第1194話 深夜の襲撃
私は甲板に降り、船長の隣に立っている。こういう時って操舵室とかに行くもんじゃないのかな? 波飛沫がかなり飛んでくる。さすがに転覆するとは思えないが、かなり揺れている。私は少し浮身を使ってるせいで、周りの景色だけがぐらぐらと揺れて気持ち悪い。遊園地でよくある、周りだけが動いて自分は座ったまま動かないやつのようだ。酔ったらどうしよう……酔わないために浮身を使ってるのに……
「船長! 波の中に何かいます!」
「何ぃ!? ちっ、大抵こんな時ぁ魔物も大人しくしてるってのによ……」
「とりあえず対策しておくぞ。」
『烈風斬』
波を水平方向に切った。
上半分は勢いを失い崩れ落ち、下はそのまま低い波のまま船へと迫る。中にいた魔物は……よし、上下に真っ二つになってる。
一瞬姿が見えたが、あれは……
「ちっ、
「まねんどろ? どんな奴なんだ?」
初耳の魔物だらけだな。見た目はスライムっぽかったが。
「ローランドじゃあスライムってんだろ? ヒイズルじゃあ湿原なんかによく居るんだがよぉ……厄介な奴だぜ……」
なんだ、やっぱスライムか。名前が違うって面倒だな。確かにあんまり見たことのない色、黒に近い緑だもんな。
「あれは群体だと思うかい?」
「いや、ヒイズルの魔粘泥はほぼ単体だ。だから魔石が見えりゃあ狙えもするんだが……」
なるほど。そうなると……私はあいつの天敵ってことになる。なぜこんか大海原まで来たのかは知らんがツイてなかったな。
『金操』
『金操』
『金操』
秘技、魔石のぶっこ抜きだ。色が濃くて魔石の位置なんか分からないから手当たり次第だ。どうせ体の中心辺りだろう。三回目でヒット。私は魔石をゲットし、奴は海に溶けるかのように消えていった。
「さあ船長。船を頼むぜ? こいつはサービスだ。」
『浄化』
「お、おお……すまねぇ……」
よし、寝ようかな。でもこの揺れ具合……とても寝れそうにないな……
仕方ない。もう少し船長に付き合うとしよう。
いつの間やらもう夕方。しかし依然として波は高い。夜の海でこの波の高さ……大丈夫なのか? 風だって強くなってるし。
「今日はここまでだな。てめぇらぁ
おっ? ひょうちゅう? 何をするんだ? 船長が何やら次々と指示を出している。横流れ角とか舵角とか当て舵量がどうとか言ってるが全く意味が分からない。うーん、海の男だねぇ。
「カース、待ってたのに。服を脱いで待ってたのに……」
「ああ……アレク……ごめんよ。結構危なかったんだよ。アレクが乗ってるんだからこの船ってもうアレクの御座船だよね。だから絶対沈めたくなかったんだよ。」
「もう……カースったら……いつもありがとう。」
「アレク……」
「カース……」
「おめぇら甲板でイチャついてんじゃねぇよ……この船ぁ女が少ねえんだからよ……」
そんなの知ったことではない。アレクの赤き唇をたっぷり味わってから持ち場につく。あー眠い。もう二、三日はこの海域を航行するんだったな。あー眠い。そこらに横になろうにもめっちゃ揺れるんだよな。浮身を使うのをやめたら、たちまち酔ってしまいそうだ。でも眠い……
「カース、眠いのよね? よかったらどう?」
「アレクぅ……ありがとう! ぜひお願い!」
左舷の甲板でアレクが膝枕を誘ってくる。ぬうう、最高だ。この世の何よりも滑らかな太もも。私を魅了して離さない……
今にも寝そうだから『魔力探査』は無理だ。せめて『範囲警戒』だけでも張っておこう。これは自動だもんな。波に反応してしまいそうだから、そこは調整が必要だが……あぁ、だめ、もう寝る……
『覚醒』
「ぐむっ、おお、あぁおはよ……」
「カース、魔物よ。起きて。」
アレクの魔法か。うーん、目が覚めた。
「あぁ、あっちから来てるね。他の夜番にはもう知らせた?」
「ええ、さっきね。もうすぐ集まるからその前にカースを起こしておいたの。」
「うん、ありがとね。最高の枕だったよ。」
よーし、目覚めはスッキリだ。張り切って魔物を撃退してやるぜ。北から来てるな。
『暗視』
あれは……セイレーンかよ……
近くに小島でもあるのか? こんな大洋のど真ん中に現れる魔物じゃないだろ。
『セイレーンだ! 歌を聴くんじゃないぞ!』
一応忠告だけはしておこう。操船の都合があるだろうから『消音』を使うわけにもいかないしね。
左舷に冒険者達が集まる。
「てめぇら耳栓だぁ!」
「間隔をもっと開けろぉ!」
「同士討ちだけぁすんじゃねーぞ!」
うんうん。ここ数日で今回の面子は練度が高いことが分かっている。私も安心して戦えるというものだ。
ひゅいぃぃぃひょぉぉぉぁぁぁ……
ん? 今の不吉な音は……
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