第1237話 凶毒四連殺

うん? あの鎧の色ってよく見ると……

あの時、王都の動乱で偽勇者どもが着ていた鎧か!?

つまり、私でも収納できないハイクラスのムラサキメタリックか!


「ほう? その顔を見るに、気付いたようですね? あなたが昨日殺した青紫烈隊は言わば補欠、ここにいる彼らこそが本当の青紫烈隊バイオレッタです。便宜上『深紫ディパープル』と呼んでますがね。」


「ふーん、てことはやっぱお前らって偽勇者やヤコビニ派と関わっていたようだな。後でたっぷり歌ってもらうぜ?」


「あなたが生きていればの話ですがね? いや、生きてはいても目も耳も口もないって可能性は多分にありますね。ああそうそう。そちらの美しいお嬢さんは決して殺しません。ご安心くださいね。」


「あなたのような趣味の悪い不細工に美しいと言われてもねぇ? 顔は無理でも服装ぐらい気を使ったら?」


おおー、アレクも言うねぇ。


「ふふ、威勢のいいお嬢さんだ。あなたのようなお嬢さんを調教するのも私の楽しみなのですよ。その勝ち気な瞳が屈辱に歪む様を見るのは何ものにも代え難い悦楽ですね。」


ぐえー趣味悪っ。アレクをそんな目で見るのは気に入らんが、どうせこいつの寿命は長くない。そのぐらい許してやるさ。


「双方集まったな! ではこれより古式にのっとり四対四の星取り戦『凶毒四連殺』を行う! 各々、参加する者は前へ!」


会長の登場か。でもなんだ? ご大層な名前つけやがって。


「これを飲むがいい。猛毒『凶津時浸まがつときしん』だ。勝った方にこの解毒剤四人分を渡す。負けた方は全員死亡だ。よいな?」


「会長、それは少し困りますねぇ? そのお嬢さんの命は助けてあげたいのですが?」


「そんなセリフは勝ってから言うがいい。勝者が望むなら解毒剤を売ってやらんこともないがな。」


「それなら安心です。さあ始めましょうか?」


「では説明する。この凶津時浸が効力を発揮するのは飲んでからおよそ一時間後。それまでに解毒剤を飲まねば死あるのみ。つまり、対戦が長引けば三人目、四人目は戦わずして共倒れになることも充分あり得る。心して臨むがよい。」


凶津時浸まがつときしんねぇ……初めて聞く名前だが、さすがに死汚危神だいおきしんよりヤバいってことはないだろ。神殺しの猛毒なんだからさ。ならば問題ないな。


「双方異存はないな? では参加する四名はこれを受けとれい!」


「うちの蛇ちゃんと狼ちゃんは受け取れないからそこに置いてくれ。」


「なっ!? 名誉ある凶毒四連殺に魔物が参加するだと!? しかし、規則違反ではないか……仕方あるまい。参加を認めよう。」


エチゴヤ側は番頭の奴出ないのかよ。偉そうな口叩いておきながら見てるだけか。


「おっと、待った。俺はそっちが飲みたいな。どうせ中身は同じだよな?」


私達の方に配られた四つの杯。それではなく、エチゴヤ側に配られた方を取る。会長が中立とは限らないからな。


「好きにせよ。さあ、全員持ったな? では飲め! 飲んだら最初の勝負を始めるぞ!」


ぐええ……くっそ不味い……なんと形容していいんだこれ? 飲んだことないけど下水を熟成させたらこんな味なんだろうか……

死ぬほど不味かった……魔王ポーションより不味いんじゃないか?




コーちゃんからだね。頑張ってね!


「ピュイピュイ」




「それでは第一殺を始める! 双方前に出て名乗れい!」


「ピュイピュイ」


「あー、代わりに言おう。うちの蛇ちゃんの名前はコーネリアス。神代文字だと幸煉明日って書くんだけどな。見ての通り愛らしい蛇ちゃんだ。」


「ふっ、このような蛇では相手にならんな! 俺は深紫の『凶刃きょうじん』ブレイド! そこな蛇よ! 我が愛刀『山裂やまざき』の錆にしてくれよう!」


ほー、ムラサキメタリックの刀か。めっちゃ切れそうだな。


「ピュイピュイ」


うーん、コーちゃんはいつも通りだ。つぶらな瞳がかわいいぜ。


「決着は線から出るか、降参するか、意識を失うか。または死をもって付くものとする! 双方構え! 始め!」


土俵より二回り大きいぐらいの円か。めっちゃエチゴヤに有利だよな?


「うおらぁぁぁーー! 死にくされやぁぁぁーー!」


あぁ無理無理。そんな大振りじゃあコーちゃんは捉えてられないって。せっかくのいい刀が泣いてるぞ?


「逃げてばかりじゃあ勝てんぞぉぉぉーー!」


コーちゃんどうするんだろ? 相手は全身ムラサキメタリックに覆われてんだけど……


「ちょこまかとぉぉぉーーー! 死ねぇぇーーー!」


「ピュイッ」


あれ? コーちゃんが……消えた? 一体どこに!?


「うおらぁーー! どこに逃げたぁー!? 出てこいやぁーー!」


エチゴヤの奴が暴れるもコーちゃんの姿は見えない。マジでどこに行ったんだ?


「いぎっ! こんのクソ蛇がぁーーー!」


あっ、兜の口から出てきた。あー、確かに目と口の部分は開いてるもんなぁ……

でもそこまでの隙間はあったか?


「ピュイピュイ」


え? 終わった?


「おらぁクソ蛇ぃいいい! どこ行ったぁーー! 出てこいやぁ! 逃げてばっかで勝てるなんざぁ笑わすっだらねぇーぞぉー! げひゃひゃぁー! おらぁどうしたぁ! 笑わすっだらねーって言ってんだぎゃあーー! ひゃひゃひゃっ! おかしいぜー! 笑いが止まらねぇぜぇー! ひゃーっひゃっひゃっ! うひひひひひひひ! 笑わすなっつってんべがぁーうひひひひ! ひひひひひ!ひひひゃひゃーはっはっはっはーーーー!」


なんだこれ? どうなってんだ? エチゴヤの奴は線から外に出て奇声を発しながら暴れ回っている……そして仲間に斬りかかっているではないか……


「ひゃはははははははぁーーー! おんもしれぇよなぁーー! 俺ぁ深紫の凶刃ブレイド様だぜぇぇぇぇぇーーーー! げひゃひゃひゃぁぁぁーー! おらおらぁ! どいつもこいつもかかってこいやぁーー! ひゃーははははははははははははぁぁぁぁーーー! 笑わせてくれんぜぇぇぇよぉぉぉぉぉーーー!」


うわーもしかして狂ってしまったのか? コーちゃんの仕業か……怖いぜコーちゃん。


「ピュイピュイ」


エチゴヤに少しムカついてたって? コーちゃんもなかなか人間くさいところがあるんだね。お見事だったよ。

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