第1212話 地元民との触れ合い

海岸線に沿って歩いてみる。のどかだなぁ。右手に海、左手に街並み、その街並みの奥には緑の山々か。


さらにのんびり一時間ほど海沿いを歩いていると、いつしか街並みは途切れ寂しい雰囲気が漂ってきた。このまま進めば山に突入か。細い道はあるな。ここに分け入ったらどこまで続いてるんだろうな。先が全然見えないぞ。


「行ってみようか。ちょっと興味が湧いたよ。」


「いいわよ。山歩きなんて久しぶりだし。」


確かに。ムリーマ山脈やカスカジーニ山はよく歩いたものだ。だが、ここまで藪の中を分け入るような道は初めてだ。なんだか冒険してるって感じかな。アレクのきれいな足にダニやら虫がつかないか心配だな。だったら行くなよって話だけど。あ、アレクが換装を使った。珍しくパンツスタイルだ。初めて見るかも。


「それもアレクに似合うね。なんだかスタイリッシュだよ。」


特にお尻がむちむちのプリプリ。最高だ。このまま藪の奥で……


「うふ、ありがとう。こんなこともあろうかと数着作っておいたの。ブルーブラッドオーガの革製トラウザーズよ。」


「おおー、それなりに丈夫そうだね。色も涼やかで山歩きに合ってるね。」


「カースと一緒だとどこに行くか全然予想がつかないものね。」


それはそうかも。その点私の服装は素晴らしいな。一着で王族の式典から山歩きまで全てカバーできるもんな。何ならそのまま泳いでもいいし。


うおっ、前方からまさかの地元民が。こんな道でも通る人はいるんだなあ。


「こんにちは。この辺りの方ですか?」


「あらまあ、そねぇええ服着てこげな道ぃ歩いて。どこから来ぃさぇたんなあ?」


背中に籐籠を背負ったおばさんだ。質問を質問で返されたが気にしない。


「ローランド王国から来たんです。こんな道を歩くのが好きなもんで散歩してます。」


「あんれま! ローランド王国げな? 海の向こうでねか! よお来ぃさぇたなあ! ほらこれ食いぃな!」


「ありがとうございます。いただきますね。これは何ていう果物ですか?」


「オラカンって言うでな。ちぃと酸っぺえが肌がきれいになるでな。あんれま、そっちのお嬢さんはめんこいなぁ! オラカン要らずだで!」


「おばさまこそ、お肌の艶が違いますわ。これのおかげですか?」


「やだよぉおば様だなんて初めて呼ばれただぁ! そうだぁ。オラカンは食べてよし飲んでよし、風呂に浮かべてよしでなあ。ここからずーっと登ると成ってるから少しなら捥いでもええでな」


「ありがとうございます。お言葉に甘えて行ってみますね。あ、じゃあお返しにこれどうぞ。ローランドの海産物です。」


「あんれま! 栄螺さざえでねか! こいつぁたまげた。ありがたくいただくでなぁ。おおそうだぁ、獣には気ぃつけるんだで?」


「ご心配ありがとうございます。じゃあ失礼しますね。」

「どうもありがとう。」

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


細い道なので身を寄せ合うようにすれ違う。こんな細く険しい道を毎日登って果実の世話なんかしてるのかな? 今の時刻は三時すぎってところだから仕事を終えて帰るには早い気もするかな。まあいいや。日暮れまで登り続けてみよう。帰りは飛べばいいし。


さっそく貰った果物を食べてみる。オレンジや夏みかんのような皮を剥いて……中身は……うん、まるでオレンジだね。ならば味は……おお、少し甘い夏みかんだ。結構美味しいな。少し汗もかいてたことだし、これはいいね。


「意外と悪くないわね。お風呂にはこの皮を浮かべればいいのかしらね。」


「そうだね。いい香りがしそうだよね。」


「ピュイピュイ」


コーちゃんはこれを酒に搾ってくれって? いいアイデアだね! ぜひやろう!


「ガウガウ」


カムイめ、食わなくていいから湯船にたっぶり浮かべろって? お前ほんとに風呂好きだよな。野生の誇りは忘れたのか?




途中は何ヶ所も分かれ道があり、標識などはもちろんない。とりあえずのんびり上へ上へと登ってみた。そうして歩くこと一時間、ついに開けた場所へ出た。いかにもな木の実も成っている。結構無防備に見えるが鳥や獣に取られたりしないのだろうか?


「少しなら捥いでいいって言われたし、人数に合わせて四個ほど貰っておこうか。」


「そうね。それぐらいが良さそうね。」


「よーし、じゃあ一人一個だけ各自で捥いでみよう!」


「面白そうだわ。どれにしようかしら?」


「ピュイピュイ」


「ガウガウ」


みんなが自分だけのオラカンを求めて散っていった。私はどれにしようかな。手が届くところにするか、一番上を狙うか。

どうせなら大きいやつにしようかな。この広場の真ん中にどーんと生えてる大きな木から捥いでみようかな。高いな、五メイルはあるぞ。よし、あの一番上に成ってるやつにしようかな。


『風斬』

『風操』


でかっ! スイカぐらいあるじゃないか。これなら果汁もたっぷり絞れそうだな。味に違いはあるのかな?


「うわぁカースの大っきいわね。私はこれにしたわ。」


「ほどよいサイズだね。コーちゃんは……」


「ピュイピュイ」


おっ、中々大きいね。メロンぐらいあるじゃん! こんなのよく見つけたね! で、カムイは……


「ガブガブ」


カムイの口で咥えきれるサイズか。コーちゃんと同じくメロンぐらいだな。ちなみにコーちゃんは体をオラカンに巻き付けて運んできた。器用なんだよな。


「よし、せっかくだからこのままどんどん山奥に行ってみようか。日が陰ってきたら帰ればいいしね。」


「ええ、いいわよ。なんだかワクワクするわね。」


「ピュイピュイ」


「ガウガウ」


コーちゃんはいいと言っているがカムイは腹が減ったと言っている。どうせ後一時間もしないうちに帰るんだから待っとけってんだ。


ただ、山奥に行こうにももう道はない。つまり、藪を無理矢理に押し広げて進むのだ。上へ上へと……

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