第1203話 海の天国館
仕事をやる気のない騎士達と少し話してみた。どうやら通報があったのは本当らしい。クウコ商会の坊ちゃんが危ないと。それであの姉ちゃんは張り切って出張ってきたと。どうやらまだ鼻薬は嗅がされてないが、商会の覚えをよくしておきたいって魂胆がある……とは下っ端達の意見だ。
で、赤い鎧は騎士の中でも身分か実力が高ければ支給されるちょっといいやつらしい。あれでねぇ? まあ、私の金操の威力がどんと上がってるってこともあるわな。
「とまあそういう訳で、あれは正当な決闘だ。問題あるか?」
「いやーないねー。お疲れー行っていいよー」
「いいんだけどさー、俺らもせっかく来たんだしー? なーんか忘れてない?」
「そーそー。俺らーいい仕事するぜ?」
「うーん、喉が渇いたなー。何か飲みたい気分だぜー」
「仕方ねーなー。これで何か飲めよ。」
坊ちゃんが最初に落とした一万ナラーをくれてやる。
「まー、こんなもんか。毎度ー」
「オワダにようこそ!」
「オワダの治安は俺たちが守る!」
「そんじゃ行っていいよー」
「お、おお。じゃあな。」
清々しいほどの汚職騎士だな。他国のことだから別にどうでもいいけど。
よし、今度こそ宿だ。いい加減眠いんだよな。アレクからの圧もすごいし。早く宿に行かねば。
ちなみに海の天国館まではジンマ達が案内してくれた。そこの近所に旨いバーがあるそうなので、ついでだそうだ。気になるな。
ほおー。ここか。木をふんだんに使った和風に近い建物だ。田舎のお寺を何倍も大きくした感じだろうか。
「いらっしゃいまし。ご宿泊ですか?」
「ああ、二人と二匹で一週間ほど頼むよ。空いてるのなら一番いい部屋がいいな。」
「離れの特別室が空いております。こちら一泊二百四十万ナラーとなってございます」
へー、フランティアで一番の宿のスイートよりちょい高いのか。しかも私が二週間かけて稼いだ額が一泊分かよ……
「オッケー。じゃあ一週間ほど頼む。前金かい?」
「いえ、出られる時にいただいております。それではこちらにご記入をお願いいたします」
あー宿帳ね。嘘をつく理由もないし、正直に書くとしよう。
「ありがとうございます。カース・マーティン様、アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル様。それではお部屋にご案内いたします」
受付のお姉さんがそういうと、どこからともなく案内係が現れた。細身で上品な婦人だ。
「離れのお部屋、
いかにも旅館の中居といった風情の婦人に案内され廊下を歩く。ようやく異国情緒を感じたぞ。
一度建物から外に出て、これまたいかにもな和風庭園を歩く。うーん、これはいい。勝手に名付けるなら……雪舟庭ってとこだろうか。いいなぁ。
そんな風流な庭の一角に私達が宿泊する離れはあった。あれは数寄屋造りってやつか? いい感じだな。
「ここからお入りくださいませ。なお、こちらの白砂ですが、こちらでお履物をお脱ぎいただくことになっておりますので、よろしくお願いいたします。代わりにこちらをお履きくださいませ」
「ああ。分かっているよ。」
そもそも私の邸宅はどこも土足厳禁だからな。楽園だってそうだ。入口で靴を脱いで入らせてるんだからな。だからアレクも室内では裸足の方が慣れているのさ。
そうしてスリッパというより草履といった履物を履き、室内へと立ち入る。この匂いは……まさか!
「あれは畳かい?」
「さようでございます。ローランドのお方なのによくご存知で」
「あれが欲しくなったらどこで買えばいいかな?」
「カース?」
さすがのアレクも私の唐突な発言にびっくりしたようだ。宿代を聞いても顔色ひとつ変えなかったくせに。
「我が国の南西部、ヤチロの里で生産されております。ここからですと馬車で一週間ぐらいの距離でございます」
「なるほど。ありがとう。参考になったよ。」
先に買っておいてもいいし、帰る前に買ってもいいな。むしろ先に注文を出しておいて帰りに受け取るか……そうだな。それがいい。たぶん百畳ぐらい買うと思うし。領都と楽園の自宅に和室を作ってやるぜ。
「では何かございましたら遠慮なくお申し付けくださいませ。それではごゆるりとお過ごしください」
「ああ、ありがとう。おっとそうそう、これみんなで食べてよ。」
チップ代わりにお土産を渡す。まだまだ在庫はたくさんあるルフロックの肉だ。
「まあ! 美味しそうなお肉でございますね! ありがたくいただきます」
こうして案内係は去った。ここから二人だけの時間だ。
「さて、アレク風呂にっ」
私の口は最後まで言葉を発することなく塞がれてしまった。アレクの口によって。そしてそのまま押し倒されて……
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