第1236話 決戦の朝

宿の離れに戻った。ここまでエチゴヤの手は回っていないようだ。さすがにこのレベルの宿には手出しできないのだろうか。


「おかえりなさいませ。ご活躍お聞きしております。」


「もう? 情報早いんだね。この宿にエチゴヤが嫌がらせか何かしてきたりしない?」


「おそらく大丈夫かと。殺し屋を防げなかった分際で言い難いことですが……」


「いや、宿に問題がないならいいんだ。ああ、夕食は遅めに頼むと思う。」


「かしこまりました。いつでもお申し付けくださいませ。」


さーて、風呂に入って寝よう。このオワダはあちこち火事で大変だけど、そんなこと気にもせずに呑気に風呂だ。普通は宿でも自宅でも湯船に水を溜めるのも沸かすのも自前の魔力でやらなければならないが、さすがに高級宿は違うね。魔力が少ない客が泊まっても風呂に入れるようになっている。給水の魔道具と、加熱の魔道具かな。それなりに魔石を消費するんだろうね。溜まるのが遅いから私は使わないけど。


それにしても明日か。エチゴヤみたいな闇ギルドが表のギルドに姿を現すとは、よくオッケーしたよな。餌を撒いてよかったぜ。賭け金の釣り上げにもあっさり了解したし、これっぽっちも負けると思ってないんだろうな。




「ねぇカース? 明日の順番はどうするの?」


湯船で私にもたれかかりながらアレクが問いかける。


「うーん、アレクは四番目ね。それから、うーんと……よし、コーちゃんが最初で次はカムイにしよう。」


「私が最後なの? それじゃあ出番がないってこと?」


「その通り。アレクまで回さずに三連勝で終わらせるよ。アレクにあんな奴らの相手なんかさせられないからね。」


「そうね……正直な話、ムラサキメタリックの鎧を相手にしたら……勝ち目がほぼないものね……悔しいけど。」


だよなぁ……あの鎧に勝つ方法ってごり押しでぶち抜く以外にそうそうないよな。場所が街中でなかったら津波でまとめて押し流してやってもいいんだけどね。


「母上だったらどうするんだろうね。なんだかどうにでもしてしまえそうだよね。フェルナンド先生だったら普通に斬ってしまいそうだし。」


「お義母様だったら……私も甘えたことばかり言ってられないし、どうにか勝てるようにならないといけないわね。」


「さすがアレク。その意気だよ。」


マジで母上ならどうするんだろ? 私の知らない魔法であっさり片付けそうだよな。魔法が効かない鎧なのに。


それよりコーちゃんだよ。大丈夫なのかい?


「ピュイピュイ」


明日考えるって? もー、コーちゃんたら。


カムイは大丈夫だよな。一対一なら勝てるだろ?


「ガウガウ」


思えば初めての団体戦だな。もし場所が王都とかだったらスティード君やセルジュ君、サンドラちゃん達を誘ってただろうな。同級生五人組で団体戦に出場……それってすごく青春だよな。ローランド王国に帰ったらそんな大会を開催するのも面白いかも。アレク杯の団体戦とかね。




「それよりカース……今日もすごくかっこよかったわよ。私もう……」


大量殺人をしたのに褒められる私。そんな私を見て欲情するアレク。これが標準的クタナツ女性なんだけど、変な気分だな。でもアレクがかわいいから問題なしだ。いつも通りだね。







ふふ、いい夜だったな。よく眠れそうだ。アレクは気持ち良さそうに目を閉じている。かわいくて仕方ないぞ。私も眠くなってきたな。範囲警戒と自動防御をきっちり張ってと……おやすみ。







「おはよう……」


「おはよ。アレク、早いね。」


「うん……目が覚めちゃった……」


珍しいな。アレクの方が先に起きてるのに私に襲いかかってない。本日の体力を心配してくれたのかな? ふふ、いい子だなぁ。


のんびり朝風呂に入ったら朝食だ。


うーん、今朝も旨いね。塩の米球に、海苔が巻いてある。海苔! 旨い! 味噌汁も旨い!

エチゴヤの奸計で毒でも入ってるかと思ったけど全然そんなことなかったな。




さて、腹ごしらえも済んだことだしギルドに行くとしようかね。

歩くのはダルいな……よし、飛んで行こう。

上から颯爽と登場してやろう。





到着、隠形解除。

ほう、結構集まってるな。おっ、腐れ騎士四人組まで来てるじゃないか。よく起きれたな。おやおや、護衛すべきバチオと妻子、おまけに紫の奴まで連れてきちゃって。人目があった方が安全ってことかな。悪くない判断だな。


「うおっ!? 旦那っ!? いつ来たんだよ!?」

「えっ!? 旦那!? どこから!?」

「やっべ! おはざーっす!」

「勝ってくれよー!」


エチゴヤの奴らは……まだか。よし、もう少し待って来なかったら不戦勝だな。


かと思ったら入口がざわざわしてきたな。普段人前に姿を現さないエチゴヤの幹部が現れたからってとこか。


おーおー、ぞろぞろと登場しやがって。


「ほぅ? 逃げずによく来てくれました。さすがは魔王と呼ばれるだけありますね?」


「落ちてる金は拾う主義だからな。お前らこそよく来たな。褒めてやるよ。」


とても正々堂々と勝負するとは思えんがね。

番頭の後ろにいる奴ら、ムラサキメタリックのフルプレート鎧だが、心なしか色が濃いようだが……

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