第1208話 バーでの一幕

担当さんに聞いてみたところ案内してくれるとのことだった。さすがにサービスがいいね。


「こちらでございます。どうぞお楽しみくださいませ。」


「ありがとう。帰り道は大丈夫だから。」


へー、いかにも隠れ家って感じなんだな。看板も出てないや。ドアも厚いな。少し重い扉を押して中に入る。


「へいらっしゃーい!」


バーじゃないのか……?


「二人と二匹だがいいか?」


「喜んでー! こちらへどーぞー!」


居酒屋なのか? でも内装はバーっぽい。カウンターが十席ぐらいで奥にテーブル席もある。あれ? あいつら……


「おい魔王じゃねーか! 来たんかよ!」


「お前らまさか昼前からずっと飲んでんのか……?」


パープルヘイズの奴らだった。


「あったりめーだろー! オワダに来たらここで朝まで飲むんが俺らの楽しみよぉ!」


男三人、いや他にもいるか……そんな面子で朝まで……やるなぁ……


「こっちに座れや! テーブルくっつけようぜ!」


えーっとリーダーがジンマで、もう一人がノエリアだったな。三人目の大男とは話してなかったんだよな。


「わいはロナール・ミッチェルだ。ミッチーとでも呼んでくれ。」


「カース ・マーティンだ。まあ……魔王で構わんよ。」


「アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルよ。」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


かけつけ三杯? コーちゃんたらそんな言葉をどこで覚えたんだい?


「あぁん魔王だぁ? えれぇご大層なあだ名じゃねぇかぁ? こぉーんなガキがぁ?」


「バカやめとけビムー! お前はバンダルゴウに行ってねーから知らねーだろうがよ! こいつぁやべぇんだって! なっ魔王?」


知らない顔もいるな。オワダの冒険者かな? 私にヤバいかと聞かれてもな。はいそうですとは言いにくいぞ。


「ぎゃっはぁ! パープルヘイズのジンマともあろうモンがぁ? こぉーんなガキにびびってやがるぜぇ! おらガキぃ? 何とか言ってみろやぁ!」


「口が臭ぇよ。飲み過ぎってだけじゃないな。風呂入れよな。」


「なんじゃあガキぃ! おんどれオワダん来てでけぇ口ぃ叩いてんじゃねぇどぉごぼぉ!」


おお、ジンマがぶん殴った。仲間思いなんだね。それから他のメンバーが引きずって店から叩き出した。


「今のはオワダの冒険者なのか?」


「ああ、すまねぇ。ザンタって奴なんだが、ちぃと酒癖が悪くてよ。まあ気にせず飲んでくれよ。」


ビムー? ザンタ? どっちが名前でどっちが家名なんだ?


「おう、いただくぜ。」


「ピュイピュイ」


コーちゃんはすでに飲んでいるけどね。


私とアレクの一杯目はエール。さてさて、ローランドのエールとどう違うのかな?


「あ、旨い。」


「ええ、美味しいわね。」


前世で飲んだプレミアムなビールに近い気がする。濃厚でまろやかって言うのかな。よく分からないけど旨いことに違いはない。


「おぉやっぱ魔王も女神もいける口かぁ! とことん飲もうぜなぁ!」


「おう。ついでに酒飲み話なんだがよ。今の国王って評判どうなんだ?」


「あぁ? 酒がまずくなる話すんなよぉ? そもそも俺たちゃイカルガの冒険者なんだぜ? あっちじゃ冒険者は別名『探索者』とも呼ぶんだがよ! 迷宮ダンジョンの事は知ってるか?」


「ああ、三つあるそうだな。」


「おおよ。この国の冒険者ぁほとんどが迷宮を奥まで攻略するのが夢なんじゃあ! それがよ? ジュダが天王、ああ国王のことな、になってから一年もしねーうちに騎士以外が迷宮に入ることを禁止する法律ができやがった! 騎士以外でも入れなくぁねぇんだが、迷宮での収穫の八割を税として取られちまう! 契約魔法をかけられちまうからごまかしは無理だぁ! クソがぁ!」


「ふーん。迷宮ってのはそんなに美味しい所なのか?」


「まあな。腕がありゃあそれなりに稼げるぜ。まあ死亡率も高ぇけどな。噂によるとあのムラサキメタリックも迷宮で手に入れた素材が元になってるそうだぜ?」


へー。例えばムラサキメタリックを独占するためとか、それ系の理由がありそうではあるな。


「ふーん。ヒイズルも大変なんだな。つーか騎士を迷宮に潜らせるってよくそんなに人数に余裕があるな? 騎士団ってのは維持するだけで金を食うってのに。」


「不思議なんだがよぉ……イカルガの国王直属の親衛騎士、通称『赤兜あかかぶと』どもぁ国王への忠誠が並じゃねぇみたいでな? 迷宮で得た素材のほとんどを国王へ直接上納してるそうだ。そうすると迷宮産の素材は王家の専売になるわな? くっそ儲けてるって噂だぜ?」


「へー。商売上手なんだな。つーか反乱とか起きねーの? 税も重いんだろ?」


「起きたぜ? 俺が知ってんのは三回ほどだな。一度目は冒険者達、二度目は地方貴族。三度目も冒険者達だった。結果ぁどれも惨敗。理由は赤カブトが強ぇーからだ。奴らの剣の腕ぁそこそこだがよ? 厄介なのは鎧だぁ。あいつら普段は赤い鎧を纏ってやがるんだがよ? 接近戦とかになるとムラサキメタリックの鎧に『換装』しやがんだ! ムラサキメタリックは親衛騎士団しか持ってやがらねぇしよ。冒険者や地方貴族軍も相手にならなかったそうだぜ?」


「へぇー。色々あったんだな。」


この分ではあの女騎士が着ていた赤い鎧と親衛騎士の赤い鎧では性能が全然違うってことか。しかも普段からムラサキメタリックの鎧を着用してないのは魔法戦もありえるからかな。換装が使えるんなら接近戦になる直前でも十分間に合うもんな。つーかムラサキメタリックが王家の専売ってことは偽勇者や教団にあの鎧を流したのはヒイズルが国ぐるみでやったことになるじゃん。マジでジュダって奴はローランド王国を攻める気ってことか。バカな奴。


まあいいや。私が難しいことを考えても仕方がない。今夜は楽しく飲もう。エール以外も飲みたいしな。少し酔いが回って頬を赤くするアレクの色気に私が酔いそうだし。

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