第1209話 番頭ケチド
もちろん私達は朝まで付き合う気などない。一時間ほどで店を出た。エールだけでなく日本酒に近い酒も楽しめた。やはり米がある国ってのはいいものだ。
すっかり夜の帳がおりてる。昼に比べると幾分涼しくなったかな。ここから宿までは歩いて十五分ってとこか。その道中で絡まれた。
「おおーっとこいつだべぇ? 坊ちゃんに恥ぃかかせやがった他所者ぁよぉ?」
「おー間違いねーべや? おらおらガキぃ! 有り金ぜーんぶ出して謝れや!」
「そーそー! そんだら許してやらんこともねーべぇな?」
「そんじゃこっちのねーちゃんは俺に任せとけぇ! 金ぁいらんでのぉ!」
なぜこいつら系はローランドでもヒイズルでも同じなのだろうか。チンピラあるあるなのか? たった七、 八人しかいないってのに。
『麻痺』
『水壁』
そして、ちょいと路地裏へ移動して拷問して契約魔法かけて吐かせた。
ふむふむ。私を狙った理由はあの坊ちゃんとこの商会の覚えを良くするためなのね。今のところ私に賞金がかかったわけでもないと。とりあえず懐の有り金を全部いただいて新たに契約魔法をかけてやった。内容は真っ当に生きること。いやーいいことした後は気持ちがいいな。
それからは宿に戻ってアレクとイチャイチャ。今日もいい日だったな。
翌朝、誰かが部屋をノックする音で目が覚めた。担当さんかな。
『金操』
「開いてるよ。入っていい。」
正確には今開けたんだがね。
「失礼いたします。朝から申し訳ございません。マーティン様に来客でございます。いかがいたしましょうか?」
「誰かな?」
「それが……クウコ商会の番頭ケチド様です。」
「ふーん。まあいいよ。ここに呼んでもらおうか。」
あの坊ちゃんとこの番頭ね。何の用なのかねえ。
『水球』
『乾燥』
『換装』
寝癖も直して身だしなみバッチリ。さあいつでも来るがいい。
「失礼いたします。お客様をお連れいたしました。」
「入っていいよ。」
担当さんの後ろから現れたのは、まあまあ太った男だった。中太りって感じかな。それに護衛っぽいのが二人か。
「お初にお目にかかります。クウコ商会番頭のイスゴ・ケチドと申します」
「カース・マーティン。朝から何の用かな?」
「あなたが坊ちゃんから脅しとった白金大判を返していただきたい。あれは坊ちゃんの小遣いなどではない。れっきとした商会の財産なのです」
何言ってんだこいつ……
「あきれて物が言えないな。こっちは最愛の女を賭けてたんだぞ? あれ一枚じゃあ安いぐらいだ。もし俺が負けてみろ。あの坊ちゃんが女を返してくれるとでも言うのか? それも手をつける前にだ。」
「ご大層な二つ名をお持ちのようですが、それがこの地で通用するとは思わない方がいいですな。まだお若いからご存知ないとは思いますがね?」
こいつ交渉する気なしかよ。何しに来たんだよ。きっとオワダでクウコ商会と言えば誰もが道を譲ってるんだろうな。調子に乗ってるな。
「ふぅ……二つ名や国王直属の身分証が金で買えると思うか? それ以前に俺はローランド王国でも最も辺境の地、クタナツの生まれだ。クタナツ者には人質も脅しも効かないってのはあっちじゃ常識だ。ご存知ないよな? それとも何か? クウコ商会が総力を挙げて俺を狙ってみるか? 受けて立つぞ?」
「そ、その言葉、確かに聞きましたからな! 商人を敵に回す事の恐ろしさをとくと思い知らせてやりますからな!」
言うだけ言って立ち上がり部屋から出ようとするが……
「待てよ。このまま無事に帰れると思ってんのか? 敵に回すって言ったよな? つまりお前はもうすでに俺の敵なんだろう? ならこの場で叩き潰しても不思議はないよな?」
二人の護衛が番頭と私の間に立ち塞がる。
「お逃げください」
「ここは危険です」
カムイ、頼む。
「ガウガウ」
カムイがさっと動いたら、護衛二人が腰に吊っていた剣が鞘ごと鍔元から切断されて床に落ちた。そして番頭に『麻痺』
やっぱりな。ロクに魔力がないようだ。簡単に麻痺が効いたぞ。
「お前ら二人はさっさと帰ってクウコ商会の会長を連れてこい。それまで番頭は人質だ。会長が来ないなら来ないで構わんがな。行け。」
おーおー、慌てちゃって。さて、その間に私は番頭とお話しするかね。
麻痺を一部解除。代わりに顔を闇雲で覆う。
「さーて、こんな時お前んとこの会長さんは来てくれるタイプだといいな。」
「きっ、きっさまぁ〜!」
「謝れば許してやるけどな。この港町じゃ一番の勢力を誇ってんだろうけど、敵わん相手はいるもんだぞ?」
フェルナンド先生とかね。
「う、うるさい! きさまこそ! 白金大判を返せば丸くおさまるのだ! この
「話しても無駄のようだな。そんなら会長が来るまで黙ってろ。」
『麻痺』
『消音』
さてと。のんびり待つとするかな。アレクもまだ起きてこないし。お茶でも飲みながら。
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