並んでいた。普通に考えれば歓迎の意と言えるが、今回のこれはプレッシャーだろうな。


建物自体はクタナツの代官府とさほど変わらない大きさだ。領主の自宅でこれとは贅沢な話だ。行政府も兼ねているのだろうか?


「こっちだ!」


普通に屋敷に入りつかつかと歩く。これで釣り天井の間とかに案内されたら笑うぞ。


「ここだ。ここで領主様がお見えになるのを待っていろ!」


「待つのはいいが、お前も少しは口の利き方に気をつけろよ。国賓扱いしろとは言わんが要人だって自分で言ったよな?」


「くっ……王国の権威を傘に……」


むしろローランド王国の権威なんてそんなに通じるか? ないよりマシなはずなのだが……こいつみたいに道理の分からん奴にはさっぱり通用してないもんな。これで元中央貴族とはねぇ。


さてと、中は応接室か。ご丁寧にお茶と菓子か。腹は減ってないが、茶ぐらい飲むとしようかね。


「あら、なかなか美味しいわね。」


アレクが先に飲むとは……さすがに豪胆だね。


「あ、ホントに美味しい。この季節だし冷たいお茶もいいもんだね。」


「ピュイピュイ」


おっ、菓子も美味しいのね。


「ガウガウ」


甘すぎる? カムイの舌は厳しいな。つーかこいつって辛いのも甘いのもダメなんだよな。




五分ぐらい経ったかな。あんまり待たせるつもりなら帰るぞ?


「失礼いたします」


おっ、誰か入ってきた。女、メイドさんか……違うな、役人的な雰囲気だな。


「オワダ領主、マナオ・クロタキ・オワダ伯爵閣下がご入室されます。お控えになってくださいませ」


なんだこいつ? 自分とこの領主をどんだけ持ち上げる気だよ……それともこれまたプレッシャーをかけてるつもりか? まあいい、跪く気はないが立って出迎えるぐらいはしてやる。アレクは私に続いて立ち上がり、カムイはお座りをした。コーちゃんはとぐろを巻き、頭をピシッとまっすぐ立てている。


「待たせたな。わらわがオワダ領主マナオ・クロタキである。遠くローランドの地からよくぞ参った。名を申すがよい。」


なんだこいつ?

十本の指全てにごてごてと指輪を嵌めてやがる……首飾りもじゃらじゃらと……趣味悪ぅ……

おまけにデコルテがバインバインと肩ごと剥き出しになるドレスなんか着てやがる。顔はまあ悪くはない。エロイーズさん系統のデーハー系だ。もっとも、妖艶さではエロイーズさんには遠く及ばんがな。


面倒だが素直に挨拶するか……


「ローランド王国フランティア領はクタナツギルド所属、六等星冒険者カース・マーティンです。」


「ローランド王国フランティア領クタナツ騎士団騎士長アドリアン・ド・アレクサンドルが長女アレクサンドリーネでございます。」


「ピュイピュイ」


「ガウガウ」


うちの子達はきちんと挨拶ができるんだぜ?


「フォーチュンスネイクのコーネリアスとフェンリル狼のカムイです。お会いできて光栄だそうです。」


もちろん嘘だけど。


「ほう? よく躾けてあるものよのう。天晴れであるぞ。まあ座るがよい。」


なーんかこいつの喋り方って胡散臭いんだよな。口調はゴモリエールさんや今の王妃に似てるんだが。どうも不自然と言うか演技臭いって言うか……


「のうカースとやら? 昨日は大活躍だったそうじゃな?」


「いえ、別に大したことでは。」


「ほう? エチゴヤの精鋭を相手にして大したことではないと申すか。そちらのおなごもそう思うか?」


こいつ……アレクだってきっちり名乗っただろうが……舐めてんな……


「カースの言う通りですわ。所詮は闇ギルドの構成員でしかありません。強槍精兵つよやりせいへいと名高いイカルガ騎士団とは比べ物にならないかと。」


おっ、意外な知識。やっぱ首都の騎士団ともなると違うのか?


「ほう? 知ったような口を利くではないか。そなたはイカルガへ行ったことがあるのか?」


「ございませんわ。風の噂に聞いたまでのことです。それとも天都イカルガの騎士はエチゴヤの兵より弱いとでも?」


「ふっ、そのようなことがあるはずがない。妾はイカルガ出身ゆえな。あそこの騎士の強さはよく分かっておる。それにしてもマーティンよ。そなたは魔王と呼ばれるほどの強者だそうだな?」


「強者かどうかはともかく、魔王とは呼ばれております。」


さっきから何が聞きたいってんだ?


「その強さを見せてはくれぬか?」


何言ってんだこいつ?


「具体的にどのような感じでしょうか?」


「妾の部下と立ち会ってみてはくれぬか? 魔法なしでの。」


「やるのは構いませんが、魔法なしだとそこらの平民程度の強さしかありませんよ?」


「なに、魔王とまで呼ばれるそなただ。我が配下に軽く胸を貸してやって欲しいだけのことよ。無論褒美は出す。いかがじゃ?」


怪しさ満点だな。まあ乗ってみるけどさ。

まったく……まだ体中が痛いってのに……


「いいですよ。魔法なしの模擬戦と考えればいいですね?」


「よし、決まりじゃ。これ、マーティン達を外へ案内せよ。」


「かしこまりました」


この女領主は一体何を考えてるんだろうねぇ。怪しさしかないぜ……

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