第1195話 人魚大歌姫
ひゅいぃぃぃひょぉぉぉぁぁぁ……
この気味の悪い声……聴き覚えがあるな。どこだったか……そうだ、グラスクリークだ。てことは、この声の主は……セイレーン・オケアノスか!
『みんな! セイレーン・オケアノスだ! ヤバい歌を歌いやがるから魔力が低い者は気合で耐えろ!』
ひゅいぃぃぃひょぉ『グオオオオオォォーーーーン!』
なっ!? カムイ!? 奴の歌声を『魔声』でかき消しやがった!? やるな……
『うちの狼がやってくれたぜ! ガンガン攻撃していいぞ!』
ピンチになる前に対処が終わるってのはありがたいね。カムイありがとな。
「ガウガウ」
では私は大海原へ飛び出すとしよう。普通のセイレーンならこいつらでも問題ない。ちょっと上半身が美女で貝殻でも砕く丈夫な歯と顎を持ってて危険な歌声が響くだけだ。
「アレク、ここを頼むね。僕はセイレーン・オケアノスを狙ってくるから。」
「ええ、任せて。」
行くよコーちゃん!
「ピュイピュイ」
もし私が正気を失ってもコーちゃんが側にいれば問題なしだ。
さて、一際大きなセイレーン……母上は『無痛狂心』であっさり共食いさせてたよな。今回は肉や魔石が欲しいから普通に仕留めてくれよう。
『狙撃』
真下に向かって撃ちおろす。むっ? 逸れた!? 弾かれるならともかく逸れるだと?
『十六連弾』
一秒間に十六発のライフル弾を喰らえ!
脳天にぶち込んでやる!
ちっ、肩にめり込んだのが五発か。
ひゅいぃぃ……
ぐっ……『歌』か……ぬぐっ、効かん! 気合で耐えればいいんだ!
そして、せっかくだから新兵器を試してやる……
『円月輪』
直径四十センチ、オリハルコン製、薄刃の輪っかだ。めちゃくちゃ切れるぜ。こいつを『金操』で飛ばす! 狙いは、首だ。
うげっ……狙いが逸れてしまった……つまりこいつの防御は魔力的なものではなく、風的なものだったってことだな。オリハルコンって動かすだけでそこそこ魔力を消費するんだから。しかも薄っぺらいから風の影響は受けやすいんだよな。国王のドラゴン、ヘルムートのように暴風で体を覆っている可能性もあるし。
でもまあ、目の高さで頭を切断できた。
うーん、キモい……
まあいいや。沈む前に収納しておこう。
『浮身』
海が荒れてるからあんまり海面には近付きたくないんだよね。ここまでおいで。
セイレーン・オケアノスの肩に触れて収納っと……できない!? 慌てて肩から手を離そうとするも……腕を掴まれた!? マジで!? 生きてる!
くっ『円月輪』!
横から首を刎ねた。だが力が緩まない! くそぅ『身体強化』
無理矢理引き剥がす! なんて握力だ……死後硬直みたいなものだろうか……
ふう、もう動いてはいない。背中に手を当てて『収納』
ほっ、できた。これで終わりだ。やれやれ。あーあ、シルキーブラックモス製のシャツの右袖がズタズタになってしまった。こいつには自動修復なんてついてないのに。大赤字だぜ。やっぱ確実に死を確認してから収納しないとダメだな。
でもまあ、シャツの下にいつものエルダーエボニーエントの籠手を着けてなかったら腕を握り潰されてたかな。おー怖い怖い。
船に戻ってみると、数十匹のセイレーンが氷漬けにされていた。アレクの仕業か。
「よう、ボスは仕留めてきたぜ。ここも大丈夫そうだな?」
夜番冒険者達のまとめ役、パープルヘイズのノエリアに報告をする。
「おう。こっちも片付いた。彼女すげぇな。おかげで楽ができたぜ。」
「みなさんのご協力があったからよ。ほんの数秒、あいつらの動きを止めてくれたのが大きかったわ。カース、半分ほど収納をお願い。」
さすがアレク、分かってるな。
「いいよ。残り半分はどうするの?」
「みなさんで山分けしていいわよ。そのために氷漬けにしておいたの。よかったらどうぞ。」
「マジかよ。太っ腹な彼女だな! いや、細いけどさ!」
たかが数十匹のセイレーンでは全素材を売ったとしても私のシャツ代にもならないしね。半分でも誤差の範囲だよな。
冒険者達は誰がどの個体を得るか相談している。
「それにしてもあの声ぁヤバかったぜなぁ?」
「おお、意識ぃ持ってかれるかぁ思うたぜぇ?」
「ローランドじゃあセイレーン・オケアノスっつーのか?」
「ヒイズルじゃあ
「あいつが人魚大歌姫を仕留めたんがデケぇぜのぉ!」
「それにまさか北から来るとぁな? 大抵は南から海流に乗ってくるんだがよぉ?」
「まあ大抵ってだけだしな。海なんて丸ごと大魔境だからよぉ。ワケ分かんねーよな?」
「おーし、そんじゃあ夜番の続きすんぞ! 持ち場につけやぁ!」
冒険者達は各々の分け前を手にして元の場所へ戻っていった。
「アレクもお疲れだったね。いい手際だったようだね。」
「ありがとう。彼らが上手く立ち回ってくれたからよ。いい位置、いいタイミングで魔法を撃つことができたわ。」
「じゃあ今度はアレクが寝る? 膝枕するよ。」
「ありがとう。じゃあ、甘えさせてもらうわね。」
甲板に足を投げ出し座る私。そこにアレクの頭がふわりと乗る。海の香りも悪くないがアレクの香りが一番だな。なんて芳しいんだろう。これなら酔わずに済むかな?
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