第1210話 会長ハネド

水出し緑茶か。鮮やかな緑が目に優しいね。すっきりして美味しいぜ。ローランド王国にはなかなか入ってこないタイプだな。鮮度が重要なのかな?


お茶をちびちび飲みながら錬魔循環を行う。やはり暇さえあれば行うべき基礎訓練だからな。基礎は疎かにしてはならない。魔力が全身を巡ることを意識しながら集中して行うのだ。



おっと……ノックの音だ。つい集中していたな。


「入っていいよ。」


「失礼いたします。お客様をお連れいたしました。」


担当さんの後ろから入ってきた……こいつか。あの坊ちゃんの父親だけあってイケメンの面影があるな。太ってなければな。さっきの護衛とは別の護衛まで来てやがる。


「失礼するよ。全く事情が掴めないのだがね。うちの番頭が人質にとられており今にも殺されると聞いたが?」


「初対面なんだ。自己紹介ぐらいしようぜ。俺はカース・マーティン。身分はこんな感じだ。」


「ほう? その若さでローランド王国国王陛下直属の身分証をお持ちとは。これはこれは。私はクウコ商会会長ハネド・クウコだ。で? 身代金でも欲しいのかい?」


説明するの面倒だなー。面倒だけど一から話してやるか。だるー。





「と、言うわけだ。信じられないってんなら適当に目撃者でも探してみな。つーか自分のガキに聞いてくれよ。なんで被害者のこっちがこんな面倒な目に遭ってんだよ。」


「ふむ。ナルタが白金大判を所持しているのは不自然だな。そのような小遣いを与えたことなどない。そうなると、誰がそれを与えたかという話になるが……」


「へー、そうなるのね。それなら後はそっちでやってくれ。番頭は持って帰っていいから。」


「ほう? 何の代償もなく無事に帰してくれると言うのか? 私は魔力を感知することは得意ではないが君が恐ろしく腕が立つことぐらいは分かる。顔色一つ変えずに私達の命を奪えるであろうこともな。」


「まあ、正解かな。だからって理由もなくいきなり殺したりなんかしないぞ? これでも約束や法律は守るタイプだからな。」


何でもありの無法者になんかなりたくないからな。


「そうかね。敵対せずに済んで何よりだ。では番頭は連れて帰るとするよ。あの魔法を解いてくれるかな?」


「ああ。」


闇雲と麻痺を解除した。


「連れていけ。」


「はっ!」


護衛の一人が『浮身』を使って番頭を持ち上げた。


「では、オワダでの滞在を楽しんでくれたまえ。」


「ああ。一週間ぐらいはここにいる予定だ。」


そう言って会長は帰っていった。推測するなら……何らかの理由で番頭が坊ちゃんに白金大判を持たせた。もしくは番頭から奪った。あの手の盆暗が大金を持ちたがる理由は……博打か、女か。女だろうな。貢ぐつもりか、それとも見せびらかして財力をアピールするか、どうせロクな使い道じゃないんだろうな。せっかくの大商会も身内に盆暗がいるとたまらんだろうね。そう言えばリゼットのマイコレイジ商会にも盆暗兄貴がいるんだったな。金がなくなったら帰ってくるんだろうね。リゼットも大変だわ。




「ふぁあ、カースおはよう。よく寝たわ。少しドタバタしてたみたいね。何かあったの?」


「起こしちゃったかな。ごめんよ。実はね……」


寝室に消音をかけておけば良かったかな。




「へえ、番頭に会長ね。どうやら番頭は会長に内緒で白金大判を回収したかったようね。坊ちゃんに遊びを覚えさせて、いずれ代替わりした時に意のままに操るためってところかしら?」


なるほど。さすがアレク。


「あり得るね。でもあれが二代目じゃあ商会の未来も暗そうだね。それより今日は何しようか? 昨日はいきなりここに来たしオワダの街をゆっくり散策するのもいいかもね。」


「いいわね。外の国って初めてだしローランド王国との違いを楽しむのもいいわね。」


「よし、決まりだね。じゃあその前に朝食だね。」


ちなみに担当さんを呼ぶ時はボタンを押せばいい。たぶん呼び鈴の魔道具と似たようなやつだろう。


「お呼びでこざいますか?」


「朝食を頼むよ。」


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」


通常なら朝食の時間は決まっている。だがここは特別室。ここの客はそんなの気にせず好きな時に食うことができる。ちなみに今の時刻は十時半ぐらいかな。

メニューの要望を聞かれたのでお任せでと頼んである。どんな朝食か楽しみだ。




「お待たせいたしました。」


ほうほう……これは……


おにぎりだ! マジか!


「こちら米球こめだまと申しまして我が国の穀物を握り固めたものです。中には色々な具が入っておりますので食べてからのお楽しみとなっております。」


「ああ。ありがとう。後はいいよ。こっちでやるから。」


「かしこまりました。それでは失礼いたします。」


わくわくだ……直径わずか五センチ程度の米の球。俵型でもなく、三角でもない。ボール型だ。とりあえず一口……


「旨い!」


「美味しいの? じゃあ私も……」


私が素手で食べたのを見て、アレクも手掴みでおにぎりを食べる。箸とフォークは用意してあったのだが、やっぱおにぎりは素手だよな。


「美味しいわね。中に魚を塩辛く焼いたものが入っていたわ。これ、お米って言うのよね。魚と相性がいいわね。」


「ガウガウ」


全然足りないって? カムイの分はこっちだろ。明らかに大きさが違うじゃないか。

カムイ用のおにぎりは直径二十センチはあるな。コーちゃん用のは直径二センチぐらいかな。心遣いが嬉しいね。さすがオワダで一番の高級宿、サービスいいね。あー美味しい。


なお、他には梅干し、何かの肉、たくあん、甘く煮たエビ、イカっぽい何か、明太子っぽい何か。など色々な味を楽しむことができた。すっかりお腹いっぱいだ。味噌汁も堪能したことだし。

アレクが醤油や味噌の味を自然と受け入れてる感じがいいね。外国人によっては気に入ったり苦手だったりの差が激しいとかって聞くしね。満足。

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