第1181話 真夜中の刺客

それから一眠り。


うつらうつらと目が覚めてきた頃、アレクに襲われてしまった。朝から元気なんだから。いや、もう朝じゃないな。




「ふぅ……はぁ……ねぇカース。あの二人の男はどこの刺客かしらね?」


「普通に考えたらエチゴヤとかスローターズってとこかな。もしくは昨日壊滅したシーブリーズの仇とかね。」


「どうせ後で尋問するんでしょ?」


「そのつもりだよ。朝方は眠かったからカムイに任せて放置してたんだよね。そろそろ起きようか。ランディ達も来そうだし。」


ふぁーあ。まだ寝ていたいけどな。昼過ぎに来いって言えばよかった。とりあえず尋問するかな。




死んでる……




もー、カムイが居てどういうことだよー?


「ガウガウ」


全然動かなかった? 気が付いたら死んでた?

あーあ。てことは使い捨ての下っ端かな。ここの騎士団に届け出てもいいが、どうせロクなことにならないだろうな。いや、私はここの騎士長を知ってるから案外いけるかも。まあそれは後回しでいいや。


「アレク、悪いけど下に行ってランディかタムロを呼んできてくれない? 居なかったら居なかったでいいから。」


「ええ、分かったわ。」


さて、その間に私はこいつらの懐でも探っておこうかね。




ちっ、やはりロクな物を持ってない。

ろくに手入れされてないナイフ、毒っぽい液体が入った容器、汚いロープ。たったこれだけ。金めの物は何もなし。いかにも殺しに来ました、いや拷問しに来ましたと言わんばかりだ。なのに何で早々と死んでんだよ! とりあえずあいつらに首実検させたら収納しようかな。


うーん、外はいい天気だ。もうすぐ夏だし、こんな日は殴り込みなんて面倒なことはやめて海水浴にでも行くべきだな。そしてビーチで水着のアレクと……ぬふふ。


がたっ

ずりっ


ん? 今の音は?


私が背後を振り返ると、二人の死体が起き上がっていた。まさかもうアンデッドになったのか? いくらなんでも早過ぎじゃない?


「がおぉあぁぁ……」

「ぎぃびぁあ……」


両手を前に突き出し、定番のゾンビスタイルで襲ってきた。まだ全然腐ってない。死にたてほやほやだからかな。


『火球』


アンデッドは燃やすに限る。屋内でも床や天井に焦げ目すら付かない私の魔法制御は素晴らしい。我ながら惚れ惚れするね。あーあ、首実検もできなくなったじゃないか。




「カース、お待たせ。来てたわよ。」


「邪魔するぜ、魔王さん。」

「なんか臭えな……」


アンデッドを燃やしてこの程度の匂いで済む私を褒めてくれ。でもカムイとコーちゃんは窓から出て行ってしまったけど。


「おはよ。夜中に刺客が来てたみたいでな。朝にはまだ生きてたんだが、二度寝したら死んでた。そしてついさっきアンデッドになったから燃やしたんだわ。全く意味が分からん。タムロ、何か知ってるか?」


「たぶん『反死反命丹はんしはんめいたん』でも飲まされてたんじゃのぉ。エチゴヤの好きなやり方じゃあ。死んでからもコキ使いやがる。」


ふーん、そんなものがあるのか。闇ギルドっぽいもん持ってるじゃないか。タムロの説明によると、死後数時間でたちまちアンデッドと化す。しかも通常のより強力だそうだ。しかもそれを飲むと生きてる時の力まで強くなるそうだ。代わりに半日以内に対応した解毒剤を飲まないとそのまま死ぬと。例によって逃亡や失敗を許さないってわけね。闇ギルドの考えることってのはどこの国でも同じってわけか。あーやだやだ。海や盆暗騎士長の所に行く気分じゃなくなってしまったな。もう、今すぐエチゴヤを潰したい気分だ。


「じゃあ行こうか。タムロ、案内な。」


「行くのぁええけど末端なんか潰しても意味ないどぉ?」


「あー、まあいいさ。行ってから考える。」


「カースらしいわね。男らしくて素敵だわ。」


アレクが言いたいのは正確には、クタナツの男らしいってことだろうな。照れるぜ。


例え今回で潰しきれなくたって構うことはない。どうせ私達はもうすぐヒイズルに行くんだから。巻き添えでクタナツの両親が狙われるってことも考えられるが、それはそれで私が楽をできるだけのことだ。

それに、ヒイズルでエチゴヤの本拠地を探してもいいしね。いやいや良くない。私達は旅行に行くんだ。何が悲しくて闇ギルド潰しなんかするんだよ。楽しい観光をするつもりだってのに。




少々歩いて再びスラムへ。ここのスラムも広いんだよなあ。絶対迷子になるよ。


ここか。やはりどこから見ても他の建物との区別など付かない。知ってなきゃどうにもならんな。さて、入ってみるか。

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