第1211話 散歩と遠泳

腹も膨れたことだし、食後の散歩だ。歩くには広すぎるが構うことはない。まずはどこかに突き当たるまで歩いてみる。


「こうして見ると建物が随分ローランド王国とは違うんだね。」


「そうね。こっちはやけに木造が多いのね。」


見たところ、この港街は山に囲まれているからだろうか。海にまで迫り出すかのような山々。そこを切り拓いて作り上げた街がここなのだろうか。平野の多いローランド王国とはやはり違うな。

なだらかな坂を下り、海が目前に見えるところまで到着した。至る所に防波堤がきっちりと作ってある。正確に言えば頑丈そうな石垣って感じかな。

うーん、泳ぎたくなるな。よし、そうだな。それがいい。船も釣り人もいないことだし。


「アレク、泳がない?」


「カースったら。仕方ないわね。いいわよ。」


やったぜ。


『換装』


海パンに着替えて海に飛び込んだ。別に遊泳禁止なんて書いてないから構わんだろう。


「ピュイピュイー」

「ガウガウ」


コーちゃんとカムイも来た! よーし泳ぎで競争だ。どっちが沖の小島まで先に着くか勝負!


「待ってーカース! 私も行くんだから!」


「よーしアレクも勝負だよ! 魔法なしだからね!」


沖に見える小島、いや島ってより海面から突き出た岩か。あそこまでおよそ百五十メイルってところかな。海を泳ぐのに百五十メイルは結構な距離なんだよな。




一番乗りはコーちゃん、次いでカムイ。だいぶ遅れて私とアレク。さすがに魔法なしだと相手にならないや。


岩場によじ登りしばしイチャイチャ休憩。波がほぼなかったから泳ぐのに苦労はしなかったが、それでも疲れた。おっ、沖に船が見えるな。オワダに帰ってきた船かな。ん? 船の甲板に人が集まってるな。まさか、スク水姿のアレクを見ようと? ばいんばいんに育ってるからスク水が相当キツキツなんだよな。そろそろ弾け飛んでもおかしくない。つくづくマリーにビキニを頼み忘れたのが悔やまれる。まあいいや。放っておけば船は通り過ぎるし。


さーて、岸に戻るとしようかな。さっきは魔物が全然出なかったけど、時間をおいてしまったことだし帰りは警戒しておかないとな。




問題なしだった。この辺りは海の魔物が少ないのだろうか? 岸に戻ってみれば子供達も水遊びをしているではないか。ここら辺では水泳の習慣があるのかな? でも水着ではなく、普段着のまま浜辺でばしゃばしゃやってるだけか。


「ねえカース。この辺りでは海で泳いでも安全なのかしらね?」


「僕も今それを考えてたんだよ。子供達がああして遊んでるってことは安全なんだと思うけど。一応聞いてみようかな。」


見たところ十歳にもなってないような子供達が五人ほど。全員男の子だ。


「ねえねえ君たち。この辺の海って魔物は出ないの?」


「は? 魔物なんか怖くねーし!」

「そーそー! おれら別に魔物なんかにびびってねーし!」

「にーちゃんはさっさと帰ったほうがいいぜ!」

「魔物はこわいんだからなー!」

「おっぱい……」


だめか……会話にならない。ならば撤退しよう。


「魔物が怖いから帰るよ。君たちも気をつけるんだよ。」


あぁ……前世を思い出すなぁ……九月に海で泳いでいた子供達がいて、地域から通報があって、きつく説教したよなぁ。どうでもいいのに。泳ぎたいなら泳がせてやれよな。別に遊泳禁止区域で泳いだわけじゃないんだからさ。どうせ浜辺で遊んでたら海に入りたくなって服のまま泳いだってだけなんだからさ。漁民の子が服のまま泳いだぐらいで溺れるかよ。

まあ……夏休みのしおりに泳いでいい期間は八月末までって書いてあったけどさ。説教する方も大変なんだから。


「へへーっ! びびりにーちゃんだー!」

「魔物なんかこわくねーし!」

「びびりだびびりだー! なっさけねーのー!」

「怖いんならしゃーねーよなー!」

「ふともも……」


元気な子供達だなあ。魔物が来なければいいが。


よし、散歩の続きだ。もちろん全員に浄化をかけてスッキリしたことだし。よし、敢えて中心から外れた方に進んでみよう。地域の人々に出会えるだろうか。

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